(清水玲子「秘密season0」既刊8巻)
清水玲子による死者の脳をめぐるサイコ・サスペンス漫画「秘密season0」 ①巻から⑧巻までを読了した。
これは1999年~2012年にかけて発表された「秘密ートップ・シークレットー」のスピンオフシリーズだ。
この漫画大ヒットした。
なんちゃら言う賞も受賞したし(なんだったか忘れた)アニメ化もされたし2016年には生田斗真くん主演で実写映画化もされた。
原作ファンの私はもちろん見に参じたが、漫画原作による実写映画化のご多分に漏れず残念無念な出来だった。
てゆーか、まったく別の作品になっておった。
「秘密ートップシークレットー」の舞台は2060年の日本だ。
科学警察研究所法医第九研究室、通称「第九」で行われる「MRI捜査」では、死者の脳から記憶を映像として再現する事が可能となっている。
例えばだよ、強盗にあって殺された被害者から死亡後10時間以内に損傷のない脳(コレ大事)を取り出しMRIスキャナーにかけると、その人が生前に見ていた映像がスクリーンに映し出されるのだ。
殺される前に見たもの、強盗の顔、凶器、強盗に遭う前見た景色、人、さらにさかのぼり最大5年前位まで見たものすべてが映し出される。
これだったら真相が解明できない事件だって解決できるかもしれない。
そんな有効な手段でありながら、プライバシーはどうなってんねんという問題があり世間からは強い偏見や反発にさらされている。
まあそうなるよね。
自分だけの秘密が第三者によって暴かれてしまうんだから。
また捜査員たちも凶悪犯罪に関わる凄惨な映像を目の当たりにする為、心を病んでしまう者もいるのだ。
第九のトップである室長の薪剛(まきつよし)警視正は第九発足から関わっているただ一人の人物であり、第九が扱った凶悪犯罪すべてに精通している。
その中には彼だけが知っている国益に拘わるような機密もある。
彼の脳にはそういった多くの「秘密」が記憶されている為に常に命を狙われる危険と隣り合わせなのだ。
しかしながらこれは少女漫画なので薪さんがめちゃめちゃ美少年である。
前作での年齢は33歳だが10代にしか見えない(爆)
御年33歳で美少年てのも妙だが華奢で小さく中性的でとても美しい人として描かれている。
こういう容姿の人が警察組織でやってけるのか疑問ではあるが・・・超優秀。
脅迫や誘拐などの危機にさらされながらも驚異的な実力を発揮する薪さんは、どんだけ凶悪犯の脳を見たって正気を失わない。
優秀なうえにものすごく芯が強いのだ。
それくらいじゃないとこんなやべぇ部署のトップは務まらないものね。
ゆえに職務には厳しく第九の古参で強面の岡部や新米捜査官の青木をちょいちょいヒステリックに叱責している。
薪さんの怒号が部屋中に響き渡りこの人の癖で手あたり次第に物を投げつけたりする。
嫌だよ、こんなピリピリした職場・・・
でも仕事が出来て可愛いのでなんか許されてしまう。
そして可愛いうえに精神的に不安定で意外な危うさを持ってる為に、周囲の男たちは心配で目が離せなくなってしまうのだ。
特に青木は薪さんへの盲信振りが半端なく命懸けで薪さんを守ろうとする。
なんかもうBL( ̄□ ̄;)!!
時には見つめ合い(見つめ合い過ぎだっちゅ~の)時には抱くようにして守る。
薪さんが抑えきれない怒りや悲しみで涙に震えるとそっと寄り添い、倒れたらお姫様抱っこで連れ去る(すぐ倒れちゃうのよ)
なんつーか作者が嬉々として描いている姿が目に浮かぶわ。
この作品、薪さんだけがひたすら美麗である。
あとのキャラは(手抜きを疑うほど)ざっくり。
そんなBLチックなときめきと炸裂する薪さんの魅力に腐女子の心は踊るが、物語は大変重厚で骨太な展開である。
「MRI捜査」の対象となる事件は通常の捜査では解決できない特殊な凶悪犯罪に限られている。
食人やバラバラ殺人などの猟奇殺人事件とか常軌を逸した異常な事件ばかり登場する。
まあ殺人そのものが常軌を逸してると言えるのだが、こういったサイコキラーが何を考えてるのか常人にはわからんから「MRI捜査」もいいかもしれん。
しかし脳を見る側も苦行である。
犯罪者の脳を見た事で抑うつ状態になった捜査員の鈴木が薪さんに襲い掛かり発砲してきたので薪さん自ら射殺する悲劇が起きたりと踏んだり蹴ったりである。
「MRI捜査」が神の領域を蹂躙していると非難されるゆえんである。
死者の脳から秘密を暴き出す事は想像以上に苛酷なのだ。
薪さんは自分の脳が抱える秘密を守る為にスーツの下には防弾チョッキを着用している。
それで頭を撃たれ脳が破損すれば彼の持つ秘密は闇に葬られるからだ。
けれど胸中には自分だけが秘密を暴かれずに死ぬ事が許されるのかという葛藤を持っているんである。
「season0」の①巻は東大生の薪さんと前述の鈴木が運命的な出会いを果たすエピソード。
頭脳明晰だが一般常識がまるでない薪さんを包容力のある鈴木がおおらかに包み二人はめでたく親友となる。
やっぱりBL( ̄□||||!!
だがプレミアムというフリーメイソンみたいな秘密結社が登場したり薪さんの生い立ちが明かされ第九創設に至る話は面白れぇ。
②巻以降は過去編でなく続編が始まる。
薪さんもアラフォーである。
見えないけど。
相変わらず美しい薪さんと対照的なグロテスクな事件が起きる。
でもこの作品で私が気になるのは薪さんじゃなく人は死ぬ時何を見るのかという事だ。
私は6年位前に親しい友人を亡くし2年前に母を亡くしたのだが、それ以来私にとって死はとても身近な物となってしまった。
今まで考えた事もなかったけど自分もいつかは死ぬのだ。
母が息を引き取る時、呼吸がゆっくりになりもう意識はないのだが看護師は「耳だけは聞こえているから声をかけてあげて下さい」と言っていた。
あの時母は何を見ていたのだろう。
真っ暗な闇だったのか。
人は死ぬ時何を見るのか。
思考や感情や記憶がなくなり死にゆく脳内では何が起こるのか。
でも人は死に至る時、脳は痛みや恐怖を和らげる為に脳内麻薬を出すそうだ。
昔の思い出が走馬灯のようによみがえると言うのはその時に起こる現象らしい。
それはとても幸福な気持ちに包まれるんだって。
時に私は恍惚としてそれはどんな感じなんだろうと思ってみるのだ。
トシだぜ。