日波里は中学二年生の女の子。
学校でハブられてるひばりは母親のいとこの完の部屋で放課後を過ごすようになるが、完の彼女の富子はひばりに嫌悪感を持つ。
ひばりが中二とは思えない肉感的で大人びた容姿の女の子だったからだ。
完は殊更悟られないように振る舞いながら内心では、ひばりが自分を見る目がエロいとか、こいつオレに惚れてんじゃね?とか思ってデレデレしていた。
ハーまったく男ってやつぁ
富子は完が初体験の相手でもう七年も付き合っているのだが、昔から女としての自分に劣等感を感じていた。
彼女はスレンダーでクール・ビューちぃーな感じが結構ステキな女性なのに、まあ確かに胸はちょっと薄いかもしれんが。
ひばりのように胸もデカくて可愛い女の子は黙ってたって男に愛されるわけで女としての価値が高い、それにひきかえ自分は女としての魅力がない、可愛くない・・・とかもうひばりを見てるとやたら劣等感を刺激されちゃって嫌な気持ちにしかならないのであった。
ちょっと卑下しすぎだってば。
友達のいないひばりに悪意を持って近づくクラスメートの美知花は、ある日ひばりから「お父さんが怖くて・・・」と聞き出す。
夜寝てると部屋に入ってきてじーっと見てたり、風呂に入ってるとずっと洗面所を使ってると言うのだ。
その話を聞いた美知花は目を輝かし、別の友達に「あいつは父親から性的いたずらを受けてる、つーか自分で誘ったんでしょー、マジ受けるー」と超楽しそうにしゃべるのだった。何してんのアンタ。
ひばりは「キンシンソーカンキモイ」とかひどい噂が広められ学校に居場所がなくなってしまう。
誰も話せる人がいないひばりは完と富子の友人の憲人に打ち明けるのだった。
実は憲人は昔からずっと富子の事が好きなのだが完に取られてしまったわけで、なんであんなヤツと付き合ってるんだよとすごーく鬱憤を溜めていたのだ。
ひばりになんとなく近づいたのも、こいつとどうかなったら完の鼻を明かせるとか冗談半分で考えたりしてね。
でも父親からの性的虐待などというショッキングな話をされた憲人は、ひばりに何を言えばいいのかと戸惑い、正直そんな厄介事をオレに持ち込むなよと思う。
一方、ひばりを好きなクラスの男子の相川は告白するも拒否られるが、噂によって孤立する彼女を見ているうちに勇気を出して手を差し伸べようとするのだった。 以上。
まあなんつーか、クスっとも笑いのない凍てつく作品でしたな。
「父親から性的虐待を受けている」と聞いた周囲の人間の感情や態度が描かれている。
しかもその子は発育がよくて中学生に見えない!なんかフェロモンを出してる!ように男は感じてしまい、性的ないやらしい目で少女を見ている、という設定である。
ひばりはオドオドしてて口数も少なくあんまり頭も良さそうに見えない、ってか、まだ子供だから当然なんだけど。
全然子供に見えないのが問題なんで、自分のそういう所をわかってやってるんだとか、あれはオンナだとかって噂されてしまう
そんなひばりにたいていの女は嫌悪感を抱く。
日頃、もっと色気が欲しいって思ってるのに、色気ダダ漏れの中学生がいたらそりゃ嫌かもしれないけどさ。
ひばりの母親は自分の事しか興味がないような人で、小学生から痴漢にあって訴えると「痴漢ぐらいで騒いでるんじゃないわよ。誰だって会うんだから」みたいに軽く流されるし。
そんな風に見られてばかりだから「自分が悪いんだ」って思い込んでしまうひばりの姿に、哀れを通り越して怒りすら湧いてくるあたし。
「ひばりは父親から性的虐待を受けている」その噂は波紋のようにひばりの周囲の人たちに動揺を投げかけていく。
みんなかわいそうだとは思いながら、結局はエゴイストなんだ。
ひばりを助けようと富子に相談した憲人は富子と二人で話せる事にウキウキしちゃうし、富子から聞いた完は「実の父親がそんな事するわけねーだろー」とまったくあり得ない事として処理しようとするし、恐らくはそういう面倒な話は煩わしいから見て見ぬ振りをする完にこんな無神経な男に七年もしがみついてた自分って何?と富子は別れを決断するし、少年は一緒に帰ろうと誘う。それは同情なのか愛なのか。
また、クラス担任の女性教師の辻は唯一ひばりは普通の子供だと見抜いている人なのだが、私は生徒に興味はないとノータッチを決め込む。
この作品は基本的にそれぞれの登場人物の目からみる客観的描写に終始していて、ひばりの心の声はほとんど語られない。
読み手はひばり以外の登場人物と同じ目で彼女を見る事になるのだ。
ある意味主人公不在の作りになっていて、それについて不満はないけどわかりずらい。
フツーは主人公の主観や感情をわかりやすく伝えようと描くのに、あえて情報量を少なくして読み手に想像させようとしてるのだ。
父親の性的虐待はあったのか?
それらしい描写はあるものの最後までハッキリとは描かれない。
しかし詳しい情報を十分に与えられたからって読む者の心が動くものでもない。
この作品を読んでてとても感情を揺さぶられたり心に響くのは、要所要所で挟まれるメッセージ的なセリフが非常に効果的に使われてるからだ。
きっと読み手は心を動かされて作者の狙い以上に多くの事を想像するんだよね。
しかしながら現実に親から性的虐待を受ける子供の実態は見えにくい。
家庭が閉ざされた空間であり第三者から発見されにくく、子供が自分から声を上げる事はないからだ。
周りの大人にできる事は子供のサインを見逃さない事で、作中でもひばりが完の部屋に行きたがるのは家に帰りたくないからだと見てとれるが、完は自分に気があるのだと勘違いする。
せっかくひばりが話しても、彼女を被害者として見るよりも彼女に対する性的な感情や嫌悪感が先立ち誰も彼女を救おうとしないのである。
何はともあれヒジョーに怖い悲しい作品であった。