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大人の漫画読み

漫画/「ギャングース」肥谷圭介 


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(肥谷圭介「ギャングース」全16巻)

 

 

最近、実写映画化された肥谷圭介の「ギャングース」はなんか考えさせられる漫画だ。

ここに登場する18歳の少年、カズキ・サイケ・タケオの3人は犯罪集団だけを狙うタタキ屋(窃盗団)である。

それは別に義賊とかじゃなくて、犯罪者だったら警察に被害届が出せねーだろっていうね。

しかしこれってヤバいだろうって素人でも思う。

なぜそんなヤバい事をしてるのかと言えば、親からの虐待が原因で、養護施設や少年院を転々として成長した彼らには帰る家がないのだ。

3人は少年院で知り合ったのだが、少年院から出ても行く所がないからホームレスだし、職にもつけないんで結局は食う為に犯罪者になってしまうんだな。

小学校も満足に通ってない彼らは、何も知らないし漢字もよく読めない。

でも3人の中でもイケメンなサイケは、常に電子辞書を持ち歩いてて、知らない言葉はすぐ調べたりね、なんか努力家。

このサイケが3人の中で情報収集を担っていて、タタキのネタを集めてターゲットを選定している。

ただしイケメンゆえ腕っぷしは弱い。

そしてブタとかバカとか言われながらも、何かを持っているっぽいヤツ、カズキが本作の主人公だ。

カズキは少年院での技能実習を熱心に受けてたから(と言うか同房者からのイジメでそいつらの課題までやらされていた)工具に詳しい。

こういう技術系の知識を持つ人がいないと、たとえば事務所に忍び込んで大型金庫を運び出すにしても、素人には難しいんだよね。

空気を読まないカズキはクソ度胸の怖いもの知らずで、とにかく打たれ強い。

あと、アメ車をこよなく愛し抜群のドラテクを持つタケオがクルマ関係全般を担当している。

サイケやカズキより身体が大きくて力もあるのに、見かけと違って吃音があって優しくて泣き虫だ。

だから二人は親愛を込めて、タケオちゃんと呼んでおるのだ。

 

日本の社会の最底辺で、大人たちから見放されたように生きる彼らが頼れるのは仲間との絆だけだ。

でも描かれてるのは甘い友情物語なんかじゃない。

たとえばサイケが歩きずらそうにしてて何度も転ぶので見ると、足が象みたいになっている。

カズキは「てめぇ何日横になって寝てねーんだよ」と問い詰める。

路上生活が一ヶ月も続いて、何日も体を横にして寝てないと、足が鬱血して象みたいに膨らんで、マジで痛くて歩けないんだそうだ。

カズキとタケオはその足を見て「ザクみてー」とか「い、い、いや、ド、ドムだ」と笑いにしようとするが、ネタ探しに奔走して横になって寝る事も忘れてたサイケは、ああもう早く楽になりたいと悲観的になってしまう。

ところがカズキは慰めるどころか、お互い血が流れる位の激しい頭突きをサイケにお見舞いし「目が覚めたか、寝言言ってんじゃねーよ」と言うのである。

厳しいのぉ。

 

金がない彼らの唯一のご馳走というのは牛丼で、少年院から出てきたサイケを先に出院していたカズキとタケオが待っていて牛丼屋に誘う。

肉と濃い味付けに飢えてたサイケは、食べたとたんに涙が自動的に溢れてきて止まらなくなる。

並んで牛丼を食いながら「クソみたいな自分の人生にも笑える奴らがいる」と、サイケは思うのだ。

 

だが、悲壮感みたいなのはまったくないぞ。

常識人で上昇志向のあるサイケを、マイペースなカズキが振り回し、緊張感みなぎるはずのタタキの現場もなぜかコミカルで笑いを誘う。

 

サイケは同窓の洋介がプレイヤー(電話をかける役)として所属している、振り込み詐欺店舗のアガり(収益金)に狙いをつける。

チョイチョイ飛び交う裏稼業人の隠語やその行動の解説などは、欄外に注記されてるのでそこも読む。

洋介の情報で、事務所の見張りがトイレでコンビニに行ってる隙に、侵入して大型金庫ごと盗んできちゃう。

開けてみると現金と名簿が入ってたので、沈め屋(盗品を現金化する)のヤンに連絡し買い取ってもらう。

ヤンは同じ少年院出身のチャイニーズマフィアで、普段は叔父さんの中華屋を手伝っている。

金にシビアな面があるが、華僑の人脈もあるヤンを3人は頼りにしている。

 

犯罪集団だけを狙うという危険を犯し、次々と窃盗を敢行していく3人の姿はとても痛快だ。

建築資材専門の窃盗団が盗品(発電機とか電動工具とか銅線とか鉄骨とか)を隠してあるレンタル倉庫へ押し行ったり。

山奥で開催されてるレイブに潜入して脱法ハーブを奪ったりね。

ある日キャバクラに情報収集に出かけたサイケは、その店の嬢から「風俗の広告代理店が国勢調査をしてた」という妙な話を聞き込む。

サイケが道具屋の高田に聞いてみると、それは下見屋が名簿を作っているのだと教えてくれる。

道具屋の高田は、トバシ携帯から銀行口座や法人の登記書まで、犯罪に必要な裏ツールをなんでも揃える闇商人だ。

高田によると振り込め詐欺のターゲットに使われる「カモ名簿」や何度も詐欺に引っ掛かるカモばかり集めた「おかわり名簿」など、裏稼業人向けにあらゆる名簿が作られているのだという。

下見屋とは、その名簿をさらに絞り込むプロで、国勢調査を装い様々な事を聞き出しては、騙されやすさのランク付けまでしているのだった。

 

カズキとサイケはこの下見屋の名簿を盗み出し、現在は高齢者ばかりが溢れている南ニュータウンが、裏稼業人がやりたい放題の「カモ老人村」となっている事を知るのだ。

3人は南ニュータウンで、押し買い業者のトラックの跡をつけて保管場所を突き止め、コンテナごと盗品をタタく事に成功する。

ところがなぜか現金化をあせるサイケは、ヤンがチャイニーズマフィアと交渉中の現場に乗り込んで、即金で買い取ってくれとか言い出すのだ。

サイケはいきなり頸動脈を切りつけられ、ほんまもんのチャイニーズマフィアのチョーヤバい迫力に一同凍りつく。

実はサイケはたった一人の兄がヤクザ相手に大変な事になってて、早く二百万円持ってかないと海外へ治験に送られちゃうのだった。

 

カズキのここ一番のミラクルを信じる重傷のサイケに頼まれ、カズキは金を持って講談会のヤクザ宮島の事務所へ向かう。

ところがサイケの兄だから助けに行ったのに、待ってたサイケ兄は弟と似ても似つかぬキモいブサイクで驚愕。

昔はサイケ同様イケメンだったのだが、殴られ過ぎたり過酷な環境で別人みたいになってしまったらしい。

ヤクザの宮島に脅されて全裸にされてしまったカズキ。

その背中には、過去の虐待やイジメによる壮絶な傷痕があったのである。

その背中を見た宮島は閃く。

「てめー、バックスカーズってやつだろ?」

裏稼業人専門のタタキ屋が、全員背中にひどい傷があるから「バックスカーズ」と呼ばれている・・・・・

自分たちの知らない所で有名人になってて、しかもバックスカーズなんて呼ばれてた事を、カズキは初めて知ってビビリまくる。

そして、以前大型金庫を盗んだ振り込め詐欺事務所が、「六龍天」なる半グレ集団の物だったと知るのだ。

 

ギャングースは、裏社会や貧困に生きる少年たちを取材した、ルポライター鈴木大介の「家のない少年たち」が原案となっている。

作画を担当した肥谷圭介は、モーニングで賞を取った後に担当からの企画で描いた初連載だ。

作画がちょっと好き嫌いが分かれるかもしれないが、ストーリーはかなり面白い。

振り込め詐欺や組織的窃盗などの、犯罪の手口やその背景がすごくリアルに描かれている。

だから防犯に役立ててという一方で、日本の子供の貧困や虐待問題を扱った社会派漫画でもある。

原案者の取材力としっかりしたストーリーに、ヘタなのかウマいのかよくわかんない作画が逆にリアリティを感じさせるのだ。

日本では7人に1人の子供が貧困なんだそうである。

この豊かな国で信じられない数字だ。

子供の貧困が社会問題化してる一方で、日本の金融資産の6割は60歳以上の高齢者が占めているという。

作中でサイケは言う「ジジババには国が介護だの福祉だのに金使いまくってんのに、ガキ放っぽらかしなのは単にガキに金かけても選挙の票になんねーからだ。そんで日本中の金使わねーで溜め込んでるジジババこそ日本のガンじゃねーかよ」って。

そんなの屁理屈だ、自分を正当化しようとしてるだけだ、犯罪をやっていい理由にはならない。

とは、この漫画を読んだら言う気にはならないだろう。

日本人て自己責任が好きだけど、生まれた時からずっと被害者だった彼らが犯罪者になってしまったのは、彼らだけの責任なんだろうか。

低所得で貧困に喘ぐ親から生まれた子供もまた貧困なんて、こんな負が負を生む世の中の流れには疑問を感じる。

親の虐待で子供が亡くなる事件も後をたたないし、子供や家族に対して国レベルで対応してほしいと思うのだ。

と、まあ色々考えさせられてしまう作品なんだが、かわいそーと言うよりは、すごいバイタリティで捨て身で生きてる彼らの姿はとても面白い。

面白いと思うが、ラストには賛否両論あるだろう。

貧困と虐待の負の連鎖の中で生きる子供たちの現実は厳しい。

だからせめて漫画の中でくらい夢見る事を忘れないでくれって、

このラストには作者の優しい願いがこもってる気がする。