akのもろもろの話

いつも漫画ばかり読んでた「漫画とかの覚え書帖」

「残酷な神が支配する」➄巻 萩尾望都 

その男は君を苦しめ痛めつけそれを愛だと言っている

それはサディストの欺瞞だ

 

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(萩尾望都「残酷な神が支配する」⑤巻より

 

 

ジェルミはイアンのいる寮に移る事になりました。

それはジェルミとウイリアムがキスしてたという噂に対する、学校側の迅速な対応でした。

(やっぱ男子だけの寄宿学校ってこういう問題があるんだろか)

ウイリアムは呼び出されても神妙にしてたけど、ジェルミは少し挑発的っていうか先生を小馬鹿にしてるようでした。

そんな態度を取る子ではなかったんですが、週末ごとにグレッグにレイプされるジェルミにとって、先生が言ってる事なんて笑い出したくなる位くだらなく思えて仕方なかったのです。

でも、そんな反抗的な態度は自分の為にならないしもっと冷静になれと言うウイリアムの言葉に自分を取り戻すと、今度は心を入れ替えようと反省してみます。

ところが引っ越した部屋で洋服をしまおうとすると、衝動的になって箱の中身を部屋中にぶちまけてしまうのです。

それらの衣服はすべてグレッグが買ってくれた物で、つまりジェルミが自分の身体で支払ってるようなものだ。

おぞましい考えが湧きあがりジェルミはまた腐った臭いを感じるので、オーソン先生が言った「それは愛じゃないよ」という言葉を何度も何度も繰り返してみるのです。

 

愛じゃない

愛じゃない

だからこのまま腐っていく事はないんだ、って。

 本当に心が不安定なんです。

 

そんなジェルミをイアンは兄としての義務感だけでなく、どうにも困った奴だと気にかかるらしい。

イアンてけっこう面倒見がよかったのだ。

「ここで何かあったら俺にいいな、手ェ出されてオタオタしてんなよ」とか言ってくれる。

 

にもかかわらず、ジェルミは背中の傷跡を見られてしまった事でクスリ漬けのパンジーという上級生に目をつけられてしまいます。

ジェルミの背中は傷が治りかけてもまた打たれるので癒える事がありません。

いつもちりちりと焼けるような痛みに苛まれているのです。

パンジーはその傷でジェルミはSMが好きなんだと思い込み鎮痛剤(ヤバイやつ)をやるからと言っては近づこうとしてくる。

どうもジェルミにはへんな輩を寄せ付ける魅力があるみたいなんです。

 

 

誰かを愛さなければと考えるジェルミはオルガン奏者のナディアの事を思うようになります。

ナディアは学校の教会のパイプオルガンを借りに来る心優しい女性で、彼女の演奏する美しいオルガンの音はジェルミの嫌な気持ちを少しだけ軽くさせます。

 

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 (萩尾望都「残酷な神が支配する」⑤巻より)

 

 

ナディアは事情を知らなくても、この少年が何か不幸を抱え傷ついている事を感じ取っているのでした。

 

 

一方、リン・フォレストに新しく入ったメイドのシャロンはイアンとこっそり付き合っています。

病気の夫を抱えた彼女は金に困っていました。

彼女はサンドラが丹精したバラの温室で(サンドラの特技はガーデニングです)偶然グレッグがジェルミにキスしているのを目撃してしまいます。

 

赤い、赤い薔薇

グレッグの誕生会が開かれ、サンドラが選んだ高級車が披露されノリノリのグレッグはベニスのカーニバルのお面をつけて登場しみんなを驚かせます。

ジェルミはそのお面をつけたグレッグにムチ打たれた事があったから動揺し、それ以上にマットが怖がってナターシャに抱きつき高級ワインを倒したりします。

イアンが望むような家族とは何ともちぐはぐな感じなのでした。

 

それでも家族がそれぞれバースデープレゼントを贈りジェルミは詩を朗読します。

 

 

ああ 恋人は赤い、赤い薔薇のよう

6月に花咲く

ああ 恋人は音楽のよう

甘い調べ

恋人よ

その美しさにかなうほどに

わたしの愛も それほど深い

いついつまでも あなたを愛する

すべての海が 涸れ果てるまで

 

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これはスコットランドの国民的詩人バーンズの「A Red,Red Rose(恋人は赤い、赤い薔薇)」です。

 

こんな素敵な詩を恥ずかしがりもせず堂々と朗読できるジェルミって、見かけだけでなくとても賢い子なんですよね。

サンドラは感激しちゃうし座もいい雰囲気になるのですが、この後大変な事になってしまいます。

夜中にやって来たグレッグに服を全部脱ぐように命じられ、例のロープで縛り付けられて 「罰を与えてやる」と言われたのです。

グレッグの怒りは、ジェルミがあの美しい詩をナディアを思って朗読した事でした。

誰の事を思ってあの詩を読んだのだと責められ、今度はわたしの為に読むんだとベルトで激しく打たれながら詩を朗読させられたのです。

 

シャロンはイアンに金を借りようと深夜の屋敷をうろつき、グレッグがジェルミの部屋へ入る所を目撃してしまいます。

中で行われている行為までは知らない彼女は、二人は秘密の恋人同士でお楽しみ中なんだと勘違いします。

他人に無関心な人ってその程度にしか捉えないんだよね。

サンドラは隣に眠っているはずの夫がいなくなっている事も知らずぐっすり眠っていました。

 

そしてシャロンは翌朝ジェルミを脅して金を巻き上げるのでした。

 

味を占めたシャロンはグレッグから前借りをしようと画策します。

しかし逆にレイプされそうになり、恐怖を感じたシャロンは屋敷を逃げ出そうとしますが、追いかけて来たグレッグが口止め料だとサンドラのエメラルドの婚約指輪を渡してくるのです。

そんな物を受け取ったら自分が盗ったと思われると拒否するシャロンですが、グレッグは猟銃を携えており、リン・フォレストの深い森に銃声が響くわけです。

ダーンンンン!!!!

 

 

さて、屋敷ではサンドラが指輪がないと騒ぎ出します。

サンドラはシャロンが盗んだのかもしれないと警察に届けようと言うのですが、グレッグは「シャロンはイアンの子を妊娠しているので結婚したいと言って来た」などと嘘八百を並べたてます。

「だから出て行ってくれてホッとしたよ。手切れ金だと思えば安いもんじゃないか」と言い出すので、サンドラが「二人の大切な思い出の指輪なのに」とグズグズ言うと別人のように豹変してしまいます。

「君はあの女がこの家を荒らし金をせびるのを見てる方がいいんだね」

「わたしの息子より指輪の方が大事なんだね」

執拗に責める物言いがとても怖くて、サンドラは泣きだしてしまいます。

すると「泣くな、うっとうしい!」と怒鳴るのです。

 

そろそろサンドラも、この男の本性に気づいても良さそうなのにね。

コックもメイドもいて家事もしなくていい優雅な生活とか、せっかく手に入れた金持ちの暮らしを手放すのが惜しくてサンドラの目は曇りっぱなしなのだとしか思えない。

 

その絶望にはいまだ名前がない

ジェルミはグレッグからシャロンを殺したと聞き怯えますが、死体は出て来ません。

リン・フォレストの森に埋まっているというシャロンの死体を探してジェルミは森の中を歩き回ります。

もし、シャロンの死体が見つかればその時がグレッグの最後だからです。

そしてこの関係も終わる・・・

ところがグレッグがやって来て「馬鹿だなあ、わたしがそんな事するはずないじゃないか」と楽しそうに言うのです。

しかもイアンがシャロンから手紙が来たと言います。

ジェルミに返して欲しいと金も入っていたと言うのです。

 

混乱するジェルミの姿を楽しむかのようなグレッグから「君は恋人を警察に売ろうとした」と責められ打たれなければなりませんでした。

おまえなんか恋人じゃない!

噓つきの人殺しだ!

そう言い返す事だけがジェルミに出来る抵抗でした。

 

もうこの頃になると昼間は無感情な顔でいる事が多い。

ジェルミは、オーソン先生に会いたくてたまらず行ってみます。

先生に「元気かね?」と聞かれ「元気・・・」と言いかけますが、それ以上言う事が出来なくなってしまいます。

頭がもつれる。

オーソン先生はジェルミにこう言います。

君の感じているその感覚

君の持ち続けているその絶望にはいまだ名前がないのだ

君は喪失し続ける

その喪失にも名前がないのだ

歴史は敗者の苦痛に名前を与えない

その絶望に近い名は・・・死だ

 

大人から虐待される子供は声を上げる事が出来ない。

家族さえも気づかないまま、そんな行為は最初から存在しない事になっている。

子供の絶望は、喪失は、誰も知らないから名前もないのだ。

グレッグから受け続ける暴力によって、ジェルミの意識の中で生と死の境界が崩れていく。

虐待を受けて死へと追い詰められた多くの子供を見て来た先生はジェルミに「どんな事があっても自らは死なないと約束してくれ」と言います。

 

グレッグのようなヤローがいる一方で、ウイリアムやナディアやオーソン先生のように、親身になってジェルミに優しく寄り添おうとする人もいる。

でもジェルミを導いてくれるかに見えたオーソン先生は病気で亡くなってしまうのです。

ショックを受けるジェルミでしたが、冬休みにボストンに家族旅行しようという話が持ち上がり、もしかして逃げ出せるかもしれないと望みを繋ぐようになります。

しかしジェルミが起こしたある事件によってその夢は絶たれてしまうのでした。