akのもろもろの話

漫画とかの覚え書き

ゴールデンゴールド 堀尾省太 離島で巻き起こる福の神怪奇譚

 

皆様、ごきげんよう

ゴールデンゴールド」は、月刊モーニングツーにて2015年から連載されている堀尾省太の作品です。

舞台は瀬戸内海の、かつては福の神の島と言われていたという「寧島(ねいじま)」という架空の島です。

 

 

 

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(既刊5巻)

 

 

この物語の主人公の流花はちょっと訳ありで、この島に住むばーちゃんと二人で暮らす中学生の女の子です。

それというのは、思春期特有の精神状態とでも言ったらいいのかなあ。

対人関係に敏感過ぎて通っていた本州の中学には馴染めなくて不登校になってしまったんですね。

それで家族と離れて島の中学に転校して来たわけです。

しかし陰気な子ではなく島ではそれなりに元気にやっている、ツインテールの優しい女の子なんです。

 

そんな彼女が恋心を抱くのは島の同級生の及川くんです。

及川くんはオタクでアニメイトが大好きなのね。

ところが及川くんときたら、高校進学はお父さんが働きに行ってる大阪の高校にするとか突然言い出すんです。

流花の気持ちも知らずに、お父さんの所からアニメイト大阪日本橋店まではチャリで5分なんだと目を輝かしてるんですよ。

流花は海辺で偶然拾った奇妙な置物が、ちょっと福の神っぽく見えたので思わず祈ってしまうのです。

 

「どうかこの島にでっかいアニメイトが建ちますように」って(笑)

 

すると彼女の目の前に福の神なのかな、うーん、異形の者が突如現れまして。

なんと流花の家に居着いてしまうんです。

するとあら不思議、ばーちゃんが商う食料品店と、何年も宿泊客がなかった民宿がなぜか大繁盛。

やっぱりあれは福の神なのでしょうか?

最初はレジの中の売り上げの大金を茫然と見つめておりましたばーちゃんですが、なんかよくわからない勢いに乗ってコンビニ経営へと乗り出し「寧島を強化する会」なる物まで立ち上げてしまうのです。

その活動は島で唯一のスーパーを経営する岩奈の反感を買いコンビニへの妨害工作が行われます。

しかし福の神に操られた舎弟によって、嫌がらせの主犯であったヤクザ気取りの梶狩が殺されてしまうのです。

 

 

 

 

 

 人間に利益や幸福をもたらすという福の神は誰しもが来て欲しいと願う事でしょう。

でもよく考えると「お金」などと言う、浮き世のルールみたいな物に絡む願い事をかなえてくれる神様なんて、ずいぶん都合がいいような気がします。

 

流花は他人の感情に敏感過ぎて生きずらくなってしまい田舎へやって来た女の子です。

あの人は自分を嫌ってるんじゃないかとか、友達の振りをしてるけど本当は見下してるんじゃないかとか、そういう事っていちいち気にしてたら生きてけないけど、気になり出したらとことん気になっちゃうかもですね。

都会より田舎の方が生きやすいかどうかは知りませんが、この島の住人てなんとなくのんびりしてるんですよね。

だから離島の閉鎖感なる物を取材に訪れた女流作家の黒蓮は、初対面からフレンドリーな島の住人に呆然としてしまいます。

これといった産業もないし活気もないし変化もないけど平穏無事に暮らしてるのです。

 

流花がお気に入りの及川くんはアニメイトを聖地と崇めるオタクなのですが、及川くんのキャラが秀逸で流花とのやり取りがとても可笑しいのです。

本当はそれほど好きでもないんだけど、及川くんとの接点を維持する為にアニメや漫画を一生懸命に見て必死で話を合わせたりしてるのね。

でも及川くんはオタクゆえに他人の事にはあまり興味がなさそうだから、それが流花のような子には居心地がいいのでしょう。

でも恋する女子としてはちょっと寂しいんじゃないかな、と思うんだけど。

 

ところがこの平穏な島が例の福の神によってなんだかおかしな事になってしまうんですよね。

 

 柳田国男遠野物語で座敷わらしという神様の話があるんですが、向こうから見慣れない小さい子が来るので、お前はどこから来たんだ?って聞くとあっちの家からって言うんだって。どこへ行くんだ?って聞くとこっちの家だって言うんだって。するとしばらくしてあっちの一家は毒キノコに当たって死に絶えてしまって、こっちの家は豪農になって栄えたんですと。

座敷わらしは岩手県に伝えられる精霊的な存在で、座敷わらしがいる家は栄え、座敷わらしが去った家は衰退すると言われている福の神のような者です。

この神様は子供の姿をしていると言います。

でもこの漫画の福の神はちょっとキモイのね。

最初はキモイけど結構可愛いかもって思ったんですが、読んでるうちに不気味さが増してきて、ペタペタって歩き回る足音もなんかいやだわー。

 

ただこの姿は流花や流花の家の民宿に泊まる黒蓮などの島の外から来た人間にしか見えなくて、ばーちゃん始め寧島の人にはただの小さいおっさんにしか見えないらしいのです。

だから流花はばーちゃんが福の神にだまされているような気がしてしまって、必死に訴えようとするんですが伝わらないのです。

それどころかばーちゃんは生き生きとし始めてお化粧なんかしだすから驚くよね。

精力的に商売に目覚めたばーちゃんから波及して、徐々に島の人たちも何かに乗せられるような感じになってきて、流花までもがもしかしたらアニメイトが建つかも⁉と淡い期待を抱いてしまいます。

ついには、ばーちゃんが調子に乗って始めた「寧島を強化する会」(この呼び方は長いので略して寧強会と呼ばれるようになるのですが、かえって胡散臭いです)では、福の神に全員が手を合わせるようになりカルト教団みたいな様相を呈するようになるのです。

 

だからと言ってばーちゃんが狂気的に変わってしまったというわけではないんですよね。

コンビニに改装する時も「今までは来なかった学校の友達が店に来るようになるだろうから大丈夫かい?」と流花の友達関係を気にかけてくれたし、いいおばあちゃんだなあと思います。

学校に行けなくなってしまった流花が、ここまで元気になったのもおばあちゃんの存在があってこそなんでしょうね。

利益が上がれば事業を拡大しようとするのは別に悪いことじゃないんだけど、人との関係に過敏な流花は何か違和感を感じてるんですよね。

 

それはもちろんあの不気味な福の神がもたらしてるわけで、お金だけならいいけどお金と一緒に今までは関わりがなかった危ない人たちもついてきてしまって、殺人事件にまで発展してしまうわけです。

平穏な日常生活に段々と歪みが生じていくという描写がうまくてねー、福の神の正体といったものはまだわからないんですけど、流花の不安はよく伝わってきます。

思えば私たちだって、大災害が起きるたびに常套句のように「想定外だった」で済まされてしまいますが、自分や家族の日常、学校や会社、住んでる町だって、いつ災いが降りかかるかわからない時代に生きてるんですよね。

おまけに働いても給料は上がらないし、年金だっていくらもらえるのかわからないし、将来や老後にも漠然とした不安感を持っています。

そういった読み手の現実の不安感と、この島でこの先何かすごく悪い事がおこりそうな不穏な感じがリンクしてくるような気がします。

そしてそれはやっぱり、流花が好きな子を繋ぎ止めようとしてこの島にアニメイトが建ちますように、なんて願ったからなのでしょうか。

 

 

私もお金はないよりあったほうがいいですが、かと言ってお金にがめつい人と思われるのも嫌だから、人前ではついお金には無関心な顔を装ったりします。

お金の事って難しいですね。

貨幣経済の発展した今の時代お金がなくては生きていけないのだから、時として人間関係や信頼などよりもお金が上位に来る事だってあり得るじゃないですか。

たかが印刷した紙なのに人格まで変えてしまう事もあってお金の力って絶大ですよね。

でもこの漫画のようにお金に踊らされるのは嫌ですね。