加治理津子(30才)は5年前のデビュー作以来、新作が書けない小説家。
自死直前に8人の女にプロポーズしていた男友達・アオイの謎を追う。
でもでも、一番の謎はアンタ自身だよ!
本来わたしたちは色々な顔を持っているはず。
そんなの当たり前の事ですよって、表の顔と裏の顔があったとしてもさほど驚きやしませんよ。
しかしこの作品の主人公である加治理津子ときたら、まったくとりとめがなくて、どれが本当の理津子なのか?彼女はどんな性格の人なのか?全然わからないのです。
もう変な女とか頭のおかしい女としか言い表せないんですが、彼女があまりに不可解すぎるため、話の方がちっとも入って来ないんですよね。
一度読んだくらいでは話の骨組みがよくわからず、また読み直すっていうね。
このわからなさが、この作品の妙味なのかもしれないね。
前巻の感想はコチラです↓
さて、前巻では突然エプロン姿で料理を作り始め、夫を待つ妻に変身した我らがりっちゃん。
どういうこっちゃねん?と首を傾げながらも、もう奇行には慣れましたから、今度は何をやらかすのかと怖いもの見たさです。
しかしまあ、何をやっても不快指数マックスでして、これだけ好感度低いヒロインも珍しいですよね。
理津子は帰宅した野田氏と二人で飯を食ってる最中も、「ペットの蛇って何食べるか知ってる?ネズミをね、ジップロックにぎゅうぎゅう詰めにして冷凍しておくのよ。食べさせる直前に湯煎して温めるの」などとしゃべる。
野田氏、飯はもう次から自分の事は待たなくていいからと言う。
すると、理津子は
「史くんがずっとどこにも行かないでって言ってくれた意味が、やっとわかったの」
「小説なんか書かずに家にいるのが幸せだって気づいたの」
などと、今更ながら言うわけです。
野田氏はもうすっかりその気のない顔してるのになあ。
じっとしてれば失うことなんてないのに
表の顔と裏の顔と言えば、ファミレスで小出の飲み物に睡眠薬を入れたのぞみですが、秋葉先生が巧みにすり替え、自分が飲んでしまい眠り込む羽目に。
「現代人の弱点は必ずこの中にアリ!」(名言ですな)と、秋葉先生はのぞみのスマホから彼女の裏アカを発見。
それは意外や意外、過剰な幸せアピールがうざい、まるで別人に可愛く加工されたSNSでして、愛する彼と来たホテルのプールだとか夜景がきれいななんとかだとか・・・秋葉先生はこれがのぞみの正体だと言います。
現実で満たされない思いをSNSで埋め合わせる
あの口汚いツイッターの裏の顔は虚しかった
「人より輝きたいとかモテたいとか頑張ってる奴は滑稽を通り越して哀れで吐きそうになる」
以前のぞみがそう言ってたのは、自分自身の事だったのかもしれませんね。
彼女にも音楽の夢があったようですが、中島と出会った時は既に、夢とかやりたい事とかわからないし自分はブスだから幸せな未来も望めないし死にたい、と言うようになっていました。
二人の共通点は死にたい事でしたが、中島は
「世界でおまえだけが、おれが、死ぬの止めようとした女だ」
と言っていまして、中島はどうやら彼女が死ぬ事を思いとどまらせようとしていて、この言葉がのぞみの宝物だったようです。
自分だけが中島の特別だと思っていたのに、加治理津子にお株を奪われ、潔く死んだ中島を彼女が茶化しているようで許せなかったのです。
一方、えみと西くんは長谷川ゆきが池に捨てた本を見つけ出すのですが、中に挟まれていた手紙が、ゆきが誰かに書いたラブレターを中島が添削したものではないかと推測。
えみとゆきは親友でしたが、ゆきが内緒で中島とつきあっていると思い込んだえみが一方的に交友を断ったのですが、その頃中島の鬱病が重く、家族は息を殺すようにして自殺を危惧していたのです。
ゆきは中島と一度だけ肉体関係を持ち、彼女が処女だったためにドン引きした中島からつき合うのは無理と言われてからも未練があるようでした。(ムムム、ヒドイ男ねえ)
自殺を防ぐ事が出来ず兄を亡くしたえみは、最初は加治理津子のせいだと激怒していたんですが、今は少し心が落ち着いてきて、たとえ自分が嫌いになってしまうかもしれない兄の姿であっても知りたい、ゆきとも仲直りしたいと考えています。
その頃、小出の元に理津子の元親友のさほから連絡があります。
なんかー、女性の言う「元親友」ってのはやばいな。
ゆきは自分と違い明るく素直で男子にモテるえみが本当は苦手だった、だからもう仲直りしなくてもいいって考えています。
アオイの8人の女の中では常識人に見えるさほでさえ、理津子が嫌いだったと断言してますし、なぜ女性同士は表向きは必要以上に仲良しのふりをするんでしょうかねー?
で、さほが言うには、5年前に野田氏が「理津子やアオイの事を洗いざらい教えてくれ」とさほに会いに来たそうなのです。
もう一度加治理津子に会って話しませんか?という小出の誘いに乗り、さほは上京してきます。
そこでさほは思いも寄らない人物と遭遇します。
中島が死ぬほど引きずった初恋の彼女・未散(みちる)でした
未散はちょっと変な人でして(また出たー!変な人!)いやもう変な人ばかりなんですが、アイドルの動画ばかり見ています。
なんか現実逃避したいのかのお?
さほが未散から聞き出した話によると、中島が死ぬ前の夏に急に会いに来たけど恰好が若作りで驚いたとの事。
中島は「最近女子高生と仲良くしてる」「二人目の小説家を育ててる」などと言ってたというんで、えーっ!何それー!30前の大人が女子高生とかキモ過ぎるー!?と二人は当惑してしまいます。
長谷川ゆきはSNSで知り合った見知らぬ男と待ち合わせしていた
女子高生なら5万出すよ
処女だよね?
小遣い稼ぎなのか?ゆきの真意はわかりませんが、待ち合わせ場所に現れた、あのやり取りの相手は予想外に素敵な男性でした。
優しくて飯食わせてくれて話も聞いてくれて、しかもがっついていないから、ゆきはすっかり気を許してしまう。
彼のオサレで広い部屋について行き、言われた通り制服に着替えて戻ると、ハイ!カメラがスタンバイしてました。
「じゃあ制服一枚づつ脱いでいこっか?」って、あわわわやばい奴やん。
ここから話が動いて来まして、まさか中島がJKビジネスに手を染めてたのか?ってな展開に。
さほも思い出す。
「ホ別2」とか「生3」などの援交用語を中島の携帯で見た事。
ホ別2ってホテル代は別で2万円ですかね?生3は何ですかね?生ビール3杯?ウーム、わからん。
8人の女たちが語る生前の中島って本当にクズ男でしたが、中島は彼女たちに愛や幸福を求めたわけではなく、孤独や空虚を埋め合わせるべく何かを探していたように思えます。
彼の暗い情熱が、このわからなさが妙味の物語に、強烈な深みを与えているんですよねえ。
その時、肝心の理津子ったら、野田氏の帰りを待ちながらニキビ面でとんかつを揚げていました。
野田氏から肌荒れを指摘され、それにとんかつ揚げすぎだってば。
そしていきなり子作りしようと言い出し、振り向けば裸なんでたまげるわ。
理津子はセックス依存症だと思うんですけど、自分が求められているうちは安心してられるけど、求められなくなると不安になってしまうんでしょうな。
野田氏はもう冷めておりますから、
「自分は頭のいい人が好きなんだ」
「手段に困ったら泣いたり服脱いだり低能すぎる」
「りっちゃんの人生は嘘とセックスしかない」
などと蔑視したように言うので、心を通わす手段が見つからないまま二人は大喧嘩になってしまいます。
タガが外れたように理津子を疫病神扱いする野田氏
粘着質な男だけど、もっと理性的な人だと思ってたなあ・・・。
別人みたいにまくしたてる夫を見る理津子の顔は、白昼夢でも見てるかのように虚無です。
次の瞬間!われ知らず鉄拳を振るい、壊れた機械みたいにうるさいから止めようと思った、と鼻血を出して涙目の野田氏の前でつぶやく理津子。
最強ですな。ウフフ
この夫婦には夫の元嫁も絡んでるから三角関係なんですが、現実感があるようでいて独特の気持ち悪さがなんとも言えません。