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大人の漫画読み

漫画/「らせんの迷宮ー遺伝子捜査」作・夏緑 画・菊田洋之

DNA解析で未解決事件に迫るミステリー漫画

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(作・夏緑 画・菊田洋之「らせんの迷宮遺伝子捜査」既刊2巻)

DNAは嘘をつかない

東京都覚山市の覚山警察署の刑事・安堂源次は科捜研からの依頼で2002年の強盗事件の遺留品を保管室で探していた。

事件のあった現場には犯行を裏付ける証拠品が残されている場合がある。

近年、指紋採取と共に犯人の特定に用いられているのがDNA検査だ。

DNA検査は個人を識別するための正確さという点では際立っている。

白骨化したりバラバラ死体の場合は指紋は採れないが、DNAなら残る上に全身どこからでも同じものが採れる。

たとえば遺留品の髪の毛1本、煙草の吸殻についた唾液、皮膚の断面などが採取できれば検査を行う事ができる。

その鑑定結果次第では、容疑者が犯行現場にいたという証拠となり犯行を立証するための有力な手段となっている。

そんなわけで、DNA検査が発達したおかげで昔だったら見つからなかった手掛かりを今では発見できるようになった。

しかしながら警視庁がDNAデータベースの運用を始めたのは2005年以降。

だから、それ以前の事件を掘り返す場合には鑑識が保管してる遺留品を漁るのだ。

安堂は遺留品の入った箱を動かしてる時に別の箱を誤って落としてしまい中身を見てしまうのだが、それは2002年の「ホワイト電機女子社員転落死事件」のものだった。

その事件は女子社員の自殺と断定されて片付いたはずだったが、遺留品の中の「被害者左胸ポケット」と書かれたハンカチを見た安堂は疑念を抱く。

女子社員の遺体は仰向けに倒れていたのに胸ポケットのハンカチに大量の血液がついていたためで、ムムム自殺とは違うのでは??と思ったのだ。

そこでまあ安堂は科捜研にDNA鑑定を依頼したのだが、そんな余裕ないと断られてしまう。

日本では専門の検死官が不足していて不審死の9割は検死されてないのだ。

10年も前の自殺で決着済の事件の再捜査なんてできるかと嫌がられる。

 

しかし安堂の熱意で(と言うか恫喝?)聖ヘリックス医科大学の法医学准教授・神保仁を紹介される。

初対面の神保は刑事だと名乗る前に「あなたは危険を伴う仕事を好んでいますね」といきなり指摘してくるので驚く。

なんでも指の長さを決めるDNA情報と危険を好む脳を作るDNA情報は同じホルモンが影響してるんだって。

だから安堂の指の長さを見て危険な仕事を好む人だとわかったって言うのだ。

DNAは究極の個人情報であり遺伝子を見れば身長、体格、性別、何歳頃ガンにかかるかまで全てわかると神保は静かな口調で語るのだった。

 

「ホワイト電機女子社員転落死事件」は、ホワイト電機営業4課の沢村百合子(28才)が10階建ての社屋屋上から転落して即死。

事故と自殺の両面で捜査していたが、屋上の手すりから彼女の指紋が検出できなかった事から殺人の可能性が出た。

百合子の上司の守山は妻帯者だったが、個人的に相談に乗るなど百合子と親しく不倫の精算を巡っての殺人ではと噂が立った。

守山のアリバイは不完全だったが、結局証拠不十分のまま自殺として処理されたのであった。

そこで神保がハンカチについた血液のDNA鑑定をしてみると、確かに百合子のものだったがわずかに彼女以外のDNAが付着している事が判明する。

安堂は百合子が転落する以前に彼女が流血するほど争った人物がいたのではと推測する。

神保は安堂に協力しホワイト電機の事件関係者からDNAのサンプルを収集した。

守山は会社に居づらくなり既に退社していたがまた警察が来た事から「自分はまだ疑われているのか?彼女は部下だから親切にしただけなのに、どうしてこんな事に・・」と泣き出してしまう。

容疑者じゃないかと連日報道された守山は、会社を辞めた後に妻とも離婚し人生を台無しにされていたのだ。

そんな守山に「潔白を証明したいなら捜査に協力してください。あなたのDNAが真実を教えてくれるんです」と神保は説くのだった。

 

神保仁(ジンボジンって笑)は天才すぎて少し変わり者のDNA科学者だ。

黒髪ストレートのイケメン風なのに、綿棒と試験管を手にやたら真面目くさってDNAサンプルを採取したがる。

時には通気ダクトに挟まってたり時には公園の池で溺れかけてたり、自分のオリジナルDNAデータベースのサンプル採集に余念がない。

32億個あるDNA配列を記憶しているという設定はすごいのか。

どんな役に立つのかよくわからんが、常に冷静で礼儀正しい。

一方、安堂刑事はステレオタイプの熱血刑事で情に厚いが単細胞ですぐカッとなる。

昔気質の熱血刑事と変わり者の天才科学者のバディものってわけだが、どう見ても相容れない二人が次第に信頼と友情で結ばれてく・・・そこに科捜研の無駄に露出の多い女性研究員が絡み未解決事件や難事件を解決してくというね。

DNA捜査に着目したのは面白いけど、さぞやすごい科学捜査が!と思ったら意外とよくある展開だったんで、あたしの中では「つまらなくはないけどちょっと残念な漫画リスト」にいれときましたわ。

一話完結なんだけど、毎回同じ感じで凡庸だから飽きちゃうんだよね。

ただ安堂刑事が「10年も前の自殺で片付いた事件の再捜査にさける余裕なんてない」って言われた時に(確かにまあそうなんでしょうけど)「人が誰にも知られずに殺されたかもしれないのに警察が調べなくて誰が調べてやれるんだよ!」と吠えてたのはよかった。

安堂も神保先生もこれは自殺じゃないってすぐに言い当てた位だから、当時そう思ってた警察関係者はいただろうに、DNA鑑定がまだなかったからそれ以上調べようがなかったのだろう。

他殺の可能性がありながら自殺として警察に処理されたのでは死んだ人は浮かばれないよ。

それに犯罪を見逃してしまう事にもなるし。

だから決してつまらない作品ではないのに、そうだなあ、もっと被害者や加害者の人間ドラマも描けたら話に深みが出るんじゃないすかね。たぶん。