akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「たそがれたかこ」入江喜和 45才バツイチ女性のときめき

「たそがれたかこ」は2013年~2017年まで「BE・LOVE」にて連載された、中年女性の人生を描いた漫画。

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(入江喜和「たそがれたかこ」全10巻)

 

あたくし漫画のジャンルは幅広く読もうとは思ってるのですが、どうもラブコメとファンタジーものは食指が動きません。

あと、こういう人生の黄昏に差し掛かった中年女性の日常系とかもあまり興味ないんですが、この作品については、作者の突破力っつーか、フロンティア精神が素晴らしくて、特にラストがあたし的に好みなので書いておきますよ。

それはそれとして、45才で黄昏とは、ちと早過ぎやしない?

 

主人公のたかこ(45才)は母親と二人暮らしのバツイチでして、深川から自転車で新大橋を渡り社員食堂のパートに通っています。

一人娘の一花は元夫が引き取っていて時々遊びに来るのですが、元夫は既にちゃっかり若い女と再婚しています。

母親が大家をしてるアパートの一室に母子で住んでて経済的には困っていませんが、たかこは若い時から人づき合いが苦手でしてね。

今はただ仕事に行くだけの冴えない毎日で、職場では疎外感を感じるわ、家に帰っても母親は耳が遠くて会話が一方的でつまらないわ、で漠然とした孤独を感じてるんです。

友達もいないから話を聞いてくれる人もいない。

だいいち話を聞いてもらうほどの大きな悩みもないし、そもそも人に会うのがめんどくさい。(しょーがねーなー)

 

「コミュニケーション能力」というスキルを持たぬ者は社会不適合者の烙印を押されてしまうこの国では、自分とは1ミリも共通点を見い出せない相手でも、ヘラヘラ笑って話を合わせねばアカン!

ハイハイ、生きるってのは疲れますなー

思えばたかこって、若い頃からそういうのが苦手だったわけで、つまり生きづらい人の成り果てた姿なんですよね。

なんか読み始めてハッっとして、とても不安になって、他人事じゃねーなと我が身を振り返るナリよ。

 

しかしもうね、たかこの作画がひどいんです。

今の45才ってもっと若いと思うんだけど、目じりのシワとか大袈裟に描きすぎて(漫画ではフツーはここまで描きませんよ)なんかもーおばあちゃんだよ。

大抵の女性は少女から女になってオバサンになってくんだけど、たかこは少女から一足飛びでオバサンになったって感じがしますね。

また同居してる母親ってのが、地味なたかことは対照的に明るくておしゃべりでしてね、天然なのかボケてるのか自分の事ばっか話したがるのでちょっとウザい。

耳が遠いから会話が噛み合わないのもあるけど(隔世遺伝を「えっ、覚せい剤?」とか落ち込んでるんだよと言うと「えっ、落ち武者?」とか万事が万事この調子なわけ)そもそもこの母親が娘であるたかこの気持ちをまったくわかってないんです。

でも年寄りだし悪気はないんだから怒るわけにもいかず、老いた親に優しく接する事が出来ない自分に反省するたかこに共感を覚えます。

 

そんな日常に疲れた中年女性たかこは、深夜ラジオでロックバンド「ナスティインコ」のヴォーカル「谷在家光一」の番組を聴くのですが、ラジオから流れてくる彼の話は、彼もまた自分と同じ様に生きづらさを感じさせるもので、たかこの気持ちにドンピシャ(・∀・)イイネ!!

光一くんのファンになったたかこは、明るく前向きに変わります。

美容室で今までした事ないような明るい髪色にしたり、アキバのタワレコにCDを買いに行ったり(そんな事が彼女にとっては大冒険)退屈だった毎日が楽しくなり、違う自分を発見して嬉しくなったり、光一くんから勇気をもらったり。そうです恋です。恋なんです♡

また、たかこのアパートに住むオーミくんという中学生男子が「ナスティ・インコ」のファンだと知り、同志も見つかります。

ただねー、ワクワクしてた最初のうちは良かったんですがねー、そのうち光一くんとの疑似恋愛を妄想するようになるたかこの乙女心がそこはハッキリ言ってキモイ!(笑)

しかしながらこの中年女性のイタさという点では、最後の最後まで振り切ってる感がある作品で、それと共に娘が拒食症になりそれを克服していく過程が物語の重要な側面になっていまして、読後「なんかすごい物を見たで」という気になります。

 

中3の娘・一花は元夫と継母と三人で暮らしていたのですが、不登校になって、たかこの家へやって来ます。

そして拒食症だとわかるのですが、子供が拒食症になる場合って、多分に心に問題があるんだと思うから親は本当に切ないんだよね。

拒食症になった理由はよくわからないのにたかこは自分のせいだと考えてしまうし、何でも一方的に決めつけてくる元夫でさえ「お父さんが悪かったと思ってる!」とか言い出して責任を感じてるし、しかも拒食症の人に食べろと言ってはいけないんだって。

これってウツ病の人に頑張れって言っちゃいけないのと同じで、拒食症の人は食べたくても食べられないから苦しんでるのであって「おいしいよ~」とか「ちょっとだけでも食べてみ」とかしつこく言われると、責められてるような気になってしまうらしい。

そういう心理がたかこにわかるのは、実は彼女も若い時に拒食症になった経験があるからなのです。

たかこは一花を心配しながらも、今さら自分が母親ヅラするのも図々しいと考え「拒食症の先輩」「不登校の先輩」「世の中とうまくやってけないけどなんとか生きてる先輩」というスタンスで彼女を見守ろうとするんです。

素直に自分を頼ってくれない娘に「なんでっ!?」って腹を立てながらも決して口には出さず、根気よく彼女の気持ちに寄り添おうとします。

 

どうしてたかこは離婚したのか?どうして娘を置いてきたのか?なんだかすごく気を使い合う親子関係は何なんだろう?とか、色々と気になる点が読んでるうちに徐々に明らかになったりならなかったり。

一花の体重が30キロ代に減ってしまい、ブカブカになってしまった制服を見て以前の健康的な一花の姿が浮かび切なくなるけど、「感傷的になんかなってる場合じゃない!」「娘が頑張ってるんだから!」と思い直すたかこ。

オーミくんと「ナスティ・インコ」の話をして楽しく感じることさえ、罪悪感にとらわれてしまう。

そうして深夜にひとり光一くんのラジオを聞きながら、滂沱の涙を流すたかこ。

わかる。わかるよ。たかこの気持ち。

自分の自信のなさに諦観してた人生だけど、心のどこかで抗いたいと叫んでる。

でもホントにたかこの作画がひどくて、ってかリアルに描かれてるので、泣いてる顔が美しいのはやっぱ若いうちだけなんだな。うん。

 

この作品のクライマックスは、コミュ障中年女性の情けない恋愛でして、45才と中学生の愁嘆場です。

たかこはオーミに恋をしてしまい、二人でライブに行き思わず好きだと告白する場面には、あまりにもアレなんで、ホントにブッたまげるわい!

恋して若返って、他人と関われるようにもなり、人生が明るくなったのだからもう苦笑するしかないんだけど、若い人を眩しく眺めるたかこの気持ちもわかるけど、やっぱコミュ障として生きて来た人は、人との距離がうまくつかめないんだよね。

 

しかしこのラスト、日本では「マジかよ!いい年して!」と非難されそうだけど、もしもフランスだったら「純愛だ!」とか言われて喝采されるかもよ。

ほらなにしろ愛に寛容なお国柄だから。