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大人の漫画読み

漫画/「アマネギムナジウム」古屋兎丸

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(古屋兎丸「アマネギムナジウム」既刊6巻)



球体関節人形は関節部が球体によって形成された人形で、自在なポーズを取らせる事ができるのが特徴だ。

何より驚くのは人形とは思えない極めて人間に近い精巧さとその美しさで、肌の質感から瞳から毛髪から人形の表情までもが、もうね~生きてるみたい

まあそれだけに大変高価なんでございます(すぐ金の話をしたがるアタシ)

以前秋葉原のショップを覗いたら、どエライ値段に驚きましたよ。

しかしなんでか、この球体関節人形というのは倒錯的な色合いが強く、ちょっとフツーの愛玩用の人形とは一線を画してるよね。

なんか見てはいけないモノを見ちゃったような気持ちになる。

その妖しい美しさに人は取り憑かれてしまうのだろうか?

 

さて、この作品の主人公は人形作家の宮方天音(27歳)だ。

人形作家とはどんな暮らしをしているのか?と思えば、これが人形だけで食っていくのはなかなか難しいようで、彼女は門前仲町にある築80年のボロ家(風呂なし)に住み、地味な派遣社員をしながら人形制作をしていた。

実家の母親からは二言めには早くいい人を見つけて結婚せよと催促されるが、実は彼女は結婚どころか彼氏いない歴27年なのである。

けっこう美人なんだけど、なんつーか「オタク的な人」だから人とつるむのが苦手だし社内では浮いちゃってる。

変な子とかキモイとか思われても慣れてるから気にしてないし、たとえ友達がいなくても一生独身でも人形さえいれば幸せだと彼女は思っていた。

 

ある日天音は贔屓の画材屋の店主からもらい受けた不思議な粘土で、ドイツの「ギムナジウム」をテーマにした7体の少年の人形を作り上げる。

そのネタ元は「アマネギムナジウム」という、萩尾望都先生のあの名作「トーマの心臓」に出会い感動した中学生の天音が描いた厨二病ノートで、ナント彼らは動き出すのである

そして天音がノートに描いた設定通りに、今は1970年でここはドイツケルン郊外にある200年の伝統を持つ「アマネギムナジウム」だとしゃべり出す。

ドイツについて何も知らない中学生が適当につけた設定を堂々と語って来るのである。

何より彼らは自分たちは人形だとは知らず人間だと思ってるのだ。

いやー、この球体関節人形って本当にリアルに出来てるので動き出してもおかしくないような気がするものね。

しかも天音自身も少年たちの世界「アマネギムナジウム」に入り込めるようになっていうね

おお、なんという奇跡!自分だけのギムナジウムがあるなんて!純粋かつ繊細な少年たちの揺れ動く心模様や嬉し恥ずかし寮生活や生き生きと輝く少年たちの姿が真近で見られるのよー

 

ところが天音を待っていたのはそんな甘いもんじゃなかった。

そこは少年たちの愛と葛藤が交錯する聖域であり、その閉鎖された世界の中で彼女がつけたうかつな設定が少年たちを苦しめるようになるのである。

優等生でクラスの人気者のフィリクスと幼なじみで問題行動ばかり起こすヨハン

ある時、ヨハンは鐘塔に登り鐘をならしまくり学校中が大騒ぎになってしまう。

「どうしていつもこんな事ばかりするんだ!?」

何を考えてるのかわからないヨハンフィリクスが問い詰めると

「イライラすんだよ!!」

思春期ボーイあるあるなセリフを叫ぶ荒ぶるヨハン

美形キャラのヨハンにホの字のゼップはヤンチャ系少年で、なんでも出来ちゃうフィリクス嫉妬していた。

そしてフィリクスは父親と母親が離婚の危機にありひとり苦悩していた。

心に闇を抱えながら自分を偽り優等生を演じ続けるフィリクスをヨハンは心配し、このままではフィリクスが壊れてしまうと案じていたのである。

二人は心の中ではお互いに愛し合っていたのだ。

自分がフィリクスの親友だと思っていたテオフィリクスを逆恨みするようになり、二人を妬み二人を引き離そうとゼップに持ちかける。

 

なんつーフクザツな恋愛関係だい!!

中学生の天音の腐りすぎた設定のせいで、ギムナジウムでは次から次へと事件が起こる。

更に事態を難しくしたのは「ヨハンは両性具有」(ー_ー)!! という設定であった。

ザップテオフィリクスに陰湿な嫌がらせを始め彼を貶める。

もうやめてほしいと頼むヨハンザップ「だったら俺の女になれ」と、性的興奮を催しながらヨハンのズボンの中に手を入れてくるのだった。

人は(人じゃないけど)自分のために自分を売る事はしないが、愛する人のためなら自分なんてどうなってもいいと自分を売る。

だがしかし、この卑劣で醜悪な者たちの前ではヨハンの犠牲など屁のような物でしかないのだ。

これはもー地獄じゃないか。どうするのだ天音?

 

ちなみにここで言うギムナジウムの世界観は、ドイツの全寮制男子校なのである。

70年代の少女漫画を席巻した24年組にはギムナジウムを 舞台とした作品があり、前述の萩尾望都のあの名作「トーマの心臓」竹宮恵子のあの名作「風と木の詩」等は超有名作品でお姉さま方のバイブル的存在である。

ギムナジウム漫画に必ず登場する三大は「寄宿舎」「聖堂」「古びた温室」で、この言葉だけでロマンチックな気分がわきあがっちゃう。

このテの作品にはギムナジウムで共同生活を送る多感な少年たちの世界を覗き見るという楽しみもあったのだ。

そこへ来て、球体関節人形と人形作家、耽美のオンパレードに心が躍るねえ。

 

しかしこれは、やはり単なるファンタジーではなかった。

だって古屋兎丸氏だもの。