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映画/「人間失格太宰治と3人の女たち」


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 (「人間失格太宰治と3人の女たち」2019年日本/120分)

 

私はけっこう小栗旬くんが好きだ。

以前、映画「クローズZERO」を見に行った。

若手イケメン俳優そろい踏みみたいな作品で、中でも滝谷源治を演じた小栗旬くんが一番スラッとしてて身長も高く小顔だったんだよね。

腰パンも似合ってたし。

小栗旬てカッコいいな~と認知した次第である。

だって顔は整形で変えられるけど身長と顔の大きさだけは変えられないもの。

 

さて、そんな小栗旬くんが太宰治である。

小栗太宰はカッコいいけどあまり知的に見えない。

太宰は知的な雰囲気を醸しててシャイで母性本能をくすぐられるような人じゃないかと、私が勝手に想像していた太宰像とはなんか違うのだった。

太宰を知って誰もが驚くのはこの人が4回も自殺未遂している事だ。

そのうち2回は心中でそのうち1回は相手の女性だけが死んでしまった。

太宰は小説家になる以前から死にたがりなのだ。

太宰の小説を読んでいると、なんだか自分にだけ話しかけてくれてるような気がしてくる。

弱いダメな自分を太宰だけはわかってくれるような気がするのだ。

それは太宰のかけた魔法だ。

そして小栗太宰はと言えば、女に魔法をかける。

絢爛としだれる白い藤の花の下で、恋に戸惑う冨栄(二階堂ふみ)に「大丈夫。きみは僕が好きだよ」と甘くささやく。

白い藤の花、赤い曼珠沙華、色鮮やかな花と美男美女を対比させる蜷川監督らしい映像や演出は目を見張るほど美しい。

でもちょっと違和感。

スタイリッシュすぎて太宰のイメージとはあわない気がするよ。

 

人気作家の太宰治(小栗旬)には二人の幼い子と身重の妻美知子(宮沢りえ)がいるが、酒と女に溺れ家庭をかえりみなかった。

作家先生の妻はつらいのお。

太宰は太田静子(沢尻エリカ)の元を訪れ彼女の日記を見たいと言う。

二人は作家とファンという関係から恋に落ちたのだが、太宰は彼女の文才を認めており新作の小説のネタがほしいのであった。

静子はそれが目当てなのかと疑念を抱きつつも「赤ちゃんがほしい」と言い出す。

断り切れない太宰は、まるで日記と交換条件みたいにして子作りしてやるのであった。

その日記を元に太宰は「斜陽」を書きあげベストセラーとなる。

しかし妊娠した静子から太宰は逃げ回り彼女を傷つける。

太宰はすでに飲み屋で知り合った山崎富栄ともできていたのだ。

なんつーか、四角関係⁈

 

とまあ、そんな太宰先生のお盛んな女遍歴が華麗に描かれていた。

キザで口が上手くて女に手が早い。

「生まれてすみません」なトホホな所はまるでないのだった。

でもこの作品は太宰治と3人の女たちだから、太宰の小説家としての生み出す苦悩や孤独より太宰をめぐる3人の女の関係性が描かれる。

このお三方はライバル関係にあるわけだから、それぞれの存在をもだえ苦しむような思いでビンビン意識しているのが伝わってくる。

太宰にくっついてる女があまりに強烈で奥さんが気の毒になってくるが、妻の美智子さんはこんな最低夫を献身的に支えている。

太宰の小説家としての才能を信じているからだけど正妻としてのプライドだってあるのだ。

この時代の妻は夫の浮気くらいでは騒がず泰然としているのが心得なんである。

しっかり者で文句も言わず耐え忍ぶ妻に太宰は甘えまくり(小栗くんがちょっと可愛いけど)当然みたいな顔をしてやりたい放題だ。

女の所に入り浸って帰ってこなくなる父に幼い長女は胸を痛める。

こんな家庭で育つ子供は悲しいなぁ・・・(ちなみに長男の坊やがまたカワユス)

そして太宰も心の中ではその悲しさをよくわかってはいるのだ。

この子供たちのいる家庭を持っている事こそが美知子さんの強みだ。

 

一方「私、愛されない妻よりずっと恋される愛人でいたい」なぞとのたまう静子さんは少し風変りな女性だ。

逃げ回る太宰に業を煮やした静子さんの弟(千葉雄大)から直談判された太宰は、生まれた女児を認知はするが会おうとはしない。

それでも優雅でいつも幸せな夢を見てるような静子さんは美しい欲しがり屋さんだ。

太宰の子供を得ただけでは満足せず「斜陽」の著者に自分の名も連名で記載するよう望み始めるのだった。

 

名声と栄光を手に入れた太宰の周りには常に人が集まり(作家とか編集者とかファンとかもろもろの取り巻き)断り切れない太宰は飲んでは騒ぐ。

太宰は過労と乱飲で結核が悪化してしまい喀血し出す。

富栄さんの部屋に入り浸る太宰は血反吐にまみれたまま富栄さんと何度もチューする。

富栄さんの恋は命がけの戦いだ。

彼女は戦争未亡人で美容師として働く職業婦人である。

私は富栄さんの日記が出版されてるのを読んだ事があるが、とても思い込みの激しい恋愛至上主義の女性だと思った。

太宰が静子さんの子に自分の1字を取って「治子」と名づけてやったのを嫉妬し自分も子供がほしいと太宰に馬乗りになってくる。

なんかお下品・・・

太宰を快く思わない担当編集者(成田凌)は富栄さんに言う。

美智子さんは妻だし静子さんは子供がいるけどあんたには何もないって。

そんな事はわかってるって。

だからこそ静子さんに対抗心を燃やし子供を欲しがり、美智子さんの留守中に家に上がり込み、散らかった家の中を片付けるような真似をする。

帰宅すると部屋がきれいになっていて、妙に感じた美智子さんがすべてを悟った時、妻は誇りを傷つけられ泣いてしまう。

子供と遊ぶ振りをして笑いながら泣いてる宮沢りえさんの演技に思わずもらい泣きするわたくし。

太宰も太宰なんだよなー

奥さんの留守に女を家にあげるんじゃないっつーの!

 

雪の降る夜、一人咳込みながら歩いていた太宰はついに大喀血をおこす。

白い雪に赤い血だまり。

吐いたものがのどにつまり意識不明となってしまう。

雪は白い花へと変わり倒れた太宰を埋め尽くすかのように降りしきる。

なんだかなぁ

とても美しいんだけどこの違和感は何ですか。

もっとこの時代の空気感が出てれば良かったのにと思う。

そしてただ太宰の行動だけを追わないでもっと内面をリスペクトしてよと思った。

そう思いながら、今の時代で太宰治を描くとこういうものなのかな・・とも思ったよ。

 

戦後脚光を浴び売れっ子となった太宰を文壇は誹謗中傷した。 

太宰は志賀直哉が正統派とされる当時の文学界に反発し、成功者の志賀を敵視して噛みついた。

美智子さんからは「もう家庭になんか帰ってこなくていいから、天才なんだから書けるでしょ」と強く言われ、次第に追い詰められた(自業自得ともいえるが)太宰には富栄さんしかいないのであった。

血を吐き富江さんに看病されながら「人間失格」を執筆した、その1ヶ月後に富栄さんと玉川上水に飛び込んだんである。

 

断り切れない太宰は心中したくなくて「もう少し後にしようよ」なんてウジウジする。

生に絶望しながらも太宰は懸命に生きようとしていたのだ。

しかし富栄さんの決心は固く彼女の中では二人は心中する事に決まってしまってるのだ。

それを知った太宰は「ま、いっか」と言うんだけど、なんかほんだしのCMでも見てるんじゃないかと思うほど軽くて苦笑してしまった。