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大人の漫画読み

映画/「ジョジョ・ラビット」

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(「ジョジョラビット」2019年アメリカ/109分/タイカ・ワイティティ監督)




第二次世界大戦中のドイツ。

10歳のジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)はヒトラー・ユーゲントのキャンプに初めて参加するのである。

鏡に映った真新しいユーゲントの制服に身を包んだ自分の姿に「ぼくは男になるんだ」と誇らしさに昂揚するのだがそこはまだ子供。

つい「でも僕には無理かも・・・」と弱音が出てしまう。

そこへ現れるのがあのアドルフ・ヒトラーで「おまえはダメないじめられっ子だけど、ナチスへの忠誠心だけは強いんだから大丈夫、頑張れジョジョ」と励まされる。

たしかそんな感じ。

 

ヒトラー・ユーゲントのキャンプって、思想教育かと思ったらこれがまたバリバリの実践訓練なのである。

ジョジョはオドオドしてしまってユーゲントの先輩からすぐに目を付けられ、皆の前でウサギを殺すように命じられてしまう。

ある意味見せしめだが、優しいジョジョには出来ない。

まあ、出来ないよフツー。

するとそいつは躊躇なくウサギの首を折って殺し、物みたいに投げつけた後にジョジョを臆病者と罵るのだった。

そしてジョジョ・ラビット(やーい、うさぎのジョジョーみたいな)という不名誉なあだ名をつけ大勢の前で嘲笑した。

居たたまれずその場を逃げ出したジョジョが一人で泣いていると、またまたアドルフが登場する。

ジョジョは彼を親友だと思ってるのだけど、他の人にはその姿は見えない。

どうやらヒトラーはジョジョの心の中の住人なのである。

「ジョジョ、うさぎは勇敢でずる賢くて強いんだぞ」とアドルフはジョジョを激励する。

その言葉に一気にテンションMaxになったジョジョはアドルフと共に走り出し、訓練に飛びこむと手榴弾を奪い取って投げようとするのだが失敗。

ドジだのお。

爆発してジョジョは大怪我を負ってしまう。

 

ジョジョは母親(スカーレット・ヨハンソン)と二人暮らしだった。

出征した父親は行方知れずとなり、姉は亡くなっていた。

母親は怪我が治りきらないジョジョのために、ヒトラー・ユーゲントの事務局へ乗り込んでクレツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)に掛け合い、ジョジョは楽な奉仕活動を行う事になる。

ビラ張りとか廃品回収とかね。

ある日、ジョジョはニ階の亡くなった姉の部屋 から物音がするのを聞く。

そして姉の部屋には隠し扉がある事に気づくのだが、なんという事か!ユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)が匿われていたのである。

 

と、まあこんなあらすじ。

こう書くとナチス・ドイツ下の戦争ものか~と思うけど、すげーコメディー。

作品全体の雰囲気も明るくて登場人物がみんなユーモラスだ。

ジョジョ役の俳優がとても可愛い子で、エルサを見つけて腰が抜けちゃうとことかうまくて笑ったのお。

そりゃ、家の中に知らない人が隠れてたら怖いよね。

しかも常日頃から悪の根源のように聞かされてるユダヤ人だったんだから。

 

冒頭でビートルズの「抱きしめたい」が流れ、モノクロ映像で大勢の熱狂的なファンの姿が映し出される。

ストスノデビューの盛り上がりの比じゃないって、アータ。

えー、当時のドイツ人こんなにヒトラーに熱狂してたの?

まるでアイドルみたいに(正直ビックリした)

こんな意味ありげなプロローグとか、タイカ・ワイティティ監督が自ら演じてるコミカルなヒトラーとか、見始めはなんつーか危うさを感じる。

やっぱどんなに時代が変わってもヒトラーってパロディーが許されない人物だと思うし。

 

ヒトラー・ユーゲントは、子供たちにナチスのイデオロギーを植え付けヒトラーに命を捧げる兵士を作り出す目的で結成された。

スポーツやキャンプを重視し、集団生活を通じて肉体的訓練やナチスの世界観を洗脳したのである。

きっと初めはうさぎを、やがてはユダヤ人を殺せと命令するのである。

 

怪我をして顔に傷跡が残ったジョジョは、思いつめた表情で「ぼくは醜いか?」とアドルフに尋ねると彼は「醜い」と答える。

ナチスはユダヤ人だけでなく障害者も淘汰していたから、顔に傷を負った彼は自分も不具だと思ってしまう。

アーリア人の優越と反ユダヤ主義を唱えるヒトラーの人種的純血へのこだわりがホロコーストへと至った。

つまりはナチスのエリートは長身で金髪で青い目が良しとされ容姿の美しさが重要視されたのである。

 

だが、ここに登場する主要人物はナチスからは歓迎されない人ばかり。

ユダヤ人のエルサの他、母親は密かに反ナチ運動家であり、クレツェンドルフ大尉はゲイである。

こんなナチの将校いるのかと思うほどゆるゆるのクレツェンドルフ大尉は、投げやりな中にもジョジョに優しく父親のようだ。

母はヒトラーを信奉する息子に、ダンスを愛し平和に暮らす幸せを教えようとする。

ジョジョが母親に抱きしめられながら、二人で踊るシーンはウルっとくる。

 

そしてアドルフは度々ジョジョの空想の中で励ましたり助言をくれるけど、ジョジョの自問自答なのである。

子供の心に棲みついてしまうほどのヒトラーへのリスペクトに驚愕するけど、そんなジョジョの前に現れたエルサが彼の信じる世界を崩壊させていく。

ユダヤ人は魚と交尾したとかペニスの先を切って耳栓にするとか、いくら子供だからつってそんなデタラメを教え込まれていたジョジョ。

でもエルサは可愛い。

ユダヤ人とはユダヤ教を信仰する人々であって人種としてのユダヤ人はいない。

見た目は同じだしユダヤ人特有の外見の特徴などはないのである。

 

エルサはジョジョの亡くなった姉と同じ年の少女で、彼女からユダヤ人について教わったり色んなやり取りの中で、自分が信じ込まされて来たものに疑問を持つようになる。

戦時下の独裁政権が教育を通じて子供を洗脳していくのはよくある事だ。

子供は純粋で本当に染まりやすいから、制服や名誉の戦士に憧れ死を美化して酔いしれる。

戦後ユーゲントの団員はナチに利用された犠牲者とみなされ裁判にはかけられなかったが、洗脳を解くのは並大抵ではなかった。

が、今でもこういう事は起こり得る。

ジョジョがあの時うさぎを殺さなくてよかったと思うし、言われた事をただ信じるのではなく自分の頭で考え判断する事が大切なんだと思わせる。

降りかかる悲しい出来事やナチス・ドイツの崩壊など、怒涛のように押し寄せる運命を黙って受け入れながら、結べなかった靴紐が結べるようになりジョジョは成長していく。

子供って素晴らしい存在だ。

どんなに傷ついても再生してゆく未来があるのだ。