2014年に「モーニング」に彗星のように現れた(そう見えたんデス)田島列島の「子供はわかってあげない」はいい作品で映画化もされたようだけど、まずまず寡作でしてね。
次は何を描くのかな?と思ってるうちに4年も過ぎていたという。
そしたら突然「別冊少年マガジン」でこの作品が連載してて、うおお!なぜいる!?と。
ちょっとうれしくなったりして。
そんな本作のあらすじはと言うと、高校進学を機におじさんの家に居候する事になった少年・直達くん。
ところが雨の中を最寄り駅に迎えに来たのは榊さんという知らない女性でして、なんか直達くんに対して感じ悪いのだが、それには理由がある。
直達くんは、榊さんはおじさんの彼女で二人の愛の巣にオレが行くから怒ってんじゃねーの?全然笑わないし・・・などと思ったりするけど、案内された家はシェアハウスになっていたのである。
つまり26才でOLの榊さんはただのシェアハウスの同居人で、なぜか漫画家になっていたおじさんと、喧嘩が強い女装の占い師・泉谷さん、ちょっと曲者風の大学教授・成瀬教授、という個性派の面々が一つ屋根の下で暮らしていたのだ。
そこに直達くんも仲間入りし男女5人の珍妙な共同生活が始まるんだけど、実は直達くんと榊さんには思いもよらない因縁があったのである。
それは遡る事10年前、直達くんの父と榊さんの母がW不倫の挙句の果てに駆け落ちしていたのだ。
その後二人は別れ父親は戻ってきて、小さかった直達くんは何も知らないのだが、これがまた早々に榊さんと教授の話を立ち聞きして知ってしまうんである。
榊さんの方はと言えば、当時は高校生で母親はそのまま帰ってこなかったのである。カワイソウダワネー
という、どうにも複雑きわまりない関係性にある二人が同じ家で暮らす緊張感。
何かが起こりそうな不穏な感じに、とりあえず手汗がやべえ。
二人はお互いが加害者でもあり被害者でもあるわけだが、榊さんは直達くんは何も知らないんだし、まだ子供だから関係ないと思おうとする。
目の前にいる直達くんがとてもいい子だからそう思おうとするんだけど、やはりそう簡単には割りきれないのよ~
なのに努めて無感情に振る舞おうとするから、榊さんの言動はどこかおかしくて、皆はやたらツッコミたくなる。
その軽妙にしてコミカルな会話が魅力なのだ。
榊さんがこの件に自分が関わる事を望んでないと知った直達くんは、手も足も口も出せずにオレはこのままヘラヘラと知らないフリして生きてくのか?とジタバタ悩み、父親を「善良な市民面して何事もなかったかのようにマイホームパパやって人間て恐ろしいじゃ~」と冷静に見たり、お母さんは今さら怒ってないよね?おじさんは?
とかもう全方位ひとりで気を使いまくるし、こんなギクシャクした人間関係やだなー
生きてりゃ人生には色々な事がおきる。
生きていく事は選択していく事だ。
だが時にその選択が正しいとは限らないし、あの時の選択は間違いだったと後で後悔しても過去に自分がした事は消せない。
家庭のある身で恋をして家族を捨てる事を選んだとしても、一時の激情にかられる人の愚かさがあたしは人間らしくていいと思ったりするのだ。
でも二人の選択によって子供は深く心を傷つけられた。
直達くんはまだ5歳だった自分が、いい子にしてないと捨てられると感じてた事を思い出しちゃう。
榊さんは自分はもう恋愛はしないんだと頑なに決めちゃってる。
身勝手な親の選択が悲しい子供を作ってしまった事を彼らは知らず、それぞれがもう何事もなかったかのように素知らぬ顔で暮らしているのである。
榊さんは本当は怒っているし泣いているし苦しいのだ。
榊さんが終わった事に余計な波風を立てたくない、何もなかった事にして今まで通り暮らしたいと望む気持ちもわかる。
だけどそれは榊さんが感情を抑えるのが当たり前の習慣になってるからで、真に自分と向き合っていない。
榊さんの中ではちっとも終わってないし、むしろ引きずってるし、もうこじらせちゃってる!
だから直達くんは少年らしいストレートな純粋さで、榊さんの重荷を自分も半分持ちたいなんて言い出すのである。
ああ、だけどそんな事言って、どうにかなるんだったらもう解決してるはず。
こんな事ばっかりで大人は皆どーやって生きていくんだろうって、直達くんは多いに悩んでしまう。
家族の元を離れ、疑似家族のようなシェアハウスで暮らす日々はのんびりして居心地がよくて楽しそう。
ここで共同生活を送る人たちが適度な距離感と優しさで他者に接するのは、ある意味大人で人間関係に割り切っているからなんだろうね。
甥っ子を愛するおじさんも、ギクシャクする二人の関係を面白がってるようにしか見えない教授と泉谷さんも、直達くんに思いを寄せる泉谷妹も、面白くて憎めない人たちばかりだ。
だけどフワフワとした描写と会話の面白さでノンキに読んでると、不意に胸にグサッと突き刺さったりするから侮れない。