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大人の漫画読み

漫画/「ゴールデンカムイ」23 野田サトル

ウーム、インカラマッで始まりインカラマッで終わるこの巻。

すべての登場人物がクライマックスへと向かって足並みを揃えていくようで秀逸でございましたよ。

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(野田サトル「ゴールデンカムイ」23巻)

自分の子をインカラマッが身ごもっていると知った谷垣は、鶴見中尉からアシㇼパを連れ戻せと脅されるが、男谷垣そんな事が今更出来ようはずもなくインカラマッを連れ逃亡しようとする。

だが長風呂の男だから大丈夫今のうちにと思ったらやっぱり気づいた月島軍曹から、銃を向けられ窮地に陥る。

助けてくれたのは刺青脱獄囚の一人、家永カノである。

 

彼女は、いや彼は、見た目はとっても色っぽい美女なんだが実は男しかもじーさんである。

元医師の家永は若さと美しさに異常な執着を持つ変態で、その持論は「体の悪い部分を治すには他の動物の同じ部位を食べればよい」という中国の薬膳的思考だ。

家永は自分が欲する人間の部位を食うカニバリストで、人の血液を輸血したり脳みそを食ったりしてその美しさを保持してるのである。

いつぞやアシㇼパの目がキレイなんでアシㇼパの目を舐めて杉元にブン殴られた事もあったわね。

 

家永は二人を逃がそうとして命を落とす羽目になるのだが、妊婦の胎盤がそんなに食べたかったのだろうか。アレは栄養満点らしいが。

いやいやそれだけでない気がするのは、騒ぎに気づいた鯉登少尉までもが二人を見逃してくれたのである。

これは今にも生まれそうな大きな腹を抱えたインカラマッへの、人としての優しさだよたぶん。

大体結婚式なんかと違い、子供が生まれた時だけは誰もが文句なくめでたいって気になるもんね。

 

土方陣営には尾形が野良猫みたいに戻って来ていた。

隻眼となっても尾形は相変わらずのポーカーフェイスで、銃の方は練習で鳥を撃ちに行ったりするけどやっぱなかなか当たんない。

スナイパーとしてはもう終わりだと思ったけど、案外と執念で蘇るかもしれん。

それでも白鳥を仕留めて来て白鳥鍋を食べてたよ。

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(野田サトル「ゴールデンカムイ」23巻より)


 デカい・・・

 

 札幌の町では、娼婦が猟奇的に殺害される事件が相次いで起こり大騒ぎになっていた。

 

鶴見中尉を警戒してアジトを移動した土方一行は、この連続殺人事件の犯人が刺青脱獄囚24人のうちの一人ではないかと睨む。

ただいま刺青人皮の枚数は土方陣営と鶴見陣営に二極化しており、残りはあと4枚なんである。

 

なんで娼婦を残虐に殺すのかその理由はわからぬが、こんな騒ぎを起こされたら警察も動くし厄介だと、 土方は囚人狩りへと動くぜ。

ご存知のように土方歳三は史実では五稜郭の戦いで戦死しているのだが、実は函館から秘密裏に落ち延び、素性を隠し政治犯として長らく樺戸集治監に幽閉されていたという設定になっている。

70代になっている土方は、銀髪の長髪に顎鬚をたくわえ、老いたりと言えども眼光鋭くヒジョーにカッコいいおじーちゃんとなってましてね、鬼の副長が年を取ったらまさにこんな感じに違いないと思わせる。

 

一方、土方が警戒していた鶴見中尉も当然嗅ぎつけ、菊田特務曹長宇佐美をつけて札幌へと向かわせるのであった。

 

これまで鶴見中尉が一部の部下の人心掌握術として「鶴見劇場」(by月島軍曹)と言わしめた、手の込んだ芝居を長年に渡って仕組んでてたまげたものだが、鶴見中尉の胸の内が明かされたのが興味深い。

兵士は戦争に行っても殺人への抵抗は当然ある。

それを飛び越えるには、敬愛する上官や愛する同士の期待を自分は裏切りたくないと強く思わせる事だというのだ。

まあ要は鶴見中尉のためなら命も投げ出す手駒を作るのが目的なのだが、元々がカリスマのある人物だし、彼が見せる優しい嘘があまりにも絶妙なんで部下っつーか、信者みたいだったよね。

こわいよ、人の心を操ろうとする鶴見中尉黒すぎる。

なかには尾形のように思い通りにならなかった者もいるし、月島軍曹のようにたばかられたと気づいても後戻りできない者もいる。

 

それでも鶴見中尉によりますと、生まれながらの兵士もいるというのだ。

攻撃性が強く忠実で後悔も自責の念もなく人を殺せる兵士が、それが宇佐美なんだって。

そんなわけで、宇佐美鶴見中尉のヒストリーが描かれるがこれがまた壮絶で。

どう見ても宇佐美のメンタルが異常で胸クソが悪いんですけど、鶴見中尉はこういう人に優しくできるのが演技を超えてすごいですよね。生理的にやだけどな。

 

で、その頃杉元一行はと言うと、支笏湖に沈んだ砂金の採取場所である空知川流域に住んでいるアイヌ集落を回り海賊房太郎という新たな脱獄囚を追っていた。

雪の中でアシㇼパとはぐれてしまった杉元は保護したシマエナガと野営する。

シマエナガは最近人気の北海道の野鳥でフワフワして目が丸くてとてもかわいい小鳥なのよ。

杉元アシㇼパから教わったスキルで雪中で一人野宿する事になっても生きられる自分を誇らしく思うが、食料が尽きてかわいいシマエナガを焼いて食ってしまうというね。この場面ええっ!食うんかいー⁉ と思ったが、ゴールデンカムイらしい。

 

 

逃亡の途中で破水したインカラマッを必死でフチのいるコタンまで運んだ谷垣

だが月島軍曹が執拗に追ってきたのだった。お産始まるって。

その月島を追って来た鯉登少尉が言う。

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(野田サトル「ゴールデンカムイ」23巻より)

鶴見中尉に真の目的があるなら見定めたい。

自分や父が利用されていたとしてもそれは構わない。

 

だからこそ我々はあの二人だけは殺してはいけない。

 

鶴見中尉に疑念を持った今でもこう言えるのは軍人としての素質なのだろうか。

興奮すると「キエエエッ!!(猿叫)」とか薩摩弁が早口で何を言ってるのかわからない鯉登少尉の、その度に月島軍曹が通訳してやったり世間知らずのお坊ちゃんだったのに、これはもう彼の成長物語とも言えますなあ。

乗りかけた船だから引き返せないと思い込む月島軍曹が自分の気持ちを言いかけた時、だからお産始まるって。キエエエッ!!(猿叫)