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大人の漫画読み

本/「東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか」中村淳彦

家賃は高く地域の縁が薄い東京暮らしはつまづいて貧困に陥りやすい。東京の貧困女子の心の叫びを個人の物語として丹念に聞き続けたノンフィクション。東洋経済オンライン1億2千万PV突破の人気連載の書籍化。

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(中村淳彦「東京貧困女子」)

今の日本で貧困に陥るきっかけとは?

前回朱戸アオさんの漫画ダーウィンクラブの感想を書きましたが、格差社会について知識を得ようと思い読んでみました。

 

まず、貧困には「絶対的貧困」と「相対的貧困」があるのです。

家や食べるものや生きていくために最低限必要なものがない状態を絶対的貧困と言い、相対的貧困とはその国の生活水準や文化水準を下回る状態に陥っているのを指します。

日本においての貧困は相対的貧困の事を言います。

日本ではこの相対的貧困が経済大国の中でも特に高いのです。

スマホが持てるんだから貧困じゃないとか、7万の家賃の所に住んでるから貧困じゃないとか、昔の方がもっと貧しかったなどと言い出す人は、貧困には2種類の定義がある事を知らない人じゃないっすかね。

相対的貧困とはあくまでも相対的なものだから目には見えにくいのです。

他人からはわかりずらいのが難しい所ですな。

等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯の人数の平方根で割ったもの)の中央値に満たない世帯が貧困層に当たります。

2015年時点の等価可処分所得の中央値は245万円で、半分の122万円の可処分所得(収入から税金や社会保障費を引いた金額)が貧困ラインとなります。

122万円て・・・ひと月10万くらいで家賃払ってどう生活するんじゃ・・・厳しいのお。

この本は東京暮らしの女性、特に単身女性とシングルマザーの貧困女性を取材した記録で、様々な人物を取り上げていますが、かわいそうを通り越してなんかもう悲惨でした。

 

最初に登場した現役女子大生は、国立大学医学部に進学しながら父親のリストラで親からの金銭的援助が受けられません。

学費は奨学金を借りその他の費用はアルバイトで稼いでほしい、というのが親の意向です。

家が貧しくても必死に勉強し運動も出来た彼女は部活動でも活躍したから、大学に現役合格した後はそのまま体育会系の運動部に入部しました。

でも大学の部活は金がかかるし、医学部だもの勉強は厳しいからバイトは増やせない。

そもそもが、大学と体育会系の部活をやればもうそれだけで時間はなくなり、バイトなどできる環境じゃないんですよね。

だから短時間で効率よく金を得るとなるともう風俗しかない、となっちゃったらしい。

性体験もなかったというんだから、これは女子大生が金に困ったら風俗に流れる下地があるんだろうね。

面接に行った時「月に1日でも2日でも働ける日に働けばいい」と言われたのがよかったみたいで、忙しいスケジュールの合間、月に1日か2日出勤してどうしても足りない分を3万ほど稼ぐように。

なんかもっと圧倒的に稼げて楽ができるかもしれないのに、彼女はそんな事にはまったく興味がないみたいで、風俗をやってる現実を自己嫌悪しながらギリギリの学生生活を送っているのでした。

きっと真面目でいい子な彼女は、ただフツーに大学に通いフツーに勉強してフツーに部活をやりたいだけなのに、全然向いてない風俗の世界で性的サービスをしてるってのは、実にいたたまれない気持ちになりました。

そうして、彼女の記事が掲載されると続々と誹謗中傷のコメントが書き込まれたというのにも驚きました。

それは大学生の貧困問題とはズレた上から目線な意見ばかりで「部活を辞めろ」と恫喝したり「頭がおかしい」と罵ったり、学生生活の金が足らないという悩みに寄り添う意見はほとんどなく、風俗で働くのを批判する意見ばかりなのは恐らく高齢世代の男性だろうとありました。

国の未来を支える優秀な大学生が望まないバイトをする事でしか勉強を続けられないというのに、今の日本に起こっている異変に幸せな昭和を送った世代を中心に大多数は気づいていません。

日本の個人金融資産の6割は60才以上の高齢者が所有し、世帯平均貯蓄は2000万円を超えています。

その一方、奨学金を利用する大学生は半数近くになっています。

日本学生支援機構の奨学金制度は、融資にもかかわらず親世帯の収入が低い事が証明されれば審査に通る仕組みで、無担保のうえ債務者である学生本人の弁済能力は問われません。

問題のある制度にもかかわらず、国が定めた制度だから親や高校の進路担当者は気軽に奨学金を勧めてきます。

だいたい申請って親がしてるんでしょ?

高校生に自分の返済能力がどのくらいかなんてわかるはずないですし、返済総額や利息率なんかわかるはずもないし、莫大な借金に気づくのは返済日が迫った卒業目前、もしくは社会人になって返済を迫られてからです。

卒業と同時に自己破産相当の負債を背負って社会人生活を始めねばならない奨学金制度は学生を追い詰めているわけです。

国は本当に優秀な人材を育てようと思っているなら、もっと予算を教育費に充てるべきです。

中村淳彦さんは今の高齢者ばかりを優遇する政治が我慢ならないようで、あたしもそれには同感ですが、高齢者のせいで若者の未来がないかのような書き方(まあそうなんだけど)はかえって世代間の分断を煽るのではないかと危惧しました。

理不尽なパワハラが日常の職場で耐える派遣OLの貧困、民間企業よりひどい真面目な女性ほど罠に陥る官製貧困、明日の生活が見えない高学歴シングルマザーの貧困、ため息ばかりの内容でしたねえ。

 

思うに女子大生が風俗や水商売に足を踏み入れるのは親からの仕送りが少ないのと奨学金の影響が多いですね。

それから経済的な貧しさの他にも、病気、希薄な人間関係、孤独、救済制度の知識不足などが要因です。

女性は一度つまずいてしまうと、日本の社会はやり直しがききませんからもう浮かび上がれません。

まあ思った事を書いておくと「こんな世の中おかしいよっ!」でして、総じて真面目に生きている女性が貧困に陥ってるのは、とてもやりきれなかったです。

また貧困女性を取材していると当たり前のようにあるのが、売春や精神疾患だといいます。ううむ。

うつ病とか確かに増加してますけど、貧困から性風俗や売春を経験して、やがて精神疾患に苦しむんでは、キツすぎてこれじゃ生きてるのもやになりますよ。

モヤモヤと考えてしまいました。

親が低収入、親の離婚、親の虐待、など貧困に直結する問題は高止まりしたままで、日本はこの先どうなってしまうんだろう、とか。

でも日本では貧困当事者に対して自己責任を強いる意識が強いから、無理解が蔓延しSOSを出してもどこにも届かないのが現状なんです。

日本人は冷たいよっ!

気になる人は読んでください。まじできついけど。

 

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