「マイ・ブロークン・マリコ」はコミックス一巻完結もの。
主人公の女性が親友の遺骨を抱いて旅に出る話で、ちょっとロードムービーっぽい。
と思ってたら、実写映画化されたんだね。
シイノトモヨ（２６才・OL）は仕事の外回り中に、昼食に立ち寄ったラーメン屋のテレビで、あるニュースを目にしました。
それは彼女の中学からの親友であるイカガワマリコの訃報でした。
マリコは大量の睡眠薬を服用して、自宅マンション４階のベランダから転落死したのです。
茫然自失となるシイノの脳裏に、中学時代のマリコの面影が蘇りますが、それはもうドイヒーな有様でして、彼女は実の父親から虐待を受け心も体も傷ついた非常に不幸な子供だったんです。
二人で遊ぶ約束をしたのにマリコが来なくて、シイノは初めて家に行ってみるんですが、アパートの部屋からは父親の怒鳴り声と暴力を振るう異様な物音がしまして、ドアからそっと顔を出したマリコの尋常じゃない様子とか、ドアの隙間から見えた常軌を逸して汚い部屋とか。
彼女が置かれてる環境の苛酷さを目の当たりにしたシイノは、声も出ないほどショックを受けかつ涙がこぼれたのです。
あの時と同じで自分はまた彼女に何もしてやれない・・・
今からでも何かできる事はないのか・・・
思い余ったシイノはある行動に出ます。
父親の元に乗り込みマリコの遺骨を奪って逃走したのです。なんと！
仏壇の前では、仰天した父親と骨箱を奪い合うバトルを繰り広げまして、その際シイノが父親を罵った言葉は「娘を強姦したテメエに弔われたって白々しくて反吐が出らあ！」というものでして、性的虐待まで発覚するというね。キツイ話です。ハアー（ため息）
警察への通報を恐れたシイノは、マリコの遺骨を抱え行くあてもなく歩きながら、彼女が「いつか行きたいね」と笑いながら言ってた「まりがおか岬」という場所を思い出し、夜行バスへと飛び乗るのでした。
「まりがおか岬」はまあ架空の場所ですね。
シイノは男性相手でも思いっきり喧嘩しちゃうような、ガラが悪くて気短な性格で、マリコは不慮の事故なのかな？自殺とも取れるし。
初めてのバイト代で買って履き倒したというマーチンを履き、急ぎ旅支度を整えたシイノはマリコの遺骨に向かい「二人で海へ行こう」と語りかけます。
マリコがくれた沢山の手紙を読み返し思い出に浸りながら、彼女とのエピソードが描かれつつ、海へ向かう道中でひったくりにあったり、親切な地元の男性と出会ったりというね。
父親からの虐待に苦しむマリコにとって、シイノは唯一の大事な友達でした。
でも彼女の心は均衡を失いシイノにどんどん依存してきます。
「もしシイちゃんに彼氏とかできたらわたし死ぬから」と自殺をほのめかし、実際にシイノの目の前でカッターで手首を切ってみせたりします。
メンヘラの人の常とう手段ですな。
相手にかまって欲しくて自分の命を天秤にかけてくる。
これをされると死にっこないってわかってても、もし本当に死んだらどうしようと困惑するあまり相手の言いなりにならざるを得ず、不毛なやり取りを永久に続ける羽目になり疲弊してしまいます。
そういうマリコを、シイノは内心めんどくせー女と思ってたんだと省みます。
でもね、最も深刻だと思ったのは、マリコが大人になっても子供時代の虐待の心の傷が癒えずに、常に悪いのは自分だと考えてしまったり自分を大事にできない事なんですよー。
彼女がつき合うのはDV男のクズばっか。
大人になっても暴力を振るわれてる。
しかも心配したシイノが別れさせようとしても、自分からまた会いに行ってしまう。
どんなに怒っても励ましても効果は全くないのです。
「わたしはぶっ壊れててどうしたらいいのかわからない」とネガティブ全開でのたまわれ、「シイちゃんが心配してくれるのがうれしいだけ」などと投げやりに笑う。
重いわ～
ですからマリコのあーだこーだの重い回想パートは深刻に描かれ、シイノが「うおおお～！」と慟哭する現在パートはコミカルに描かれてメリハリをつけています。
うひ～泣ける話と苦笑い（爆笑とはいかない）が、衝動的でスピード感のある展開になっとります。
「まりがおか岬」にお骨を撒くという発想にはたまげたナリよ。
この作品が突きつけてくる、メンヘラの人の心の傷はとても悲しい。
シイノの追憶の中のマリコは、いつも父親に殴られて青あざや絆創膏だらけの顔であり、無理に明るく振る舞って見せる笑顔であり、シイノにすがりつく気が滅入るような眼差しや虚無感が漂う顔です。
シイノにあるのは自分を残して死んでしまったマリコへの憤りと悲哀ですが、でもこれを友情と言ってしまうにはチョットいびつな気がするのです。
ましてや恋でもないですし、微妙でロマンチックな女同士の愛の形のようでいて、実は二人は共依存関係ですよね。
メンヘラのマリコの面倒を見続けるシイノもまた孤独な人なのです。
シイノが旅先で出会った男性は、馬鹿に親切だなと思ったら、この人もかつては「まりがおか岬」で自殺未遂した経験者でして。
「もういない人に会うには自分が生きているしかないんじゃないでしょうか」
「あなたの思い出の中の人とあなた自身を大事にしてください」などと言ってくれます。
そうして、エキセントリックにおおいに泣き喚き、また元の生活に戻っていくというラストも良かったですな。
残された人は生き続けるしかないのである。
それでも生きよう。
頑張って。
そう思わせる作品でした。
いかにマジクソ親父であってもお骨を奪いに乗り込むとかは、さすがに「ないなー？うーむ」と思ったものの、なんとなく映画「鬼龍院花子の生涯」を連想したので「なめたらいかんぜよ」と決め台詞を呟きつつ、なんだか疾走感がまばゆかったからこれはこれでいっかと思いました。(・∀・)ｲｲﾈ!!
