正月暇だったので、「悪魔のようなあいつ」をアマゾンプライムで有料視聴した。
昨年何かと話題だった沢田研二さんが1975年に主演したテレビドラマだ。
なんかもーね、面白かった。
あと若き日の沢田さんが超絶かっこよくて、て言うかもー美しいのよ。
そんなわけですっかり心を奪われてしまったのだ。
1975年、横浜山下町。
加門良(沢田研二)はクラブ「日蝕」でギターの弾き語りをする歌手だ。
それだけでは食っていけず、クラブのオーナー野々村(藤竜也)から斡旋された女性を相手に売春していた。
良は一晩10万で買われる高級コールボーイだった。
良には二つの秘密があった。
一つ目は、グリオプラストーマという悪性の脳腫瘍に犯されていた事だ。
突発的に起こる発作は激しい頭痛や痙攣をともない、良を悩ませていた。
そんな良につきまとう怪しげな影があった。
良が以前働いていた八村モータースの社長八村(荒木一郎)が妻のふみよに命じて、良の身辺を探らせていたのである。
八村が疑っていた良のもう一つの秘密。
良は7年前に起こったあの「三億円事件」の犯人だったんである。
うーん、有名なアレね。
その時効がいよいよ今年の12月10日に迫っているわけ。
その日を心待ちにしている良は、自分への疑いを誤魔化す為に暴力とセックスでふみよと関係を持つと、彼女をまんまと丸め込んでしまうのであった。
ある日、「クラブ日蝕」に三億円事件を執拗に追う刑事白戸(若山富三郎重鎮)が現れる。
良が三億円事件の犯人だと睨む白戸は、八村を拷問して話を聞き出すと八村モータースに居座ってしまう。
八村とふみよは当然ながらすごい迷惑そう。
だが事情を知らない八村の母親(浦辺粂子)とは、なんでか意気投合。
八村家のお茶の間でちゃぶ台を囲んで一緒に飯を食う重鎮。
ご飯をおかわりしたり遠慮がない。
なんか謎のホームドラマ的ノリに(ー_ー)!!
一方、良は頻発する発作に耐え兼ね病院で主治医(金田竜之介)を暴行、余命半年持ってあと1年だと聞き出す。
やけっぱちになり電車の中で知らない人にからんだりしてひと暴れした後に、以前自分を買った事のある恵い子(那智わたる)に再び買われる。
でも胸にポッカリと穴があいてしまったかのように虚しい気持ちの良は、恵い子からもらったお小使いの札束をトイレに流してしまうのだ。
トイレ詰まらないのかな、と余計な心配をしていると
「何億あっても買えない物がある。人の気持ちと命だ」とつぶやいた良が恵い子相手にまた暴行してるんである。
三億円の隠し場所を探して、重鎮は良の住まいを違法に捜索し部屋の中を滅茶苦茶にしてしまうが金は見つからない。
実はその金は、足が不自由で入院している良の妹いずみの車椅子に隠してあったのだ。
その車椅子からはみ出していた万札(聖徳太子のお札デカッ)に、気づいてしまった看護師静枝(篠ヒロコ)を良はまたもやセックスで自分の虜にして疑惑を誤魔化してしまう。
部屋で一人になった良は、新たな隠し場所に移す為車椅子から三億円を取り出しベッドに並べて眺めたりしてみる。
うれしそう。
できれば峰不二子みたいに全裸で札束の上に寝たりすればいいのに・・・
その頃八村はふみよに子供が出来たので大喜びしていた。
でも実はお腹の子の父親は良だったのである。
そして麻雀の負けがこんで借金がすごい事になってた八村。
オカマのやくざ(伊東四郎笑)からの取り立てにあってにっちもさっちもいかない状況に陥ってたのだ。
「クラブ日蝕」では、良が車椅子から取り出した1枚の一万円札を野々村に見せていた。
良「捜査関係者しか知らない、一万円札の中にナンバーが控えられている物があると言ってたけど、本当に野々村さんはそのナンバーを知らないのか?」
元刑事の野々村は顔色を変えてその札にライターで火をつける。
すると突然現れた重鎮が野々村の手首を捻りあげたので、野々村は慌てて燃え上がる札を手で握り潰した。
札は野々村の手の中で灰になっていた。
本当は野々村は一万円札のナンバーの控えを隠し持っていた。
良♡loveな野々村は、良が自分の手元から離れて行ってしまう事を異様に恐れていたんである。
「悪魔のようなあいつ」の原作は阿久悠で昭和の絵師上村一夫が作画を担当した漫画だ。
このドラマは、実際に起こった「三億円事件」という昭和最大の未解決事件がモチーフになっている。
「三億円事件」は1968年(昭和43年)12月10日午前9時30分頃、雨の中を日本信託銀行国分寺支店から、府中の東京芝浦電気事業所まで従業員のボーナスを積んでいた現金輸送車から現金三億円が強奪された事件だ。
現金輸送車が府中刑務所の壁を左側に見ながら走る通りに差し掛かった時、ニセ白バイに乗って警察官を偽装した男が後方から近づいてきて停車するように合図した。
「支店長宅が爆破された。この車にも爆弾が仕掛けられたという情報があるので調べさせてもらう」と言うと、輸送車の車体の下回りを調べる振りをして隠し持っていた発煙筒に点火。
「爆発するぞ。早く逃げろ!」と言われて銀行員が慌てて車から降りた所、男はその輸送車に乗り込み運転して逃走した。
なんか鮮やかに奪われちゃったのだ。
実は事件の4日前の12月6日に、日本信託銀行国分寺支店長宛に「現金三百万を指定の場所に持ってこないと支店長宅を爆破する」という脅迫状が届いていたのだ。
当日犯人は現れなかったのだが行員たちはこの事が頭にあったんだね。
当時大学卒の初任給が3万円という時代なので、当時の貨幣価値での三億円はすごい金額だったらしい。
また奪われた三億円のうち、番号がわかっていた五百円札二千枚分のナンバーが公表された。
この事件では、ニセ白バイ初め多数の遺留品があった為に犯人はすぐ検挙されると思われていたが、捜査は長期化。
11万人超えの容疑者がリストアップされたが、事件は未解決のまま7年後に時効を迎えている。
三億円強奪事件が起きる前に、日本信託銀行脅迫事件の脅迫状と同じ筆跡で多摩農協脅迫事件が起こっていて、警察はこの3事件は同一犯人と見ていた。
ドラマでは2件の脅迫事件の犯人は八村で、従業員だった良がそれを知り単独で三億円強奪事件を起こした事になっている。
良は非常に頭が切れる人物で周到な計画を立てている。
バイク屋で働いているからバイクの扱いはお手の物なので、スプレーで白く塗ってニセ白バイを作ったりする。
警官の制服は、エキストラをしてた同僚が撮影所からくすねてきたのを譲り受けたりして準備に余念がない。
降りしきる雨の中を、沢田さんが再現する三億円強奪のシーンは臨場感があってドキドキだ。
でもこのドラマが放送されていた年の12月10日が、実際の事件の時効日だったので、揶揄されてるみたいで当時の警察は面白くなかったんじゃないかな。
毎回ドラマの最後は沢田さんの「時の過ぎゆくままに」という名曲の歌唱シーンなんだけど三億円事件の時効まであとO日というカウントダウンのテロップが出てなんかあおってるみたいなんだよね。
それにしてもこの加門良を演じる沢田さんが、いつも気だるげで虚無な感じがハマリ役。
沢田さんに惚れこんでる伝説の演出家久世光彦や、沢田さんと仕事がしたかったっていう阿久悠とか、皆から崇拝される沢田さんてただのアイドルとは違ったんだね。
きれいで、一見優しそうな良はそりゃあよくモテる。
でもちょっと見は弱い存在のように見えるけど、実はたちが良くない。
美しさの奥に何か暴力的なものを秘めているのだ。
良が自分から女を抱く時は、疑いを持たれたり犯人だとばれそうになった時だ。
自分の虜にして支配する為に「前から好きだったんだ」なぞと甘い言葉で抱いてしまう。
そうして女が夢中になってしまうと、自分はもう所在なげになんか物憂げな顔で窓辺から外を見てたりするんである。
もーすべてに飽き飽きしたなーって感じで。
そんな良は女だけでなく男でさえ魅了してしまう。
藤竜也さん(かっけー!)演じる野々村は「汚い仕事は俺に任せろ。おまえの為なら何でもしてやる」と言ってはばからないほど良に惚れこんでいる。
野々村はかつて三億円事件の捜査を攪乱する為に、わざと誤認逮捕をしてそれが原因で警察を辞めているのだ。
そんな良の為にすべてを捨てた野々村なのに、良はいつも塩対応。
報われない愛に、苦しそうにりょおおおお!!!と叫ぶ野々村の男の純情が滑稽でなんか切ないんである。
みんなそれぞれが一生懸命に生きてはいるんだけど、うまくいかない人生に虚しさを抱えていて、良の中に光を見出しては引き寄せられていくんだよね。
でも結局良は誰も愛していなかったんだろう。
まさに悪魔のようなあいつなのだ。
冒頭はデカダンなジュリーの存在感でミステリードラマっぽいのだが、話が進むうちに、良が三億円を奪われたり奪い返したり、記憶喪失になったりとジェットコースターな暴走展開で先がまったく読めない。
堕ちてえ~いくのがあ~しあわせだよと~と歌う切ない名曲と、昭和のテレビドラマの面白さと、沢田さんの魅力を知ってしまったのである。