akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「ダーウィン・クラブ」朱戸アオ

「CEOと従業員の経済格差が千倍以上の巨大企業」へのテロ行為が始まった。その犯行時に警察官・石井大良(たいら)はかつて父親を殺した男を発見する。

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(朱戸アオ「ダーウィンクラブ」既刊2巻)

格差が生むテロと陰謀

朱戸アオさんと言えば、ペストによるアウトブレイクで都市封鎖された町を描いた「リウーを待ちながら」とか、これはまるで現在のコロナ禍を予言するような漫画でした。

また、天才寄生虫学者・紐倉哲の活躍を描いた「インハンド」も感染症の恐ろしさやそれに襲われた社会の困難を描いておりまして、リアリティのある骨太な医療サスペンスで非常に面白いんでございます。

現在モーニングで連載中の「ダーウィンクラブ」は世界的な格差社会がテーマになっています。

今の社会って様々な格差が存在する格差社会だと言われますが、中でも大きな要因となっているのが経済格差や所得格差です。

その差は、資本主義の国なんだからしょうがないよ・・・と言えないほど大きなものになっています。

 

我々は1割の富裕層が8割の富を所有する世界で暮らしているようだ。

世界不平等研究所が発表した「世界不平等レポート2022」によると、世界トップ10%の裕福な家庭が所有する富は全体の75,6%を占めているんだそうです。

ウーム・・・

経済格差や所得格差の他にも、少子高齢化による社会保障費の増大は低所得の人にとっては大きな負担です。

貧困は教育格差やひとり親世帯が増える原因にもなるだろうし、教育格差により将来的な職業選択が狭まり非正規雇用にしかつけないとか、ひとり親世帯は収入が少なく貧困で、つまり所得格差から教育格差が生まれてしまい、これはもう複雑に絡み合ってますな。

 

さて本作では、経済成長は見込めないわ希望は見いだせないわという現代社会に対して「CEOと一般従業員の年収格差が千倍以上」の世界的な企業100社にこの差を3年以内に200倍未満にせよと脅迫する者が現れたのです。

経済格差を縮めないとその企業は世界から消滅するぞ!つって。

うん、ちょっといいんじゃないかなと思ってしまったあたしでした。

が、企業側が飲むはずはないよね。

期限の3年後、標的になったのはフロリダの民間宇宙旅行会社ワイルドスペース社で、フロリダのロケット発射場と東京で行われたイベント会場で、銃乱射事件が発生します。

テロかあ・・・テロはあかん。

その中継映像を見ていた刑事・石井大良は、東京会場にいたスタッフの中に、幼い頃に父親を殺した犯人の顔を発見したのです。

アメリカの超巨大企業のCEOの役員報酬って、日本では考えられん莫大な金額すぎてなんかピンと来ません。

果して一般の従業員は満足に貰ってるのかしらね。

貧富の差は拡大し、富裕層はますます裕福になる一方で中間層や貧困層はより貧しくなっているんじゃないのかしら。

一握りの人間だけが富を独り占めしている、こんな世界は変えないとだめだ!

と主張する者が出てもおかしくありません。

 

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佐藤(仮)

3年前にCEOと従業員の経済格差が千倍以上の巨大企業に警告をした人物

大良の父を殺害した犯人と思われる

 

そんなわけで、経済格差を標的にしたテロ事件とその犯人を追う刑事の物語です。

しかし主人公の大良は間抜けな振りをして実は切れ者なのか?そこはまだよくわからないけど、上司の松井からは「おまえなんかが気づく事が重要なわけないだろ」と無能呼ばわりされるし、同じく上司の上原からは「クソ忙しいから応援頼んだのになんであんたが来るのよ!足引っ張ったら殺す」などと言われていて、どうも実務能力は低いんです。

ただ大良は人の顔を覚えるのが非常に得意で、これは警察官としてはいい特技ですよね。

彼は幼い頃、父親が二人組の男に殺害されるという壮絶な過去を持っています。

自分が見た犯人の顔を絶対に忘れないと子供心に誓った大良は、ついに犯人の顔を見つけ彼の姿を追い始めます。

とは言え、独自に捜査してるんですから、そこは持ち前の飄々とした風貌や憎めないキャラを生かして食い込もうとするんですが、まあとぼけた会話が笑いを誘うんです。

それにしても町のフツーの自転車屋だった父親が、世界を脅かすテロ事件と関わりのある男に殺されたのはなぜなんでしょうか。

 

その一方、大良の父を殺しテロ事件を仕掛けている男・佐藤(仮)ですが、その背後にはダーウィンの進化論に関わる謎の組織が見え隠れします。

「以前パタゴニアに行きましてね」

「グアナコは見た?」

という奇妙な会話。これがどうやら組織の合言葉のようで、謎の会話を交わしながら握手をするのが彼らの儀式のようです。

 

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これが謎の組織のロゴだっ!!

皆このロゴを左手首に入れている。コワッ!!

 

佐藤は大企業を相手にテロを実行しているのになぜか裕福な暮らしぶりで、金持ち企業を攻撃してるから金持ちが嫌いなのかと思えば何だか妙です。

そもそも彼らがテロを起こす目的は本当に経済格差をなくすことなんですかね。

そんな疑問が浮かんできたら、警察内部にも組織の人間がいる事が判明して、大良を慕う後輩刑事の宮本が自殺に見せかけ殺されてしまいました。

 

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出たあ!!謎の会話!

上司の若松課長までもが謎の組織の一員だったのだ

 

グアナコというのは、パタゴニアに生息する不思議なラクダです。

格差社会にダーウィンの進化論が絡んでくるなんて、なんとも興味深いじゃありませんか。

彼らが非常に強固な組織のように見えるのは何かを信奉してるみたいなんですが、やっぱダーウィンと関係する事なんでしょうね。

構成がとてもうまいので、次々と繰り広げられる思いもよらない展開、みたいのがホントに読んでて楽しくなってきちゃう。

大良はギャグパートも良いですし、しょうもない奴と思わせつつ実は・・・というたそがれ清兵衛みたいな人かも(スイマセン昨日観たもんですから)なんつって。