「ありがとう。ひとごろしになってくれて」そう言ったママの首を思わず法廷で締めようとした、衝撃の少年審判から約20年後・・・・
遅ればせながら4月に発売した「血の轍」第13集の感想をなんとなく書いておくことに致しますが、そろそろ完結だろうと思ってたものですから、13集からが本章だと知り、マジかよ・・・とドン引きしました。
あの超ヘビーな少年時代がほんの序章に過ぎなかったなんて!
実は4月に購入したものの、なかなか読む気が起こらなくてですね。
だってここまでつらかった。読んでてつらかった。あたくしはなぜここまでつらい話を金を払って読んでるのでしょうか(;´д`)トホホ、とか思ってですね。もう救いようがないし絶望しかないし後味最悪なんで、つい最近やっと読んだ次第です。
まだ続くのかあ・・・ハー(ため息)
前巻の静一の少年審判の時に見せた静子の態度ときたら、もう静子ったら単なる毒親と言うよりもサイコパスでして、彼女が妙に明るいのも「もう帰っていいですかぁ?」とか言ってるのも異様で、静一の事を人とも思ってないし、こんな母親に育てられたらそりゃ変な奴になっちゃうよ!無差別大量殺人とか犯したりさ!などとチラッと思ったりもしました。
あれから約20年後、2017年。
一人暮らしのアパート
ワンルームの部屋に散乱するゴミ。
でもまあ、男性の一人暮らしでこの程度に汚いのはたまにある。うん。
36才になった静一。
鏡に映る自分の姿
押見先生は中学生くらいの子を描くのが実に上手いんで、最初の頃の静一は本当に可愛くて静子がほっぺをツンツンしたりチューするのが、胸糞悪かったけど気持ちはわかると思いました。
それが今やひげとか生えて皮膚もたるんでるし、彼は大人になったんですね。
でも予想通り、幸せな人生を送っているようには見えないよね。
あの時自分の人生はもうおしまいだと思ったのに、「僕は生きてしまった」と静一は考えています。
静一は24時間稼働のパン工場の深夜勤務をしていた
静一は教護院を出てから父親と二人で暮らしていましたが、ちゃんと高校にも通い、卒業後、上京して一人暮らしを始め、現在は深夜のパン工場で働いていました。
夕方仕事に出かけ、朝帰宅し、コンビニで買ってきた食事や酒を飲み、昼間は寝ている生活。
誰にも迷惑かけず自分の力で暮らしてるとは言え、ただ生きているというだけの毎日で、表情も乏しいし、これが20年後の静一だと思うと胸が痛みますねえ。
静一を心配して訪ねて来たお父さん。
お父さんも年を取ったのお
お父さんと静一には温度差がありまして、静一を気にかけ会えて嬉しそうなお父さんに比べ、静一は笑いもせず義務的に対応しているだけ。
どんな仕事してるん?とか暮らしてけんのかい?とか、お父さんも聞きたい事が山ほどあると思うけど、父と子の間には堅固な壁が立ちはだかって息子はこちら側には来ない。
部屋が散らかってる故に外へ行こうと静一が言い出すのも、自分のテリトリーに立ち入られたくないからです。
公園を歩いてる時に見かけた親子
二人で会話も弾まずになんとなく通りがかった公園では、キャッキャウフフと楽しそうな親子を見ましてね、思わず静子かと二度見しましたが。
それを黙って見つめてる静一とか、お父さんの背中とか、上手いんですよね。
お父さんが誘い二人は居酒屋に入るんですが、お父さんが酒が好きそうに見えるのは、きっとこれまでの事を酒で紛らわしてきたのだろうと想像し切ないですなあ。
息子が喋んないからお父さんだけが喋り、メシはちゃんと食べてるん?と聞くと、静一は無視するようにビールのおかわりを頼むっていうね。
そうして思わず、お父さんは「なあ静一」「あいかわらず、ひとりなんかい?」と聞いてしまうのです。
こんな人間、誰かといられるわけないだろ
聞かなきゃよかった。
酒でつい口が滑らかになってしまった。
息子は今でも引きずってるんだ。
などとお父さんは思ったかもしれません。思わなかったかもしれないけど。
お父さんは「ごめんな。何もしてやれなくて」と苦渋に満ちた表情で言いますが、静一はビールを飲み干しながら「別に」「こんな人間を見捨てないでいてくれただけで、もう十分だよ」と答えるのです。
静一は父親を憎くて避けるのではなく、たとえ肉親であっても自分以外の人間とはもう関わりたくないのでしょう。
お父さんは別れ際に、「静子にもうこのまま一生会わないでいいんかい?」と聞きます。
もう目が虚無だな
お父さんがこんな事を言うのは、母親と断絶したままでは静一が不憫だと考えてるフシがあるんですが、やめてほしいですよね。
もう一郎ったら、静子が静一に何をしてきたのか全然わかってないんであって、結局、静子は嫌疑不十分で不起訴になってるし、お父さんにわかっているのは、静一が形而下的な罰を受けた事だけで、その真相は全然知りません。
静一は知ってほしいとも思ってないし、ただただ放っておいてほしいのでしょう。
そして彼が閉じこもる世界にはシゲちゃんがいたのです。
お父さんを見送った後に、シゲちゃんと手をつなぎながら帰っていく静一
静一はこの20年間シゲちゃんと一緒に生きて来たのでしょうか。
しかし少年審判の場では「シゲちゃんが死んだのは無駄でした。意味なく死にました」と人を殺しても微動だにしなかったんですから、贖罪というよりもシゲちゃんは静一自身と考えた方がいい気がします。
静一はシゲちゃんに語りかけます。「もうすぐそっちに行くから」って。
そんなある日、静一はお父さんが病気で倒れ緊急手術を受けたと連絡を受け病院へ駆けつけます。
病院の受付で言葉が出なくなってしまう
あたしはこの漫画を読んでて本当につらいと思うのは、静一が吃音の症状が出てうまく喋れない場面です。
静子ともう20年も会ってないのに、治らないんですね。
お父さんは一時は回復するかに見えましたが、その後急変して亡くなってしまうのです。
その間、冷たく見えた静一が仕事の合間に幾度となく病院へ通っていました。
教護院に面会に来てくれた事、教護院を出てアパートに連れていかれ「今日からここで二人で暮らすんべえ」と言ってくれた事、「高校を卒業したらここを出ていく」「ひとりになりたい」と言った事、等々、静一が思い出すのは、事件の後に静一のためにしてくれたアレコレといつも報われない父の姿でした。しんみり。
最後まで謝ってたお父さん
静一が育った家庭は父親不在の家庭で、いやいるんですけど、父親の存在感がまったくない家庭だったんで、オヤジは何やってんねん?しっかりせんかい!っていつも思ってたんですが、静子が退場した後の息子に対する様子を見てると父親として頑張ったんですね。
遺書には「しげるのことで8千万の慰謝料を姉夫婦に支払った」とあり驚きましたが、そのためにあちこちで借金をしたがすべて返済したのでお前は何も心配いらないと書いてありました。
「静子と静一を追い詰めたのは自分だと後悔してきた」ともありました。
お父さんは最後まで、嫁の気持ちも息子の気持ちもよくわからなかったんじゃないかと思うんですが、それでも自分にできる事を精一杯やって生きて来たのだと思いました。
でもでも手紙の一番最後に静子の住所が書かれてて・・・
そこだけ見ないように破って燃やしてましたよ。
そうして、自分を見ていてくれたお父さんがいなくなったのだから、もうこの世界からいなくなってもいいのかなと漠然と考えてるんです。
いやもうね、「惡の華」を超える恐ろしくも面白い一品ですんで是非読んでくださいな。