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大人の漫画読み

漫画/「九条の大罪」真鍋昌平

依頼人を貴賤や善悪で選別しない弁護士。たとえ依頼人がどんなクズでも。

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(真鍋昌平「九条の大罪」既刊4巻)

貴賤はともかくこんな依頼人は断るよフツー!

最近また以前のように外回りが増えてきて時間が自由になるので、今日はオサレなカフェで書きました。

ところで弁護士ってかっこいいよね。

なんか難しい事をいっぱい知ってそうだし、金持ってそうだし・・・(なんつー頭悪そうな文章)

弁護士は法律の専門家として独立した地位を持っているし、誇りとやりがいのある仕事ですよね。

世の中には無実であるにもかかわらず逮捕起訴されてしまうような、いわゆる冤罪もあります。あってはならない事だけど。

本当はやってないのにやったことにされてしまい、誰も信じてくれなくて家族さえも見捨てるような状況に陥っても、弁護士だけが味方になって支えてくれたとしたら、かっこいいを通り越して好きになっちゃうな。

でもでも、あきらかな凶悪犯や全く反省の色のない人とかコイツぜってーやってるだろとか思う人を弁護する時、悪を憎む気持ちとか自分の職業の使命感とかやりきれなくなったりしないんだろか。

弁護士だって人間だもの。

 

ここに登場する弁護士の九条間人は、あたしが思うかっこいい弁護士とはちょっと違う。

彼は依頼人を貴賤や善悪で選別しないのが信条。

つまりどんな悪人でも依頼を受ければ弁護する。

彼の弁護士としてのやり方はかなりフツーとは違うので、悪徳弁護士などと悪く言われたりご同業の弁護士からは蔑視されてる。

にもかかわらず有能。

実の兄からは恥さらしと罵られ(何があったんだー!?)警察からは厄介な存在と疎まれ、離婚した妻に全財産を渡して雑居ビルの屋上でテント暮らしだ。

そんな九条先生の事務所のイソ弁・烏丸は、「一緒にいると面白いから」という理由で、大手法律事務所から移って来た東大法学部首席卒業のエリートでして。

こりゃあ二人とも、そうとうな変わり者ですわ。

 

しかしながら、それ以上にインパクトが強烈なのは依頼人の面々で、半グレとかヤクザとか悪人ばかり。

飲酒運転で起こした死亡事故から罪を逃れようとするクソカスが、九条先生が親身になって弁護したことで、たかだか禁錮一年8カ月執行猶予つきでムショに行かんでもすむという。

なんか胸糞わるいのお。

弱い人間につけこむ悪いやつらがのさばるこの世の中は、神も仏もなく法律さえも味方にならない。

被害者の父親は死亡し子供は片足切断になってしまったのに、裁判で弁護士をつけなかったために1000万円の和解金にしかならず、弁護士をつけてたら7000万は取れたはずだと九条が言い、無知は罪ですねと烏丸は言う。

真面目に生きてる人間の幸せを奪って、自己保身しかないクズのために動く弁護士は死ねと世論は荒れる。

だが法律と道徳は違うと九条は言う。

たとえ道徳上許しがたい事でも依頼者を擁護するのが弁護士の使命だと言うのだ。

 

これはまあほんの序の口で、闇金ウシジマくんから続く真鍋先生お家芸の綿密な取材によって描き出されるリアルな世界は相変わらずの悲惨さで、こんな事がホントにあったら嫌だなあと思う案件ばかり。

いやもしかしたら現実はもっとヤバイのかもと戦慄する。

自分はここまで貧困じゃないし、ここまで底辺じゃない、と思いながらもどうにも他人事のようには読めない。

自分もいつそうなってしまうかわからない気さえするのだ。

また、自分は犯罪なんておこさないと思ってるけど、それも幻想のような気がしてくる。

 

11月に発売された第4巻は歌舞伎町を彷徨うぴえん系女子(いわゆるメンヘラ女子のこと)しずくの物語だ。

13才で性被害にあい家庭も不幸で居場所も目標もなかった彼女が、優しいイケメン青年の修斗と出会い彼のためにAV女優となる。

もちろん彼はそれが狙いで、紹介した子が稼げば永続的にバックが入る仕組みだ。

しずくはAV業界に入り綺麗にメイクしてもらって周りからチヤホヤされて自分の力で金を稼げて、生まれて初めて生きててよかったと思えた。

ところが彼女の母親とその恋人が慰謝料目当てに人権派弁護士・亀岡麗子の所に駆け込みAV業界が糾弾されたことで、しずくはAV女優を続けられなくなってしまう。

亀岡は女性差別的な価値観での過激なポルノ規制派で、女性を商品化して消費するのは悪だとAVや風俗を目の仇にしていた。

法律は誰でも平等に適用されるけど、時に法律の平等は不平等を産む事がある。

本人はAVをやりたがってる。たとえ間違った人生の選択をしても、それを決めるのはあなたではない、と九条は論ずる。

亀岡と九条の議論は興味深いが、AVから風俗へさらにたった一万円で売春するまでに、お決まりの転落をしてくしずくが哀れだ。

 

ウーン、爽快じゃないねー

スッキリとはいかないのが持ち味だけどね。

ただなんか今一つ乗れないのは、この作品から完全デジタル化したらしいんだけど、どうも背景の写真加工と人物があってないっつーか、絵とセリフがあってない気がするっつーか、ちゃんと描けば描けるのに、あら探しする気はないんだけど微妙。

それに弁護士つっても単なる正義派じゃないし、かと言ってダークヒーローって言うのも違う気がするし、単純明快なようで実は複雑な主人公がまだよく練れてない気がする。

高級時計してる割にはリスクとリターンが釣り合ってないみたいだし。

法律と実社会の真の姿を描こうというストーリー自体は非常に面白いし、真鍋先生のこの世界観はなかなかどうして好きなので頑張ってください。おしまい。

 

4巻まで発売してます

 

しずくちゃんの絵が表紙