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大人の漫画読み

漫画/「世界で一番、俺がOO」水城せとな

「一番不幸になった者はどんな願いも叶えられる!」怪しいゲームに参加したアラサー男子3人の友情と絶望の物語

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(水城せとな「世界で一番、俺がOO」既刊8巻)

不幸を競うなかで逆に何が幸せなのかを考えさせられちゃう

世の男の人って、もう自分は若くないんだ~って思い始めるのっていつ頃からかしらね。

組織の中で大きい仕事を任されたり、大人の振る舞いを求められたり、恋愛よりも大事なものがあるような気がしたり、自分の今までの人生を振り返ってああもっとしっかりしなくちゃヤバイとか考え出すのって、やっぱ30位から?

この作品に登場するのはアラサーの幼なじみの男性3人、柊吾とアッシュとタロ。

彼らは、突然現れた謎のエージェント773号(ナナミ・美女)から誘われて「300日後に誰が一番不幸かを競うゲーム」に参加する事になる。

 

3人は小学生からの幼なじみで20年以上のつき合い。

みんな酒がまったく飲めないので、週末はいつものカフェに集まりグダグダと日常の軽い不平不満など喋る仲良し3人組だ。

この中で飛びぬけて出世してるのは柊吾で、外資系企業に勤務してて優秀で年収も高く、性格は冷静で隙がない。

天涯孤独で彼女はいない(人が信じられないし面倒くさいから)。

昔は金さえあればと思って仕事を頑張って来たけど、競争が厳しい世界だから今や敵は増える一方で、心安らぐ外敵のいない平穏な人生に憧れている。

アッシュはカッコよくて明るいかつ人当たりがよいから、女性にモテるだけでなく誰からも可愛がられる。

チャラいようでいて実は洞察力が鋭く(コミュ力も高い)こうやれば気に入られるとか、こうすれば可愛がられるとか人間の本質を見抜いてる。

ただしその能力を有意義に生かそうとするほどの欲はなく、就職しても仕事が長続きした事がないイケメンニート。

モテはいいから就職したい(カッコいい仕事)と思ってる。

3人の中で一番問題を抱えてそうなのがタロで、いわゆるワーキングプアでして、働いてるアニメ制作会社は長時間労働で薄給のブラック企業だ。

なんでも一枚動画描くと190円で、基本給も残業代も社会保険もなく、長時間働いて月に300枚描くのがやっと(給料57000円やんけ)という貧困層。

背は低く見た目もイマイチだが、性格は優しく人柄が良いので二人の癒し系的存在。

でも癒し系よりモテたいと考えている。

 

一番(不幸)になったらどんな願いでも叶うと言われ、怪しがる3人にデモンストレーションを見せると言って、ナナミは時間を止めて見せる。

いやー、謎すぎるけどそこはスルーしといて~

ちなみにその人がどれだけ不幸かの判断はナナミが触れると測定値が出る事になっておる。

絶望指数的な。

 

しかしま改めて不幸になるってどうしたらいいのか。

そりゃあ自分たちが幸福だなんて思っちゃいないけど、かと言って諸々の不満はあれどべらぼうに不幸だというわけじゃない。

皆どうやったら不幸になれるのかがわからないし、勝ったら叶えてもらう願いも決まらない。

ただ柊吾とアッシュに共通してた思いは、タロがこれ以上不幸になったらシャレにならんという事だったな。

人はどうやって不幸になっていくのか?タロはナナミに聞いてみた。

自分の大事なものを失った時不幸になると言われるが、そもそもタロにとって大事なものなんてないのだった。

だから、失って不幸になるために何かを手に入れて俺の物にしようと決心する。

アッシュはタロと彼が思いを寄せる弁当屋のふみちゃんとの交際を後押しする事にする。

タロとふみちゃんを、ナナミと柊吾をくっつければ、一人残った自分が一番不幸になると考えたのだ。

そして幼い時に母親と弟を通り魔事件で失いその後父親を火災で亡くすという、地獄のような不幸を経験している柊吾はとりあえず二人の出方を見守る事にする。

 

そんな調子で生ぬるく、最初はゲームは動かない。

ところが、アッシュがナナミとは別のエージェント441号(ヨシヒト)と偶然接触した事が転機となってゲームは思わぬ方向へと動き出す。

何があっても変わらないと信じてた幼なじみの3人の関係性。

たとえばそれぞれ3人の中の位置づけ、ポジション、演じてる役割が決まっていて、その関係性を変える事は誰も望んでない。

それぞれの立ち位置やキャラ設定を変えることは3人のバランスを崩すことにつながるから。

だがヨシヒトから3人が現状維持のままではゲームは動かないと指摘されたアッシュは変貌する。

アッシュは別人を装ってふみちゃんに近づき自分が彼女を落としてしまうのだ・・・

 

いつの時代でも人間にとって人間関係とゆうのは大きな問題であり悩みの種だ。

水城せとな先生って、人と人とのリアルな心理的関係を濃厚に描く巧者だ。

ふみちゃんは過去のセクハラ事件から心に傷を持っていて、もしつきあうとしたら自分を傷つけない優しい男性がいいタロがいいってわかってるのに、わかっていながらアッシュにどうしようもなく魅かれてしまう。

そんなふみちゃんを、こういう女は自分に酔ってるだけで本当はタロもオレも好きなわけじゃない、つって冷ややかに観察してるアッシュ怖えよ。

でもこの行動にはある目的がある。

深読みしようとすればするほど深い水城作品の妙。

アッシュのせいでメンタルが加速度的にヤバくなってくふみちゃんに振り回されるタロこそ哀れなんである。

あんなブラック企業で酷使されながら、自分が退職したら他の人に迷惑がかかると思って仕事を辞められない。

どうもそういうのは言いわけにしか聞こえないんだけど、要は現状を変える勇気がないんであろう。

好きな人にもハッキリと自分の気持ちを伝えられない。

ただふみちゃんに都合よく使われてるだけなのに現実を直視できないでいる。

もうドロドロだのお

かえって一番不幸な過去を持ちながら、強度の人間不信のために他人と深くつきあわない柊吾の方が不幸を感じてないのは皮肉なもんだ。

しかし孤独ではある。

彼の孤独にそっと寄り添うようなナナミの心優しさが身に沁む。

このエージェントとかセカイっつー謎の世界観何なのかな。

早く知りたいけど今連載休んでますねー