たぶん静子ママのセーラー服姿が表紙の第8集。
「血の轍」は中学2年の静一と母親の静子との母子関係を描いた作品で、母親はいわゆる毒親である。
母親は第①集で登場した当初は中学生の子がいるとは思えないほど若く可憐に描かれていて、それは静一の視点から見たママなのだ。
ところが、親戚一同で出かけた山登りで、ママが静一の目の前で従兄弟のしげるを崖から突き落とした所から様相は一変してくる。
「しげちゃんが足をすべらせたの。ごめんなさい!助けられなくて」と迫真の演技で皆を騙す姿は尋常じゃなく、まさか嘘をついてるうちに本当にそう思い込んでしまったのだろうか、と感じさせるほど真に迫っていた。
激しいショックを受けた静一は吃音になってしまう。
今まで普通に喋っていた子供が突然吃るようになったらもっと心配してもよさそうなのに、そこはスルーなのが変だ。
息子を溺愛してたはずなのになぜ無関心なのだ。
ママの関心はそんな事よりも、静一に好意を寄せるクラスメイトの吹石さんにあったのである。
吹石さんはクラスでも可愛い女子で、こんな子がなぜ静一のようなおとなしい子に近づいてくるのか疑問だったが、彼女はママの伏兵となりこの痛ましい母子関係のキーパーソンになるに違いないと期待させたのだ。
彼女が静一の吃音の原因が母親だと見抜いたり、静一の手を取り「逃げよう」と言ってくれた時は心が躍りました。
もう少し静一が大きくて自分の思いをきちんと言葉に出来ればいいんだよね。
静一は年齢よりもずっと幼稚なのだ。
いくら純潔の喪失は重大だとは言え、少年が童貞を無くす事にあれほどの喪失感を持つとは・・・
頭の中がママで一杯で「ママ大人になりたくない!」って叫んでたよね。
吹石さんもアレだな、殴る親父から逃げたかっただけなのかもしれんな。
彼女は可愛いいけど性的に見えちゃうんだよね。
親父にとってはそれが嫌なんだろうね。
さて、重篤だったしげるが意識を取り戻し、ママを指さして何か言いかけたのを見た伯母さんはママに疑念を持つ。
しかし静一はママをかばって凄い形相で否定した為、ママはその姿に感動して二人は泣きながら抱き合うのである。
もう、ママの感情に静一がリンクしていて、ママが笑えば自分もうれしくなっちゃうし、ママが涙を流せば自分も悲しくなって泣くのだ。
今やこの家族は機能不全家族となり、掃除もしなくなりゴミだらけの家の中を見れば、ママのメンタルの異変がわかりそうなものだ。
だが父親は何してるのかと思えば元々存在感が薄く何も言えず、その父親が帰宅すると、ママが静一にアーンして食事を与えてる最中で二人はウフフと楽しそうなのだ。
食事はコンビニで購入してきたような物だ。
父親はそんな二人の姿に疎外感を感じ、あなたの分はないから外で食べたらいいぐらいの事を言われてカッとなり「こんな家もう嫌だ!」と怒って出て行ってしまう。
父親も自分だけが被害者面っていうのは、まったく無責任だと思うよ。
ママが「何アレ出てったよ」と馬鹿にしたように笑い出し、静一もつられて「出てったね」と一緒に笑う姿は幸せそうで異様だ。
翌朝、ママに起こされた静一は「静ちゃん、かわいいー」と抱きしめられ、いつもの「肉まんにする?あんまんにする?」ではなく目玉焼きを食わされ、ほっぺたをツンツンされたり、じっと見つめられて「このままずーっと、二人きりで行こうね」なぞと言われるのである。
学校に行っても周りの光景はぼやけて友達の声も雑音でしかない。
静一はトイレでふざけてきた友達にいきなり暴力を振るってしまう。
あのおとなしい子がなぜ?と訝るほどの暴力事件だったが、静一の中ではボンヤリとした曖昧なものでしかなく「僕はどうして殴っちゃったんですかね」と言い出して先生を慌てさせる。
ママは女優モードを発動し土下座して詫びるが「吹石さんがたぶらかしたせいだ」と言い出し、先生や被害者生徒の親は違和感を持つ表情になる。
ついに伯母さんが静一を車で待ち伏せ、ママがしげるを突き落としたのだろう、見てたんだから本当の事を言ってと迫られる。
ママは嘘なんかついてないと、運転中の伯母さんに殴りかかる静一に伯母さんは思わず「やめな!この人殺し親子っ!」と叫ぶのだった。
ママのやった事は犯罪なんです。
静一はそれを目撃したのに、ママは「しげちゃんが足を滑らせたから助けようとしたのに間に合わなかったの」と涙を流しながら事実を歪曲して幻想を作り出し、静一の記憶を書き換えてしまった。
せめて静一の前でママが自分のした事を認めていれば、彼の心はここまで引き裂かれる事はなかったのだ。
ママの矛盾を押し付けられたうえに、犯罪の片棒まで担がされてるのと同じ事だ。
言う事を聞かないと捨てられるって追いつめられ、心を支配されて盲目的に従うだけになってしまったねえ。(ため息)
ママの顔色をうかがうばかりで、自分では何も考えず動けない。
なんかもうこの二人は、母子の間に入るものは邪悪な敵とみなす棘のような狂気に取り憑かれている。
ママも自分の都合が悪くなるとトボける時の顔とか、なんつーか胸糞悪くて、作者はホントにうまいですね。
毒親の怖さだけでなくキャラの顔がだんだん恐怖漫画のような体になってきた。
でも、人間て時にこういう歪んだ表情もするんだろうなとも思う。
結局ママは自己愛の人で、静一の気持ちなどどうでもいいように見える。
それでもきっと私は息子をこんなに愛してるのにって言うんだろう。
これからの展開で静子ママの生い立ちが明らかになっていくんでしょうな。
悲しいけれど人って自分が親からされた事を無意識のうちに子供にしてしまうのだ。
毒親の親もまた毒親だったのかもしれないよね。
だけど自分が毒親だと思ってる親はいないだろう。
にもかかわらず世の中の多くの親が、無意識のうちに自分の心が抱えているものの苦しさのはけ口として子供にぶつけているのも現実だ。