akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「たそがれたかこ」入江喜和

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(入江喜和「たそがれたかこ」全10巻)


私は漫画はけっこうジャンル問わず何でも読む方だが、こういう人生の黄昏に差し掛かった45歳の女性の日常系とかはあまり興味なくて(すまぬねえ)

それにしても45歳で黄昏とは、ちと早過ぎやしないかと思ったわけだ。

 

主人公のたかこは母親と二人暮らしのバツイチで社員食堂で働いているのである。

一人娘の一花は元夫が引き取っているが、元夫はもうちゃっかり若い女と再婚している。

母親が大家をしてるアパートの一室に母子で住んでて経済的には困ってないのだが、たかこは若い時から人付き合いが苦手でしてね。

今はただ仕事に行くだけの冴えない毎日で、職場では疎外感を感じるわ家に帰っても母親は耳が遠く会話が一方的でつまらないわで漠然とした孤独を感じてるというね。

友達もいないから話を聞いてくれる人もいない。

だいいち話を聞いてもらうほどの大きな悩みとも思えないし、そもそも人に会うのがめんどくさいのだった。(しょうがねえなあ)

 

「コミュニケーション能力」というスキルを持たぬ者は社会不適合者の烙印を押されてしまうこの国では、自分とは1ミリも共通点を見いだせないと思う相手でもヘラヘラ笑って話を合わせねばならぬ。

まあ疲れるけど仕方がないのサ。

この女性はそういうのが苦手で生きづらい人の成り果てた姿なのである。

なんか読み始めてハッっとして、他人事じゃねーよと我が身を振り返る。

 

しかしもう、たかこの作画がひどい。

まだ45歳なのに目じりの皺とか大袈裟すぎておばあちゃんのようだよー。

フツーは少女から女になっておばさんになってくもんだけど、たかこは少女から一気におばさんになったのだ。たぶん。

これはもう十分に黄昏だった。

 

また同居してる母親というのが、地味なたかことは対照的に明るくておしゃべりで天然なのかボケてるのか自分の事ばかり話したがるのでちょっとウザい。

耳が遠いから会話が噛み合わないのもあるけど(隔世遺伝を「えっ、覚せい剤?」とか落ち込んでるんだよと言うと「えっ、落ち武者?」とか万事が万事この調子なわけ)そもそもこの母親が娘であるたかこの気持ちをまったくわかってないのである。

でも年寄りだし悪気はないんだから怒るわけにもいかず、老いた親に優しく接する事が出来ない自分に反省するたかこに共感したりする。

 

これはそんな疲れた中年女性たかこがある日、ロックバンドのヴォーカル「光一くん」のファンになった事で明るく変わって行くと共に、娘が拒食症になりそれを克服していく過程が物語の重要な側面になっていて、アキバのタワレコにCDを買いに行ったり(そんな事が彼女にとっては大冒険)退屈だった日々が楽しくなったりしてウキウキしてるうちは良かったけど、そのうち光一くんとの擬似恋愛を妄想するようになるたかこの乙女心がそこはハッキリ言ってキモい笑

しかしこの中年女性のイタさという点では、最後の最後まで振りきってる感がある作品で、読み終わった時なんかすごい物を見たぞおという気になった。

 

中3の娘一花は元夫と継母と三人で暮らしていたのだが、不登校になってたかこの家へやって来る。

そして拒食症だとわかるのだが、子供が拒食症になる場合多分に心に問題があるんだと思うから親は本当に切ないんだよね。

拒食症になった理由はよくわからないのにたかこは自分のせいだと思ってしまうし、何でも一方的に決めつけてくる元夫でさえ「お父さんが悪かったと思ってる!」とか言って責任を感じてて、しかも拒食症の人に食べろと言ってはいけないんだって。

これってうつ病の人に頑張れって言っちゃいけないのと同じで、拒食症の人は食べたくても食べられないから苦しんでるのであって「おいしいよ~」とか「ちょっとだけでも食べてみ」とかしつこく言われると責められてるような気になってしまうらしい。

そういう心理がたかこにわかるのは実は彼女も若い時に拒食症になった経験があるからなのだ。

たかこは一花を心配しながらも今さら自分が母親ヅラするのも図々しいと「拒食症の先輩」「不登校の先輩」「世の中とうまくやってけないけどなんとか生きてる先輩」というスタンスで彼女を見守ろうとする。

自分を頼ってくれない娘に「なんでっ!?」て腹を立てながらも決して口には出さず、根気よく彼女の気持ちに寄り添う。

 

どうしてたかこは離婚したのか、どうして娘を置いてきたのか、なんだかすごく気を使い合う親子関係は何なんだろう、とかいろいろ気になる事が読んでるうちに徐々に明らかになったりならなかったり。

一花の体重が30キロ代になってしまい、ブカブカになってしまった制服を見て以前の健康的な姿が浮かぶけど、感傷的になんかなってる場合じゃない!娘ががんばってるんだから!と思い直すたかこ。

そして深夜に光一くんのラジオを聞きながら滂沱の涙を流すたかこ。わかる。わかるよたか子の気持ち。

自分の自信のなさに諦観していた人生だけど心のどこかで抗いたいと叫んでる。

でもホントにたかこの作画がひどくて、てかリアルに描かれてるので、泣いてる顔が美しいのはやっぱ若いうちだけなんだと興ざめる。

 

この物語は一花の話がなかったらただの暴走気味のイタイおばさんの漫画になってしまう。

中学生男子を好きになるってなんやねん。

現実と妄想の区別ができなくなってるし。

恋して若返って他人と関われるようにもなり人生が明るくなったのだからもう苦笑するしかないんだけど、若い人を眩しく眺めるたかこの気持ちもなんだかわかるし、世の中の人はもっとおばさんの価値を認識すべきなんじゃないかと思ったりした。

しかしこのラスト、日本では「なんだ!いい年して!」と非難されそうだけど、もしもフランスだったら「純愛だ!」とか言われて喝采されるかもよ。

ほらなにしろ愛に寛容なお国柄だから。