「予告犯」は2011年から2013年まで連載された(今は無き「ジャンプ改」にて)サスペンス漫画で、実写映画化もされてるようだ(見てないけど)
いきなりショッキング過ぎる冒頭。
インターネットの無料動画サイトに新聞紙を頭にかぶった男が、ある食品加工会社に放火の予告をしている動画がアップされたのだ。
犯罪予告は実行され、その後も次々と犯罪予告が繰り返され実行されていく。
集団食中毒事件を起こしておきながら逆ギレ会見した食品加工業者。
勤務する店の調理場でゴキブリを揚げてSNSにのせた外食チェーン店の従業員。
性犯罪事件の被害女性について「男にホイホイついてく女も悪い。自業自得じゃねーの?」とツイートした大学生。
日本の津波被害の映像を見てイルカを殺している天罰が下ったのだと喜ぶ外国の環境保護団体。等々。
メディアで取り上げられた様々な人物に対して、犯行予告しては一方的に制裁を加えていく。
彼は「シンブンシ」と呼ばれるようになり、ゆがんだ社会に制裁を与えるヒーローとして次第にネット上での支持を集めるようになるのである。
警視庁「サイバー犯罪対策課」の吉野警部補(いい女)は、シンブンシは複数犯であるとにらむ。
まあ実はね、その正体は、日雇い労働の現場で知り合いあまりの苛酷さに現場監督殺害の共犯となった4人の青年だったのよ。
彼らはSNSで炎上した者に対して予告しては制裁するのね。
その制裁方法はゴキブリを食べさせたり、監禁して重傷を負わせたり、世間の評判を落とすとか相手によって様々だ。
ところがネット上でシンブンシの人気が出ると、殺人予告をする模倣犯が現れたのである。
これはまあ、あっけなく解決するのだが、クールビューティ吉野は「馬鹿が馬鹿をあおって馬鹿を産む。馬鹿サイクルかよ」と嘆息するのだった。
そして、この事件を発端にして衆議院議員の設楽木は「インターネットは危険なメディアである」という番組を放送し、ネット上の匿名性をなくす法案を作ると言い出したのである。
今の世の中インターネットは不可欠なものだが、その一方で行き過ぎたバッシングやネットでの私的制裁いわゆるネットリンチは怖いなあと感じる時がある。
もちろん本人にも非があって自業自得なのかもしれないし、叩く側の意見がもっともだと思う事もある。
でもだんだん目に見えない大きな流れに巻き込まれるように過激さが増していくと、叩く側の人間に脅威を覚えるようになる。
世界が繋がれるはずのネット社会が、とても狭量で矮小な世界になってしまってる気がするのだ。
14日韓国で、歌手で女優のソルリ(25)が自宅で亡くなっているのが発見された。
韓国の芸能人は自殺する人が多い。
最近では男性アイドルグループ「SHINee」のジョンヒョンや、元「KARA」のハラ(未遂)とか。
韓国の芸能事務所は奴隷契約と言われ、薄給で休みもなく働かされる。
そして冷酷だ。
「BTS」くらい売れればいいけど、そんなの一握りだから、使い捨てられる。
そして超ネット社会だから、アンチによるバッシングが壮絶なのだ。
ソルリはネット上のアンチコメント(悪質な書き込み)でうつ病に苦しみ自殺したのではないかと言われている。
韓国ではそれを受けて「コメント実名制」を導入しようという世論が広がっているらしい。
いやあ、ネット上の書き込みを実名になんかしたら・・・自由にものが言えないと思うけどいいのかな。
ちょっと短絡的だとは思うけど。
一方、「BIGBANG」のT.O.Pは2017年に浮上した麻薬使用疑惑の為に芸能活動を自粛しているのだが、インスタはやってるのである。
先日、自分のインスタに残された「自粛しろ。インスタもやめて、復帰もするな」という批判的なコメントに返信した為に韓国ネチズン(ネットユーザー)から「犯罪を犯してもお金さえあればこんなに堂々と生きてられるんだ」「ファンのおかげで稼げたお金で犯罪を犯した後も贅沢に暮らして、さらに生意気な発言までするとは」などと相次いで批判されてしまった。
正直もう少しおとなしくしてられないのかと思ったのである。
復帰したいのにできないしやる事なくて暇なのだろうか。
韓国の人は成功してお金持ちになった人を妬んで足を引っ張ろうとする人が多いから、気にせずにインスタもやめて今は静かにしていればいいのに。
でもきっとT.O.Pだって悪質な書き込みに対してずっと耐えていたのだと思う。
確かにすべては彼が薬をやったのが原因でいけないのだけど。
T.O.Pのインスタを見に行くと不穏な気持ちになってしまう。
K-POPのアイドルは心を病んでる人が少なくない。
T.O.Pも間違いなくその一人だ。
私は特に彼のファンというわけでもないので深くは知らないが、この人は繊細な人だと思う。
そして「自分はいつだって死んでもかまわないのだ」って思ってるような気がするのだ。
自殺だとは報道されなかったけど、兵役中に薬を大量に飲んで意識不明に陥って発見されたのだから。
SNSが気になってやめられずインスタには彼の復帰を待つファンだけでなくアンチまで呼びこんでしまっている。
T.O.Pはいつか自分を追いつめて、ソルリのように突然死んでしまうんじゃないかと、そんな不穏な気持ちに襲われるのよ(不吉な事書いてるなあ)
目に見えない者の悪魔のような書き込みに対して日々疲弊して心を病んでいくのは、とても恐ろしい事だと思うのだ。
それは芸能人じゃないかとか、よその国の事じゃないかとか、決して他人事ではない気がする。
余談が長くなってしまったが、この作品はネットリンチに対して切り込む一方で、シンブンシと刑事の頭脳戦ともなっている。
シンブンシの主犯格は、通称・ゲイツという非常に頭が切れる青年なのだが、彼は過去にITのブラック企業に勤めていた。
そのスキルで警察の裏をかき世間を騒がすわけだが、これだけ優秀なのに派遣切りにあって、日雇い労働者になるしかなかったのである。
こういう人が正社員にさえなれない日本の社会っておかしいと思う。
ネット民は警察や社会と闘うシンブンシに熱狂するけど、それは仮想で現実は違う。
派遣切りやワーキングプアや日雇い労働といった社会の影の部分も描かれる。
深夜のネットカフェには、帰る家もなく風呂にも入れない人やたった一畳半の誰が寝たかわからない寝床で眠りを貪る人がいる。
シンブンシとなった4人の青年は豊かなはずの日本の底辺に生きていたのである。
けど日雇い労働の現場で彼らが経験したのは、それ以上にやりきれない真実だったのだ。
ここからすべての事件は始まる。
ゲイツ以外のメンバーも、一度失敗したらもう上手くは行かない日本の社会を象徴するような負け組だ。
そしてありそうな話だと思うのは、この作品が当時の社会で起こった実際の事件を風刺しているからだ。
そのせいか読んでてとてもリアルに感じるのである。
ゲイツの言う「人間の自尊心を奪い取ろうとする何か」は社会のどこにでも隠れているのだ。
誰が善で誰が悪なのか。
ゲイツの真の目的は何なのか。
湧き上がるネット上ではカリスマのように扱われ支持された彼が、最後は失望と罵声を浴びながらその結末を迎える。
この物語の帰結は本当に普遍的な人間の愛に落ち着く。
それはちょっと意外な結末だが、結局はシンプルに人間性なんだよね。
たとえ、ネットの匿名性を規制したって大事なのはやはり使う者の人間性なのだ。
私はこの時、自分が何を叫んでいたのかほとんど覚えていない。しかし私は男を口汚く罵りながら、まるで最愛の恋人を失ったかのような喪失感を感じていた
それにしても、この作者は素晴らしい才能だと思う。
作画だけでなくセリフも心に残る。