akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「ミステリと言う勿れ」田村由美 

冬のあるカレー日和。

大学生・整(ととのう)が玉ねぎをざく切りしてると、警察官が「近隣で殺人があった」と訪ねてきます。

そのまま警察に連れていかれた整に、次々と容疑を裏付ける証拠が突き付けられ彼はこのまま犯人にされてしまうのでしょうか?

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             (田村由美「ミステリと言う勿れ」既刊4巻) 

 

冤罪とはやってもいないのに犯人にされてしまう事です。

自分は犯人じゃないと言っても警察がその事件について調べ、合理的判断でお前が犯人だろうと決めつけられてしまう。

時代劇なんか見てると犯行現場に大工の音吉の手拭いが落ちてたというだけで音吉はもう下手人にされちゃったりします。

昔はいい加減なお調べでさぞや冤罪が多かったでしょうね。

間違いでは済まされないけど、人のやる事だから間違いはなくならないんですよね。

でも間違った冤罪よりももっと怖いのが「意図的に作られた冤罪」です。

 

警察に連れていかれた大学生・久能整(くのうととのう)は、殺人事件の被害者が自分の同級生だった事を知ります。

そして犯行時刻頃、遺体の見つかった公園で彼が被害者と言い争っているのを見たという目撃者まで現れるのです。

けれど彼は驚きもせず、刑事に「皆さんはその目撃者の人をよく知ってるんですか?」と聞きます。

「善意の第三者だ」と聞くと「じゃあ僕と立場は同じですよね。皆さんがよく知らない人物。それなのにどうして、その人が本当の事を言っていて僕の方が嘘をついてるって思えるんですか?」とか言うわけです。

取調室を覗いてた若手の刑事は「うわあ、なんか語るヤツだ。めんどくせえぞ」と思わず叫んだりして(笑)

 

変わり者の主人公は名前からして変です 

主人公・久能整ですが名前からして変ですよね。

なんか韻を踏んでるし。

特徴的なのは髪型でものすごい天然パーマでぼわぼわしてます。

一人暮らしで友達も彼女もいないけど本人は別に気にしてませんし、なんか世俗を超越してる感じなんです。

まあ、ある種の変わり者なわけです。

どんな家族関係や過去があるのか気になる所ですがそれはまだ明らかになっていません。

この主人公の妙味はとにかく語るんです。

整は人並外れた洞察力と知識の持主で、独自の見解と思考をただただ語りまくります。

飄々としてるんだけどその鋭い意見に百戦錬磨の刑事が言い返せなくなったりするほどです。

でも決して相手をやり込めたり断罪するわけじゃなく、あくまで冷静に客観的に物事の核心を言い当てるんです。

  

刑事さんも人間だからそれぞれ鬱屈があるんです。

それは小さなものから大きなものまで色々あるわけです。

鬱屈をストレスとか欲求不満と言う言葉に変えてもいいんですけど。

まあ色々あるわけで、でも人には話せない事って大人になるとたくさんありますから自分で抱え込んでるんですよね。

整の言葉には、誰も言ってくれなかったけど本当は言って欲しかった言葉や、自分が知らず知らず人を傷つけていた事に気付かされたりして、それは人の心の核心を突いて静かに相手に沁みていくんです。

それで、若手の刑事たちの中ではこいつただ者じゃねえ、みたいな空気になって整の話をやたらと聞きたがる人まで出てくるんです。

別に整は警察の人を手懐けようとしてるわけじゃないですから、黙っていると「何か言わないの?」って期待されちゃう(笑)

リベートの達人だとか話が超絶にうまいんじゃないですよ。

でもそんなに上手な話し方ではなくてたどたどしかったりしても、その人の人柄が伝わって来て人を感動させたりするものですよ。

整が語る言葉は相手の琴線に触れたり癒しになったりするんですよね。

本人は飄々としてますけど。

いやー、自分は容疑者として警察にいるんですよ。

普通なら容疑を晴らさなくちゃって事で頭が一杯だと思うんですけどね。

そういう冷静沈着で物事を客観的に見れるのも整のすごい所です。

 

さて、冤罪の話ですがベテラン刑事の一人が「どれだけ虚言を尽くしても真実は一つだ」って整に言うんですね。

すると整は、「ええ?そんなドラマみたいなセリフを言う人がほんとにいるなんて」って驚いたような顔をします。

じゃあ、たとえばAとBがいて階段でぶつかってBが落ちて怪我をしたとします。

Bは日頃からAにいじめを受けていたので今回もわざと落とされたと主張します。

ところがAはBをいじめいていた認識など持ってなくてただぶつかっただけだと思っています。

どちらも嘘はついていないし、この場合の真実とは何ですか?って整は聞くんです。

人は主観でしか物事を見られません。

AにはAの真実があり、BにはBの真実がある。

なんかの決め台詞みたいです。

でも事実は一つです。

この場合は、AとBがぶつかって怪我をしたというのが事実です。

警察が調べるのはそこで、人の真実なんかじゃない。

真実とかいうあやふやな物にとらわれるから冤罪事件とか起こすのでは・・・ 

 

整が絶好調でしゃべります

刑事のおじさんたちも「あいつの煙に巻かれるな、あいつ一体何なんだ!」って 焦りだしたり、怒りだしたり。

なんか自分のアイデンティティーの危機を感じるみたい。

恐るべし、久能整。

整を陥れようとする悪意の正体は何なのでしょうか?

そしてどうやって無実を証明するのか?

舌鋒鋭く相手を言い負かすとかじゃなく、整はいつも自然体で純な子供のような澄んだ瞳をしています。

この作品を読むと誰でも何かしら心に響くものがあるんじゃないでしょうか?