「ここは今から倫理です。」は、倫理を教える高柳先生が、今時の高校生たちのお悩みに独特のスタンスで向かい合う教師物語。
毎日毎日暑いですが、6月に発売した「ここは今から倫理です。」7巻の感想を、今さらかつ何んと無しに記しておく事にします。
学校というのは出会いと別れの場でありまして、4巻でそれまでの生徒が卒業を迎え新しい生徒に入れ替わったんですが、今巻ではまた年度が替わりまして、今度は高柳先生が他校へ転任するんですのよ。
高柳教室最後の授業は、これまでの登場生徒総出のディベート会でした(なんかもう恒例ですな)
#31 誰もいない教室
修学旅行って、本当に行かないと後悔するものでせうか?
先生たちは、一生の思い出になるから行かないと絶対後悔すると言います。
あたしは団体行動が苦手で学校嫌いだった昔を思い出し、ぜってー楽しいって人にもよると思ったな。
でも修学旅行サボったらサボったで、ちゃんと登校して補習を受けなきゃならんのな。
それでこの生徒はたった一人、誰もいない教室で補習を受けながら、みんな今頃楽しんでるだろうと思いを馳せ、それでも行かない選択をした自分と向き合う。
その姿を見てた高柳先生が、自分で決断してここにいることは良い事と肯定してくれる。
この生徒はイジメとかじゃなく、大好きなバンドのライブに行きたかっただけなんだけど、きっとわかってもらえないだろうと誰にも言わなかった理由を、高柳先生にだけは打ち明けたナリよ。
#32 先生はあたしのことが・・・
高柳先生と目が合った⇒先生はいつもあたしを見てる⇒先生はあたしのことが好き♡
高柳先生がさびしそうな顔をした⇒先生はあたしがいなくちゃダメ⇒先生はあたしの事が好き♡
やだ君もうアカン奴やん。どうゆう心理構造をしとるのか。
ストーカになったら怖いから笑えない。
クレランボー症候群とは自分が相手から愛されている妄想に陥ってる人。
何の根拠もない妄想なのに絶対的な確信を持ってるからコワいのだ。俺はドン引きです。
なのに「不思議です。あなたがたと過ごしていると不思議な事ばかりです。」高柳先生の感想が達観しててあっけらかん。
#33 うす紫のワンピース
おそらく彼女は妊娠していて産むかどうか悩んでいるのであります。
高校生の妊娠かー。別に珍しくもないだろが、親や教師はきっと中絶を勧めるわよね。
それは一つの命を殺す事ですから彼女は葛藤します。
彼女が幼い頃に着てた美しいうす紫のワンピースは人の世のきれい事の象徴。
彼女を説得する大人たちの言葉が、きれい事にしか聞こえなかったのでしょう。
それで高柳先生の授業のノートを読み返してみるけど、これもきれい事ばかりでなんの参考にもならねーわと思う。(高柳面目ナシ)
面目丸つぶれでも「あなたが選んだものが100パー正しい」と援護する。
以前高柳先生が「倫理がとても大事な事で、それがたとえわかってもうまくなんて生きられない」と絶望先生になってたのを思い出すぞい。
#34 もう少しだけ・・・
#35 いい世界
高柳教室の生徒たちは倫理の最終授業として、皆で話し合います。
テーマは人類永遠の課題と言ってもいい「なぜ、人を殺してはいけないのか?」です。
生徒たちは、そもそも人前で自分の意見を論じるという事に慣れていません。
それは日本の学校教育が悪いのですが、それでも拙いながら思う事を言葉にしていきます。
法律で決まってるからとか、ならなんで死刑があるの?とか、人を殺しても正当防衛なら許されるとか、戦争中だったら人を沢山殺せば英雄になれるとか・・・
中でもあたしが一番気になってた生徒は6巻で登場した鳥岡なんですが、彼は何かを殺したいという衝動が抑えきれず殺し合いのような喧嘩を好む暴力的な生徒でした。
高柳先生は「なんで人を殺しちゃいけないの?」という話をしたがる鳥岡を、旧知のカウンセラーの所に連れて行きまして、彼なんかはかなり重大な凶悪犯罪者になってしまいそうな予兆があったのですが、このカウンセラーがかなり面白くて、鳥岡をわざと怒らせながら彼の心を上手につかんでいくのです。
(考え方を徹底的に破壊してから新しい考え方を再構築していくスクラップアンドビルドのカウンセリングだそうです。勉強になるのお)
鳥岡のバヤイ、自分では「人を殺してみたい」という感情だと思ってたのが、その根底にあったのは、人とちゃんとした会話をしたいという孤独感やさびしさだったと気づいたようです(祝!カウンセリングの成果)
ってことは、作中最もヤベエ奴とあたしがマークしてた鳥岡でさえこう言うんですから、法律で決まってなかったら人を殺したいって人はそうそういないんじゃないかな。
生徒たちの議論が胸アツなので、高柳先生が時間を延長してまで話し合いは続けられました。
なぜ、人を殺しちゃいけないのか?結局、納得する答えは出なかったけれど、自分は人を殺したくないしこれからも人は殺さない。そう思う人がたくさんいる世界がいい世界なんだ。と、おぼろげだけど生徒たちは何かをつかみかけた感じでしたね。
まあこんな難解な問題を議論するには時間が短かすぎるって。
あたしはこの問題には明確な答えはないと思ってます。
ダメなものはダメだからっ!つって、ワレ関せずよ。
この作品の最大の特徴は問題提起するだけで解決法は示さないのです。
答えは出さずに曖昧なままで終わったり、納得できないままモヤモヤして次の回に進んだりします。
あたしは以前「教育と愛国」というドキュメンタリー映画を見ましたが、日本では戦争の反省から政治は教育に距離を置くスタンスでしたが、2006年に教育基本法が改変されると愛国心を教えようという政治の圧力が教育現場で高まっている、とまあそんな内容でしたが何を言いたいかと言うと、教育で大事なのは大人の価値観や考えを押しつけたりコントロールする事ではなく、子供がどう考えどう行動するか自分で決められるように問題を投げかけ自分で考えさせる事が重要だと思うのです。(エラソーですいまっせん)だからこの作品で、高柳先生が生徒に考えさせようとするのがいつも素晴らしいなと思ってる次第でありますよって。
ところでこの作家は男性をセクシーに描くのです。しかも孤高系の高柳先生。
教師としてはどこか不完全で、そこがまた魅力なのですが、特に女子生徒とトラブルをやらかしそう。そこはかとなく心配です(余計なお世話ですね)