亜人はどう生まれたのか?
佐藤さんとの決着はつかないまま、舞台はいまだに入間基地である。
基地の内部は、永井くんが起こしたフラッド現象により大量のIBMが放出されてビックリなのに、嬉々として同調した佐藤さんのせいで、禍々しいほどの黒い煙&黒い幽霊が渦巻く恐怖絵図。
そんな危険な場所へとわざわざ見に行くヘビースモーカー、オグラ・イクヤ博士。
吸い過ぎデス。
この巻でオグラ博士が明かす亜人誕生の瞬間はこの物語の重要なきもだ。
「マイルドセブンFK」を愛煙するオグラ博士は飄々とした変わり者でしてね。
あたしも時代に逆行してまだ愛煙家ですので、オグラ博士の「昔は誰でも自販機で煙草が買えるいい時代だった」というセリフには「ウンウン(*^^)v」とうなずきましたよ。
オグラ博士という人は、IBMが目の前でメッチャ殺気を見せても平然としてるし、さすがに亜人研究の第一人者だけあるんですけど、肝が据わるというよりは恐怖感が欠落してますよね。
何かを見透かすような目が冷徹な科学者の目かと思えば、突拍子もない話を持ち出すとことか、チョット胡散臭い気がしてしまうんだよね。
亜人という不死の者はどう生まれてきたのか?
人間が何らかの要因で後天的に亜人になるのだろうか?
今まで佐藤さんとのバトルが面白すぎて忘れそうだったけど、それは誰もが知りたかった事だ。
これがちゃんと説明されないと、ここまで読んできた甲斐がないってもんだ。
オグラ博士は「亜人は人の心が作り出したものだ」と言う。
エー、ヒトノココロオ??
彼が語ったのは、なんと138億年前の宇宙誕生からの壮大な亜人の物語だった。
宇宙が考えたシナリオの、人の進化の過程で想定外の事が起きたと言うのだ。
それは「人間の感情」が未知のエネルギーを生み出す事であった。
(ウーン・・・)
まるで神話か、非科学的なオカルト現象だ。
それを聞いた学生さんが「なんの根拠も検証もない内容だ」とオグラ博士を糾弾するのは、作者もこれじゃパンチに乏しいと感じてるのかしら。
しかしオグラ博士は相変わらず人を食ったような態度で
「人生は無意味だ。なんの価値もない」
「だが、ただ生まれ死んでいくだけの存在の人間が宇宙の意思に反して、まったく新しい何かを作り出した可能性があるとしたら?そう信じたいじゃないか」
となんとなくカッコよく決めるので、なんか煙に巻かれたような気になるのであった。
(まあそういうキャラですが)
科学者の想像の域を出ない話だが、それより他に説明がつかなかったのであろう。
だが、確かに入間基地で起こったフラッド現象は、永井くんの海斗への精神状態が特別なエネルギーとなって起きたのである。
利己的で自分の感情を合理的に割り切れる永井くんは、今まで冷たいだとか妹ちゃんからクズだと言われた事もあった。
けど海斗が撃たれた時、損得関係なく海斗のために感情を高ぶらせる姿は感動的、というかヨカッタねえ永井クン心があって(^^)みたいな妙に温かい目線になってしまったのお。
一方、大挙して押し寄せるフラッドのIBMから、逃げ遅れた民間人を守ろうとする、亜人の中野と秋山と「対亜」の戦いは熾烈を極める。
「対亜」の5人の人たちなんなん?もうカッコ良すぎて悶え死ぬ。
顔も出ないキャラに真のプロフェッショナルの仕事を見る。
中野と秋山は頭脳派と言うより体力勝負だから、あまりのIBMの数の多さに焼石に水で「こんな時永井だったらいい考えが浮かぶのに」とつい泣き言が出てしまうものの「俺たちみたいのは前だけ向いてりゃいいんだぜ!」と清々しいほどに開き直って敵に向かってゆく姿が、もう感動しかなかったデス。
亜人は人間ではないと排除され追いつめられた彼らが人間を守ろうとする。
「何度でも立ち上がる」
「何度でも」
「何度でも」
というシーンは亜人の不屈の闘志というより、彼らは人間であり真に強いのは人の心だと言っているようにも思える。
敵でも味方でも彼ら亜人が戦う理由はそれぞれだ。
亜人として残酷な人体実験を受けたために人間を憎み、助けてくれた佐藤さんに加担したものの、佐藤さんのサイコパス振りに葛藤するようになった田中。
そんな田中を遊び飽きたおもちゃのように佐藤さんは捨ててしまった。
下村泉は劣悪な家庭環境に育ち、恐らく彼女は亜人管理委員会の亜人への非人道的な行為を告発し死亡した田崎の意思を継いで戦っているのである。
彼らは魅力的で人間的な真実に溢れている。
だけど彼らの涙を誘うような懸命な頑張りに比して佐藤さんときたら「永井くーん、さよならー」と爽やかに別れを告げてヘリで国外へ出国しようとしてるのである。
まったく佐藤さんが最強すぎる。
それに輪をかけて、佐藤さんのIBMの出来が良すぎる。
ヘリを調達してきてくれるし(ヘリの操縦だって出来ちゃう)意思の疎通はもちろん、会話もできるし、こんなに使える相棒はいない。
永井くんのIBMが反抗的でうまく操れないのと対照的だ。
振り返れば脅威の戦闘力や狡猾な作戦を生み出す佐藤さんの悪魔的魅力にハマってしまったけど、ちょっと佐藤さん無敵すぎやしないだろうか?
物語は最終局面なのだろうけど、佐藤さんが強すぎてドウスンダコレ!
この作品は敵味方がはっきりしてて、登場人物の相関関係もそれほど複雑じゃないし、ストーリーはシンプルでわかりやすい。
アクション漫画の中に深淵なテーマを持っているような気がするのは、亜人の存在がいまだよくわからないからなんだよね。
佐藤さんが亜人として覚醒するまでの話、国内最初の亜人認定された女性、中村慎也事件、これまでじわじわと明かされてきたバックボーンとなる事実。
そして銃撃されたはずの傷が再生した海斗がどうなるかで、すべてがわかるのかもしれないね。