akのもろもろの話

いつも漫画ばかり読んでた「漫画とかの覚え書帖」

「残酷な神が支配する」①巻 萩尾望都

「残酷な神が支配する」は「プチフラワー」にて1992年から2001年まで連載された長編サスペンス漫画でございます。

 

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 (コミックス版全17巻)

 

 

 

ある悲しみの話をしようと思う

 

いや僕がその悲しみに気付くのはもっとあとの事で

とりあえず今日は

───葬式だ

 

 

12月のそぼ降る小雨の中、イアンは何度も倒れてしまいそうになるジェルミの身体を支えていました。

  ジェルミは母のサンドラがイアンの父であるグレッグと再婚した為3か月前にボストンからイギリスへやって来ました。

その葬式はサンドラの葬式で、集まった人々は突然自動車事故で亡くなったまだ若く美しかった故人を悼む一方、車を運転していたグレッグも意識不明ではもう時間の問題だろうと囁きあいました。

イアンはヒソヒソと耳に入って来るそんな囁きに「よしてくれ父はまだ生きてる」と耳をふさぎたいような思いでいました。

 

その時、茫然自失としたジェルミがうわ言のように「あいつが死ぬはずだったのに・・・なんで・・・サンドラ・・・なんで車に・・・」とつぶやくのを聞いてしまうのです。

 

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( 萩尾望都「残酷な神が支配する」①巻より)

 

 考えてみれば、父が再婚してサンドラと息子のジェルミが屋敷に来てから何か変でした。

父が運転をあやまって自動車事故を起こすなんておかしい。

違う!!事故なんかじゃない!!

きっとこいつがやったんだ。

こいつは人殺しなんだ。

 

どう見てもか弱い少年にしか見えないジェルミを前に愕然とするイケメン兄さんイアンの姿が印象的な冒頭でございます。

 

 

 

さて、話はその半年前の6月にさかのぼります。

マサチューセッツ州ボストンに住む15歳のジェルミは母親のサンドラと二人で暮らす普通の高校生でした。

ある日、サンドラが働く古美術商に一人の英国紳士がやって来ます。

ロンドンからアンティークを買い付けに来たと言う彼は、グレッグ・ローランドと名乗り洗練された素敵な中年男性でその上チョーお金持ちだったのでサンドラは胸をときめかせるわけです。

子持ちとは言えまだまだ綺麗なサンドラにグレッグも夢中になり二人は結婚する事になるのです。

指におっきな婚約指輪をはめて「結婚するのよ・・・夢みたい」と歓喜のあまり少女のように涙ぐみサンドラはジェルミに抱きつきます。

  

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(萩尾望都「残酷な神が支配する」①巻より)

 

 そんなある日、街でグレッグに呼び止められたジェルミは彼の運転する車に乗り込むのですが「セイラムに行こう」と誘われるのです。

セイラムはボストンから車で30分ほどの所にある魔女裁判で有名な都市です。

「セイラム魔女裁判」とは17世紀末に実際に起こり19名の犠牲者を出したアメリカ史上最悪の魔女狩りです。

ちょっと不謹慎な気もしますがセイラムは現在では「魔女の町」として観光地になっています。

 

それはジェルミにとってあまりにも突然の出来事でした。 

車の中で二人で話しているうちに、グレッグがジェルミの肩や首に触れ始め「愛してるよジェルミ。一緒にロンドンに来てくれるね」と言って強引にキスしてきたのです。

ジェルミは驚いて車から飛び降り「クレイジーだ!」と叫んで逃げ出します。

そりゃそうだよ、いきなりで怖かったろうね。

ところが、やっとこさ家に帰ったジェルミを待ってたのは「グレッグから電話が来て、もう終わりだって結婚できないって・・・」と悲嘆にくれて泣き崩れるサンドラの姿だったのです。

ジェルミは思わずサンドラに「あんな奴と結婚なんてよせよ」と言ってしまうのですが、さすがにキスされた事は言えず「さっきまで会ってたけどあいつはへんな奴だ」としか言えません。

サンドラはジェルミがグレッグを怒らせたんだと思い込み彼に謝ってよとジェルミを責めます。

「やっと幸せになれると思ったのに・・・愛してるのに・・・」と泣くのです。

 

 

そしてその夜、サンドラはガス自殺を図ってしまいます。

  

病院に搬送されたサンドラの容態はたいした事はなかったんですが、ジェルミは自分があんな事を言ったせいだと自分自身を責めます。

そして10歳の頃の出来事を思い出すんです。

夜中に眠っていたジェルミのベッドに手首を切ったサンドラが「ジェルミ、血が止まらないの」と起こしに来たのよ~こわーい!

サンドラは男に捨てられ自殺を図ったんだけど手首から血を流して母親が立ってたというね、もうホラーだよね。

 

なんか困った母親だとは思うんですが、ジェルミはとっても母親思いの子でサンドラは弱い人だから仕方ないって考えてるんです。

弱い人なのに夫に死なれたり男に去られたり不幸続きで、それでも女手一つで自分を育ててくれるサンドラは言ってみればジェルミの世界の全てなんです。

ただサンドラが自殺未遂した事でジェルミは母親に真実を打ち明ける機会を逸してしまいます。

ジェルミはグレッグに電話をかけ病院に会いに来て欲しいと頼み込むのです。

 

グレッグは自殺未遂と聞くと動転し「彼女がそんなにも私の事を・・・」と感激して声を震わせます。

そして明日病院へ行ってもう一度プロポーズすると言い出しジェルミをホッとさせますが、その舌の根の乾かぬうちに「じゃあ私ともう一度セイラムに行ってくれるんだね」とか言い出すわけです。

なんやねん!セイラムって。

ジェルミは理解不能になり返事できないでいると「この話はなかった事にする」と電話を切られそうになって、つい承知してしまうわけです。

翌日花束を抱え病室に現れたグレッグは涙を流してサンドラに詫び再び結婚する約束をかわします。

サンドラはもちろん泣いて喜びジェルミに「ありがとう」なぞと言いますが、その足で二人はセイラムにあるモーテルに行くんです。

 

そしてジェルミは・・・・

 

 

 

 いやはやまったく、大変な事になってしまったもんです。

ジェルミはゲイではありませんし辛かったろうね。

彼は本当に普通の男の子でビビという可愛いガールフレンドもいるんです。

この二人はまだ性的には未経験でお互いに初体験はこの子とって決めてるんですが、なんでか変態みたいなおじさんと先に経験してしまったジェルミ。

ジェルミは、これは一度限りの取引だからと念を押したんですがその約束は守られません。

サンドラとの結婚を取り消すとか、サンドラに二人の秘密を話すとか脅されて再び関係を迫られるのです。 

 

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( 萩尾望都「残酷な神が支配する」①巻より)

 

もお~母親に打ち明けた方がいいよ。

サンドラだってこんな男と結婚すべきじゃないよ。

ジェルミも一度はそうしようとするんですが、グレッグを引き留めておく為に寝たなんてサンドラが知ったらどんなにショックを受けるだろうと思うとどうしても言う事ができないんです。

それにグレッグはサンドラの前では紳士的で巧妙に演じていますから、言ったとしても信じないかもね。

「そんなに私の再婚に反対なのね、ひどい子!」とか言って泣かれるのがオチかも。

 

サンドラは優しく少女のような可憐な人でジェルミをとても愛しています。

でも息子に自分の事を名前で呼ばせて恋人みたいに振る舞ったり、手首を切ったのを息子に見せたり 、あてつけのようにガス自殺を図ったりとこれはもう愛情と言う名の支配ですよね。

ジェルミもまたそんな母親を自分が側にいて守る事に依存してるんです。

この母子は共依存関係にあるんですよね。

 

どうして自分がサンドラの為に我慢してグレッグの言いなりにならないといけないのか。

逃げ場のない怒りは転化して少年の身体と心に異変を起こし、眩暈を引き起こしたり急に感情的になったりします。

けれど何も知らぬサンドラの幸福そうな顔を見ると自分の叫びを押し殺してしまうのです。

 

そしてビビともギクシャクし始めたジェルミに決定的な事が起こってしまいます。

ビビにキスしたら「いつものキスと違う」と言われ、グレッグからされる濃厚なキスを意図せずしてしまったジェルミは自分にギョっとします。

他に付き合っている女性がいるのなら本当の事を言って欲しいと言われたジェルミは男とホテルに行ったのだと喋ってしまいます。

そんな話をされてビビが受け入れられるはずもなくジェルミは話すんじゃなかったと大いに後悔するわけです。

そんなこんなで憂鬱になってしまったジェルミは精神面だけでなく身体も弱いサンドラを心配するあまり、あれだけ自分はイギリスにはついて行かないと言っていたのにサンドラと一緒にイギリスへ行く決断をしてしまいます。

 

それを知ったグレッグはこう言います。

私は二度と君に手を出したりはしないよ

私は家庭を大切にしたいんだ

私は一家の主で使用人も息子たちもいる

ローランド家は名家なんだ

君だってサンドラの幸福を願ってるだろう

 

 

でもそれはグレッグの罠だったのです。