akのもろもろの話

大人の漫画読み

暮れの元気なごあいさつ

萩尾望都「メッシュ」から雪のラパン・アジル

萩尾望都の「メッシュ」は1980年代に描かれた作品でパリが舞台になっています。

メッシュというのは、主人公の少年が金髪だけど銀色のメッシュが入っているように見える髪型からついたあだ名です。

メッシュは綺麗な顔に似合わないチンピラで、ボスのヤクを盗もうとしてリンチされ腕を折られて街を彷徨ってた所を、貧乏画家のミロンに拾われます。

ミロンは優しいおおらかな青年で、メッシュはなんとなくミロンのアパートに居ついてしまいます。

怪我も治り明るさを取り戻していくメッシュですが、彼の心の奥底には癒せない深い傷があって、そのせいで時々感情が不安定になってしまうのがミロンは気にかかります。

全編を通してミロンが見せるメッシュに対する温かさは、傷ついたメッシュだけでなく読み手までも癒されます。

そんなミロンはオリジナル作品が売れないので贋作画家をしています。

第4話の「ブラン」では、パリに冬がやって来て、ミロンはユトリロのクレヨン画「雪のラパン・アジル」の贋作を描きます。

それは画廊の主人も褒めるほどのいい出来栄えで、売れたら10%を貰えるのです。

そしてすぐに買い手がつきますが、画廊の主人から風邪で行けなくなったから代わりに絵を届けてほしいと頼まれ、ミロンはメッシュを連れてパリ郊外へ向かいます。

贋作家が自分の描いた贋作を売りにくるなんて事があるだろうかと、メッシュはバレやしないかと冷や冷やですが、ミロンの方は平気な顔です。

一方、パリ郊外に住む金持ちのブラン氏はなぜかメッシュの事を気に入ってしまうというね・・・

雪の降る美しいパリの風景と軽妙な人間関係を描いた楽しい作品です。

作中の「雪のラパン・アジル」は、1910年代のユトリロの単色のスケッチという事になってて、3万8千フランの高値がついてましたな。

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ユトリロと言ったら「白」。

特に「白の時代」といわれる、1909年から1914年頃の作品は、独特の白を基調とした街角の風景が、哀愁と不思議な静謐に彩られています。

ラパン・アジルはパリ18区(モンマルトル)にあるキャバレーで、ユトリロはラパン・アジルの絵を何枚も描いています。

これの雪バージョンですな。

彼の絵はほとんどが風景画で、それもパリの小路や教会や運河などの身近な風景ばかりです。

ユトリロはひとりアトリエに閉じこもり、パリの街並みを撮影した絵葉書をもとに、同じ構図の作品を何枚も描いたといわれています。

多作だから贋作が多いんでしょうね。

ユトリロの母親はルノワールやドガのモデルを務めた後に独学で画家となったシュザンヌ・ヴァラドンで、彼女は恋多き女でユトリロを私生児として生みました。

まだ18才だったヴァラドンは息子の世話は母親任せで、子供にとってよい家庭環境じゃなかったんでしょうね。

ユトリロはなんと10代でアルコール依存症に。

しかもヴァラドンママったらアータ!自分の息子の友人(ユトリロより2才下)と結婚してしまうんですのよ。

こりゃあユトリロにしたらたまりませんわよね。

一躍人気を博し若くして画家として成功を収めたけど、彼の生涯は成功とは裏腹にアルコール依存症や精神病で入退院を繰り返しています。

ユトリロもメッシュのように孤独で情緒が不安定です。

成功してからの作品よりもアルコール依存症で苦しんでた初期頃の作品の方が傑作だというのも皮肉ですよね。

まあそんなわけで、今年は帰ってきなよと姉に言われただいま実家の群馬に帰っております。

実家のある場所は雪はないけど、昨日水上という所にある叔母宅に行ったら雪がすごかったです。

雪が降ると人は感傷的になってしまいます。

実家も数年前に母親が亡くなり、甥っ子が大学進学で家を出てからは、看護師をしてる姉と父が二人で住んでます。

家というのは子供が小さいうちはにぎやかで色んな事がありますが、その頃が成長期だとしたら、今は成熟期が過ぎて衰退期なんですよねえ。

しみじみ人生の黄昏に感じ入ってたら、姉が糖尿の父がハーゲンダッツ食べてたと怒ってて、その怒り方が死んだ母にそっくりで(笑)もう母が生き返ったかと思いましたよ。

一年を締めくくりたいけど、いい言葉が見つかりません。

取り急ぎ年末の御挨拶とさせていただきます。

それではよいお年をお過ごしくださいませ。