「ゴールデンゴールド」の舞台は瀬戸内海にある「寧島(ねいじま)」という架空の島だ。
かつてこの島は「福の神の島」と呼ばれた事もあるのだが、そんな伝説今では島民ですら知らない。
主人公の早坂流花は不登校になり本州の家族と離れ、この島に住むばーちゃんと暮らす中学3年生の女の子だ。
だからといって陰気な子ではなく、島の中学に通いそこそこ元気にやってて同級生の及川に恋心を抱いている。
及川はアニメイトを聖地と崇めるオタク少年である。
(もちろん島にはないので2時間かけてアニメイト福山まで行く)
ところが及川ってば高校進学は父親が働いている大阪の高校にするわって突然の宣言。
なんでも父親の家からアニメイト大阪日本橋店まではチャリで5分なんですと。
そんな事をねー、目を輝かせながら話す及川に流花は内心穏やかでない。
及川が大阪に行っちゃったらもうこれっきりになっちゃう。
てか、つき合ってるわけではないんだけどね。
感じやすい流花は海辺で拾った小さく干からびた奇妙な置物が、ちょっと福の神っぽく見えたんで思わず手を合わせて祈ってしまう。
「どうかこの島にでっかいアニメイトが建ちますように」って。
そりゃアニメイトが島にできれば及川は行かないよね(笑)子供じゃのお~
するとどうでしょう!不気味な置物は実体化しまして、うーっむ、このビジュアルはサイズはお地蔵様くらいでありまして、しっかし神と言うにはやっぱり不気味テイスト。いわゆるキモかわいいってやつですか。かわいいかどうかは人によるけど。
そいつがなんと流花の家に居ついてしまうわけだよ。
ところが不思議な事に、ばーちゃんが商う小さな食料品店と何年も宿泊客もなかった名ばかりの民宿が突如として大繁盛し出したからさあ大変。
よもやまさかそんなやっぱアレ福の神?
まあ本当に神様かどうかは別にして、ともかく金が入って来るんだから福の神って呼ぶことにするのである。
一方、最初はレジの中の売上の大金を茫然と見つめていたばーちゃんは、もおなんかよくわからない勢いに乗りまして寧島初のコンビニ経営へと乗り出しまして「寧島を強化する会」なるものまで立ち上げてしまう。
柳田国男の遠野物語に座敷わらしの話がある。
座敷わらしは岩手県に伝えられる精霊的な存在で、座敷わらしがいる家は栄え座敷わらしが去った家は衰退すると言われている。
これなんかはまさに福の神のような者だと思うけど、この神様は子供の姿をしていると言いますよね。
でもこの漫画の福の神はちょっとキモイ。
流花の家の押し入れに住みついたかと思えば、やたらペタペタ歩き回る足音なんかも妙にやな感じだし、変に動きが素早いし、本当に福の神なのか正体不明だからなんか怪しくて気が許せない。
ただこの姿は流花や民宿に泊まる女流作家の黒蓮や刑事の坂巻など島の外から来た人間にしか見えない。
ばーちゃん始め寧島の人にはなんか小さいおっさんに見えてて全然違和感を感じてないようなのだ。腑に落ちないのお。
流花は人の感情に敏感すぎて生きづらくなってしまい田舎にやって来た女の子だ。
都会よりも田舎の方が生きやすいかどうかわからないけど、この島の住人はなんとなくのんびりしてるね。
これといった産業もないし活気もないし変化もないけどまあ平穏無事に暮らしてるってわけだ。
でもこの平穏だった島が福の神景気によって激変していくのだ。
流花は精力的に商売に目覚めたばーちゃんに危うさを感じ、ばーちゃんが福の神にだまされているような気がして以前のばーちゃんに戻って欲しいと願う。
だが流花の訴えは伝わらず、ばーちゃんが調子に乗って始めた「寧島を強化する会」(略して寧強会。略すとかえって胡散臭いよね)はどんどん会員を増やし、福の神に全員で手を合わせたりとカルト教団みたいな様相を呈したり、商店街は明るくなるわ観光客は増加するわパチンコ店は誘致するわ、急速に事業拡大してついには寧モールというショッピングモールまで建設してしまう。
草田という他人に憑いた福を見る事ができる男が寧島に引き寄せられるようにやって来るが、流花にはとてつもなくでっかい福が憑いてるのが見えるらしい。
この男は自身もいわゆる依り代だった経験から、福の神というのは去った時に初めて自分に憑いていた事に気づくんだって。
ばーちゃんが金の亡者になってしまったとかそういうんじゃないし、流花の事を忘れてしまったわけでもないのに、どうにも不穏な気持ちが拭えない。
ばーちゃんは冷静なつもりでいるけどなんか浮足だってる。
それはもちろんあの不気味な福の神がもたらしているわけで、金だけならいいけど金と一緒に今までなら関わる事もなかった招かれざる客、たとえばマナーの悪い客や地面師みたいのまで島にやって来る。
儲かってる人間がいる一方で、うまく流れに乗れなかった者の中には悪感情が渦巻く。
島は以前とはまったく変わってしまった。
ついこの間まで何もなかった島に勝手に大金が転がり込んできて、誰もがおかしいと思いながらなぜか何も言わない。
人々は今にも破裂しそうな欲望に支配されてるから、見え隠れする破滅の影に気づけないのだ。
なんだか90年代のバブル期のようだね。
福の神はいつの間にか3体に分裂し喧嘩を始め暴走していく。
それは昔この島に福の神景気が巻き起こった江戸時代と違い、現代に蘇った福の神が見た現代人の欲望って恐ろしいくらいに無尽蔵だったからなのよ。
島の人たちを翻弄していたはずの福の神が次第に人間に翻弄されていく。もうどうしたらいいの~
平穏だった日常に段々歪みが生じて流花の不安や畏れが伝わってくる。
彼女はただ好きな子を繋ぎ止めたかっただけなのに、この島にアニメイトが建ちますようになぞと祈った自分のせいだと考える。
そう言えば神さまってゆうのは、拝んでくれる人間がいなくなると小さくなって消滅してしまうんじゃなかったっけ。
人間に利益や幸福をもたらすという福の神、そりゃ誰しも来てほしいよね。
でもよく考えると金なんつー浮世のルールみたいな物に絡む願い事をかなえてくれる神様なんて随分都合がいいような気がする。
いやいやいや福の神とは本来は幸せを持って来てくれるのであって、幸せ=金とは限らないはずだよね。
流花はそれに気づいてるし、今後は「刻々」のヒロインのように自分の身を危険にさらしても家族を守るキャラに成長しそうな予感。
それと共に同時進行していく及川との恋も甘酸っぱくてよいのよ。