akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「ノイズ」筒井哲也

黒イチジクを地域の特産として限界集落から一転して活況を呈し始めたのどかな町。そんな中、イチジク農園を営む泉圭太のもとに鈴木睦雄と名乗る怪しい言動の男が現れる。男は14年前の女子大生ストーカー殺人を犯した元受刑者だった。平穏な地域社会に投げ込まれた異物が生んだ小さな波紋(ノイズ)は徐々に広がっていく。

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(筒井哲也「ノイズ」全3巻)

閉鎖的な集落で不協和音を排除しようとする力

いきなりなんですが、あたくしハッキリ言って筒井哲也氏の作品てイマイチ乗り切れないのです。

この方は日本よりフランスで先に人気が出たという変わった経歴をお持ちで、ま逆輸入みたいな漫画家先生なんですよね。

フランス語圏にはバンドデシネというマンガ文化もありますし、そりゃあ気になりますからこれまでの作品も読みましたが、絵は素晴しく上手なんですよ~、でもいつも若干惜しい感じが・・・(スミマセン。ファンの人はもう読まなくていいです)

 

イズミ農園を経営している泉圭太(34)と農園を手伝う猟師の田辺純(32)は幼なじみなんです。

フランス産の黒イチジクに目をつけて日本の気候に合うように改良するなど、圭太は頭も切れリーダー気質のある人柄です。

彼の相棒的なスタンスの純も圭太に全幅の信頼を寄せ、故郷を愛する圭太の願いである小学校立て直しを応援しております。

限界集落だから学校は廃校になっちゃったんだろね。悲しいわね。

子供は圭太の娘だけなのです。

ですから妻は、友達もいないこんなド田舎じゃ子供がかわいそうと別居中なんでございます。

 

そんな静かな町に、突然現れた鈴木睦雄と名乗る男はもう見るからにやべえ奴でして。

 

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無人販売のイチジクを金も入れずに食べちゃったり、料金箱を触ったり、不逞の輩なのです

イチジクはとても美味そうです

 

この男は農園の求人を見たので雇ってほしいと言いますが、どうにもまっとうな人物には見えなかったんで、その場は適当に追い払います。

こいつが実は14年前に名古屋で起きた女子大生ストーカー殺人事件の犯人・小御坂睦雄で、懲役18年で刑務所にいるはずなのに、模範囚で13年で刑務所を出て来たらしいというね。

不安を覚えた二人は、とりあえず駐在所に知らせる事にしますが、折悪しく、町に一人しかいない警察官は着任したての新人警官なのです。

 

一方、愛知県警の畠山刑事は、保護司の鈴木賢治が行方不明になっていて小御坂睦雄と養子縁組していた事を知ります。

鈴木は仮釈放中なのに保護観察所からの出頭要請を無視していた事が判明し、畠山刑事は猪狩町へ向かいます。

 

その頃、まだ町をウロウロしていた鈴木が、圭太の家に来ていた妻と娘の姿を物陰からじっと眺めているのを純は目撃します。キモッ!!

もう手をこまねいてはいられん!3人でとっ捕まえよう!となる。

 

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純は空砲とはいえ猟銃まで持ち出してくる物々しさ

 

駐在所の守屋巡査(25)は緊急事態だから目をつぶってくれと言われ銃を持つのを許可してしまいます。

仕事を探しに来ただけだとすっとぼける鈴木と3人は揉み合いになり、隠し持っていたナイフを出そうとした鈴木を圭太が押さえつけて、手錠を出そうとした守屋巡査が、緊張したんでしょうね、なんかヒモが絡まってすぐ出せなくて、あろうことか鈴木は息絶えてしまったのです。

最初はコレ正当防衛になるよねとか言ってたのですが、純がもうすぐ猟期なのに猟銃で殴ったのはまずかったから別の鈍器で殴った事にしてくれなどと言い出します。

しかし頼みの綱の守屋巡査はパニックになってしまって、こりゃあ役に立ちそうにないと二人は感じます。

それで・・・

 

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これは悪魔のささやきですわ

 

こうなっちゃうんです。

圭太も守屋巡査も葛藤はもちろんありましたが、3人で口裏を合わせて何もなかった事にしようと決まります。

死体はとりあえず純の家の猟の獲物を保管する冷温室に移す事に。

でもこれ警官もいたんだし、過剰防衛かもしれないけど情状酌量されるんじゃないかな??

とにかくなかった事にしようと言い出してから本当の犯罪者になってしまうのです。

 

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共犯となった3人の前に到着した県警の畠山刑事

 

畠山刑事は圭太の手首についた鈴木の歯型を目ざとく見つけます。

まあ刑事って目つき悪いしこんなもんですよね。

3人はシラを切ります。

警察も近年のSNSの社会への反響の大きさは見過ごせなくなってきてますから、捜査もやりずらいですよね。

ところがそんな時に、泉農園の黒イチジクが農林水産大臣賞に内定し、国から猪狩町に3億円の交付金が下りる事になったのですが、町議会助役の庄司が偶然3人の犯行を知り、守屋巡査を脅したのです。

3人が死体を運ぶのを目撃した横田のじいさんが口を滑らしたわけです。

 

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誰にも言わんから安心せえ

 

かわいそうに守屋巡査はピストル自殺してしまいます。

 

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おまえが泥をかぶればいいんじゃ

 

しかも次は純を脅し罪をかぶって自首するようにと言い出します。

助役の真の目的は泉農園の乗っ取りだった事が判明しまして、突如横田のじいさんが登場し助役を背後から農具のスキ(フォーク状のやつ)で牙突!すかさず純がナタでとどめを刺すという見事な連携で・・・

 

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死体がまた一つ増えちゃった。

 

ウーン。閉鎖的な集落に元凶悪犯が訪れた事で、なんとも不穏な空気から事件が発生していく序盤とか、一つのノイズから次々と連鎖していく展開とか、なんだかゾクゾクしちゃう。

しかも画力の高さもキャラ設定も素晴らしいですし、持ち味である社会的な背景のリアルさもあり、最初はすごく面白いのです。

でも読んでるうちに、守屋巡査の自殺とか、横田のじいさんの助役の殺害とか、助役の農園乗っ取りとか、なんか安直で作者の御都合主義のように感じてしまうんですよね。

 

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つーか、冒頭でこんな意味深な描写があったから「死体をめぐって内部抗争が起こる→純は体力では勝るものの謀略に長けた圭太が勝つ→自分も鈴木と同類の人間だったと圭太が悟る虚無感に苛まれるラスト」じゃないかな・・・と予想してたらまさかの「圭太が火事で自殺したように工作しどこぞの山中へ失踪する」という安っぽい展開でして、妻と娘を頼まれた純は圭太の妻と再婚し、サバイバル生活を送る圭太のために戦争で言えば兵站を担当し支援するものの、3年も経過した頃には成長した娘が気づき山へ父親を探しに行きまして無事に見つかりめでたしめでたし・・・で終わりました。

なんだかなあ、釈然としませんよ。

ラストの圭太に人間というものの悲劇性を感じましたが、そもそもの主題とはズレてると思います。

そんなわけですから、フツーに面白いとは思いますが、あたくしはイマイチ乗り切れませんでした。おしまい。