akのもろもろの話

大人の漫画読み

ドラマスペシャル「父の詫び状」NHKオンデマンド

あたくし最近NHKオンデマンドをよく見てるのです。

月額990円は果たして安いのか?高いのか?でもNHKの作品は金がかかってますから、いいものが見れるので今の所は満足しています。

これは1986年に放送されたドラマだそうで(古いねえ)向田邦子さんの同名随筆が原作になっています。

向田さんは1981年に飛行機事故で亡くなられていますから死後に制作されたものですね。

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昭和だなあ

まずざっくりあらすじを書きますと、舞台は昭和15年でございます。

田向恭子(向田をひっくり返してんだね)は父・征一郎の転勤で東京の女学校に通うことになりました。

征一郎は父親の顔を知らず育ち、努力して保険会社の支店長にまで昇りつめた苦労人なんですが、まあとにかく家では口うるさくて、妻子に訓戒を垂れては問答無用で拳骨をくらわすようなオヤジなんです。

子供は恭子の下に3人の弟妹がいて賑やかな家なんですが、実に尊大で居丈高で、オヤジの説教を聞いてるだけでこちとら胸糞悪くなりましたよ。

まったく次から次へと文句が言えるもんだとあきれちゃうよ。もうゲンナリ。

そんな父の事を母は「本当は優しい人なのよ」って恭子に言います。

家の中が明るいのはひとえにこの母親の人柄が良いからなのです。

 

とまあ序盤は、家庭内で父がいかに小言が多く横暴かをこれでもかと見せられます。

小言はまだいいとしても、妻を殴るシーンはやだなあと思ったんですが、きっと昔ってフツーにこうだったんだろね。

見栄っ張りな父は家に人を連れてくるのが好きで、外で飲んだ後に酔っぱらって同僚とかやたら連れて来る。

その度に母や祖母や恭子が総出でもてなさなければなりません。

ある晩などは、会社の人だけじゃなく芸者さんまで家に連れて来てどんちゃん騒ぎするんで、恭子は父に反感を抱くようになります。

見てると祖母も母も内心は辟易してるのですが、決して口には出しません。

この時代の女の美徳なのか?言えばうるせえから黙ってるのか?

それにしても、昔の女性は偉いわねえ。

 

一方、祖母の千代なんですが、この時代には珍しい恋多き女です。

めかしこんで出かけたまま無断外泊とかしちゃって、怒った父は祖母と口をきかなくなり家族は心配します。

 

弟の武はお父さんがいない中富くんという少年と仲良くなります。

父は自分自身も母子家庭だったからか彼の事を気にかけ、一緒に遊びに連れて行ったりします。

でも中富くんのお母さんが突然病気で亡くなってしまい、ひとりぼっちになった中富君は宮城県のおばさんに引き取られていきました。

どんなに気にかけても父にはどうする事もできず、中富くんからの手紙は一度も来ず、それっきり・・・

 

正月、田向家の玄関に獅子舞がやって来て、子供たちは楽しそうでした。

そうして祖母が亡くなりました。

その葬儀に、保険会社の社長が弔問に訪れると、父は慌ててペコペコと愛想を振りまき土下座のようなお辞儀を繰り返します。

その卑屈な姿に、恭子は「普段エラソーにしてるくせに何よ!」と幻滅するかと思いきや、父はきっとこうやってずっと戦って来たんだ、父を許してあげよう、と思うのでした。めでたしめでたし。といった内容でしたね。

 

なんかアレって思ったのは、昭和15年なのに戦争の気配が全然なくて、どこの世界だよってほどに長閑でした。

それに田向家はかなり裕福な家庭に見えましたね。

とても興味深かったのは戦前の暮らしや風俗の描写です。

恭子がパジャマの上から腹巻をつけてたり、湯たんぽの湯で朝洗顔したり、母親の作る海苔巻きの端っこをみんなで争奪したり、母親が夜子供たちの鉛筆を削ってくれたり、武と中富くんのチャンバラごっこや、恭子の妹が海水浴へ行ってズロース(パンツのこと)を盗まれたり、夜中に酔っぱらって千鳥足で土産をぶら下げて帰ってくるお父さんとか、サザエさんでしか見た事なかったんでホントにいたんだと笑ってしまいました。

この土産を食べさせるつって、子供は深夜に寝てたのをたたき起こされましてね、まったく迷惑ですよね。

父は祖母がどうしても許せなくて最後まで口をきかなかったのですが、亡くなってから影で「おっかさん」と泣いておりましたよ。

なぜ一言なりと声をかけてやらなかったんでしょう。

祖母や妻子に対して本当は深い愛情を持ってるのに、含羞からかこの時代の男性は言葉で表現しません。

言葉に出さなければ相手には通じないのに、言葉を出し惜しんで、言わなくてもわかってくれるだろうなどと考えるのは怠慢です。

昔の人は優しくて、こういう中年男性をリスペクトしてたからいいけど、今はこういう父親はいませんよね。

核家族化や経済成長の終了とともに、父権の権威は衰えてしまいました。

それはやっぱ妻や子の意識の中で、父親の権威への否定が強かったのもあると思います。

戦前と戦後で日本人は変わった、大事なものを失ったと嘆く声を聞いた事がありますが、それは何なのだろうかとずっと思っていました。

戦前の日本人は素晴らしい道徳心を持っていたと聞いた事もあるので、それはモラルの低下とかそういう事かなとも考えました。

でも最近思うのは、昔はよかったとか回顧したり今の世の中を批判するのは老人の特性なんですよね。

結局のところ失ったものって、男の含羞じゃないですか。

 

向田さんは幸せな子供時代を送ったという思いがあるから、「父の詫び状」を書いたのでしょう。

オヤジはだいぶうるさかったけど、そのウザさが懐かしかったのかもしれません。

ときに幸せな子供時代の思い出が、大人になってからの人生の支えになる事もあると思うのです。