「ヒストリエ」12巻はいつ出るんだああああ!?
奴隷の身分からアレクサンドロス大王の書記官に登りつめたエウメネスの波乱万丈な人生を描く歴史漫画
月刊アフタヌーンで連載している岩明均先生の「ヒストリエ」は現在11巻まで刊行しております。
しかしとにかく連載が進むのが遅く、11巻が発売されたのは2019年7月の事。
だいたい2年前後で次巻が出てるんで、そろそろかなあ、まだかよと心せく。
こんな大作の感想を今更?とは思うけど、とりあえず書き散らかしておきますわ。
「ヒストリエ」の主人公エウメネスは、マケドニア王国のアレクサンドロス大王に仕えた古代ギリシャの実在人物だ。
アレクサンドロス大王つったら世界史の超有名人だけど、まあ古代ギリシャとかマケドニアとか歴史上の出来事とかあんまり知らなくても、そこは岩明均、ドラマチックな物語として十分楽しめるからへーきへーき。
エウメネスはマケドニア人ではないため出自は定かではない。
その前半生は謎でカルディア出身という事くらいしかわかってないらしい。
エウメネスが異民族であるスキタイ人だった、という話は作者の創作だ。
さて時代は紀元前4世紀、ギリシャの都市国家カルディアの有力者の次男として生まれたエウメネスの、聡明な子供時代の話から始まる。
家庭が裕福だから家に図書館があり、早くから読書の愉しみを知っていた。
当時の本は巻物で紙ではなくパピルスでできていて、彼は多くの本を読み、知識を得て、自分の頭で考えたり違う角度から物事を見る事を覚えて行く。
とても恵まれていたのだ。
この時代のギリシャの経済を支えたのは奴隷制だが、エウメネスったら誰に対しても公平に接する事のできる稀有な子でしてね。
ある日、一人のスキタイ人奴隷が主人一家を惨殺して逃亡する事件が起こるのだ。
勇猛で誇り高い遊牧民族と言われるスキタイ人の奴隷は市民を次々と殺害し町は大騒ぎになる。
その騒ぎにまんまと便乗した部下によりエウメネスの父親は殺されてしまい、逃げ切れず死んだ奴隷に罪をなすりつけようとしたが、それを見抜いたエウメネスは査問会で大人を相手に堂々の告発。
ところがそこで、エウメネスが実は拾われたスキタイ人だった事が明かされるのだ。
なんとまあエウメネスはお坊ちゃまから一転、哀れにも奴隷の身分へと堕とされてしまう。
まったくねえ、一寸先は闇と言うが、人間思いもよらない事は何かと起こるものである。
最初の見所は、エウメネスがこの出来事をどうやってポジティブに乗り越えたかだ。
たとえ奴隷に堕とされたって、エウメネスの心は折れなかった。
その後高値で買われたエウメネスはカルディアを後にするが、乗り込んだ船で反乱が勃発し嵐で転覆、黒海の沿岸部にある村に漂着する。
思いがけず自由の身を手に入れたエウメネスは、この村でギリシャとは違う文化違う価値観を知り、豊かな教養と鋭い洞察力でいつの間にやら一目置かれるようになる。
この時代の身分の壁や人種の壁というのは現代人には考えられないほどの大きな障害だと思うけど、エウメネスはそれを軽やかに乗り越える自由な魂を持った不思議な青年に成長していくのである。
村を離れ、後に仕えるマケドニア王国のフィリッポス王に対しても常に遠慮のない物言いで飄々としてマイペース。
それが逆に気に入られてる。
東方世界と西方世界をひとつに繋げる大帝国をわずか10年チョットで築いた英雄アレクサンドロス大王。
もちろんアレクサンドロス個人の力量もあるが、なんつったってマケドニア軍が超絶に強かったのだ。
その基礎を築いたのがアレクサンドロスの父であるフィリッポス王だ。
フィリッポス王は隻眼で、峻烈かつ老獪でありながら家臣の意見もちゃんと聞く。
王は巧みな外交と軍制改革に成功し、マケドニアを最強国家へと成長させた。
この時代のギリシャは小さい国家がたくさんあり、やったりやられたりしてたのをマケドニアがひとつにまとめたわけだ。
マケドニア軍はメチャメチャ長い槍を持つ重装歩兵隊が密集して敵に当たる。
集団で槍ふすまを作るファランクス戦術の描写は圧倒的ですごい面白さだ。
全ギリシャの統一そしてペルシャへの遠征を虎視眈々と狙うフィリッポス王だからこそ、エウメネスみたいな人材をどんどん登用するのである。
この独創的で強大な王が展開するマケドニア王国の隆盛にエウメネスが絡んでくるんだから面白くないわけがない。
最初は書記官として登用されるものの、王に見込まれ将来の王の左腕(副司令官のこと)にされそうになり、そんなモンになる為にマケドニアに来たんじゃねえと怒り出したり。
天下の副将軍だから栄誉なんだけど、エウメネスには自分を囲う柵のように思えて、彼の心はいつも自由なのだ。
そうして美しく才能に溢れた後継者アレクサンドロスはまだ少年である。
王はアレクサンドロスのために哲学者アリストテレスを招きミエザの学校を作った。
アレクサンドロスと同年代で一流の家柄の子弟が共に学び、彼らは後にマケドニア王国の中核を担う存在となっていく。
だがアレクサンドロスは、顔に蛇の痣を持ち二つの人格を有しているという設定だ。
実母である淫乱で残忍な王妃オリュンピアスは、二つの心を持った我が子がフィリッポス王を超える存在になる事を願う(ak一押し毒婦)
もう一人の人格の名前がヘファイスティオンって・・・
ヘファイスティオンは実在した人物で、アレクサンドロス大王を支える有能な軍人であり親友(そして同性愛関係)
アレクサンドロスは高潔な王子、ヘファイスティオンになった時はやべえ得体の知れない存在。
王子どうなるんだコレ気になってしゃーない。
またアレクサンドロスは、ほんのわずかな先の未来が見える不思議な能力を宿しているようだ。
「一眼は夜の暗闇を、一眼は空の青を抱く」と例えられた、左右の色が違う神秘的な瞳(オッドアイ)だったという伝承通りの美貌と危うさを持つ者として描かれている。
本を読む事で心地よい歩調で世界が広がっていったり、瞼に焼き付くスキタイ人の母の舞踊のような剣さばきが、ああロマンとそしてどこか哲学的なんだよね。
目に見えぬ何かに呼ばれるようにして、エウメネスは自らの能力で自分の運命を切り開いて行く。
大多数の人は知らない世界を知る事もなく人生を終える時代。
自由の意味を知ることもなく。
ああ岩明均からは目が離せない。