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大人の漫画読み

漫画/「作りたい女と食べたい女」ゆざきさかおみ 感想

チョット体調不良で更新出来なかったです。

もう年なので少し仕事するだけで疲れて回復に時間がかかってしまうのですがな。

冴えんなあ。

さて「作りたい女と食べたい女」読んでみました。

料理好きでたくさん作りたい女性と、食べることが好きでとにかくたくさん食べたい女性が、ひょんなことから知り合い互いに惹かれ合うという内容です。

(ゆざきさかおみ「作りたい女と食べたい女」既刊3巻)

料理が大好きな野本さんは、「料理は一汁一菜」と提案する土井善晴をリスペクトしてる女性(シブい!)ですが、なんでかデカ盛り料理やらゲームレシピの再現やらに憧れ、とにかく料理を大量に作りたくてうずうずしています。

しかし一人暮らしですし少食だし、作っても食べてくれる人がいません。

そんな野本さんは、同じマンションの同じ階に住む春日さんがすげえ大食漢だということに気づき勇気を振り絞り声をかけるわけです。

作りすぎちゃったので食べてくれませんか~つって。

すると春日さんってば、食うわ食うわ豪快に食べてくれたんですよ。

もうね野本さんはウットリみとれちゃうわけよ。

春日さんの食いっぷりを肴に一杯飲んじゃうというね。

 

こうして素晴らしい人材を得た野本さんは、オモウマイ店のごとく玉子8個米4合を使用したメガ盛りオムライスやら、ホットプレートで大量に餃子を焼いたり、思う存分腕が振るえて毎日が楽しくなっちゃう。

確かに料理ってのは、うまいと食べてくれる人がいるから作る張り合いがあるんですよね。

餅巾着メインのおでんとか、炊飯器でバケツプリンを作ったり(これは作ってみたいな!レシピも載ってたらよいのに)山のように盛られたうまそうな料理は、あたかも天に満ち地に満てるがごとき充満し、食べ専春日さんのワイルドな食いっぷりは延々とモノローグでして、食べるシーンは谷口ジローの「孤独のグルメ」っぽいかしらね。

それはいいとしても、こんなにご馳走しちゃって野本さん食材費はどうすんだよ?と老婆心ながら心配になるあたくしでしたが、ちゃんと食費は手渡してくれるわ、車でドライブがてら新鮮野菜の直売所に連れて行ってくれるわ、生理痛で寝込んでればナプキンと痛み止めを買ってきてくれるわで、春日さんは無口だけどそりゃあ優しく気遣いのできる人だったのです。

 

「作りたい人」が「食べたい人」と出会い、互いにニーズが合致してるのを知り、一緒に食卓を囲み、お互いを思いやるようになる。

いいですねえ~

クリスマスや年末を二人で過ごし、そんなこんなで、料理を通した女性二人の交流はやがて恋愛へと発展していく・・・作品なんだと思ってました。

あたしもそろそろ百合を描いた作品に触れてみたいと思っておったのですが、でもこれはちょっと違ったわねー

作者が真に描きたいのは今の社会へのジェンダー問題の提議ですよね。

たとえば野本さんは会社に手作り弁当を持参してるのですが、男性社員から「いいお母さんになる」みたいなことを言われまして心がふさいでしまいます。

まずもって男のためにやってるわけじゃないですし、料理が好きだからやってるだけだし派遣だから給料安いからです。

かつての日本では男は働き女は家事に専念するというのが一般的でしたが、今は違うはずです。

しかしいまだに社会は男性中心で構築されております。

いいお母さんになれるとか、家庭的だとか、女子力なんてのは男性中心社会と結びついた言葉で、女性への誉め言葉だと思ってる諸兄もまだいますが違うってばよ。

春日さんは定食屋で、女性客だから「ごはん少な目にしときましたよ」と言われムッとしたので、定食屋の爺さんにもっと飯をよそえと要求して慌てさせます。

爺さんに悪気はまったくないんですが、女は少食っていう勝手な決めつけいい迷惑でしてね、たくさん食えば笑われそうで恥ずかしいし、食わなきゃ食わないで気にしなくてもいいとか言われるし女って窮屈ですわ。

 

春日さんが食べることに執着するのは、女の自分と、父親と跡取りの長男とで食事に差がつけられ、女性だけが台所に立つような封建的な家庭で育ったからです。

料理は男のために作るという呪縛(料理だけではないですが)に、彼女たちは無言のうちに圧迫されてきたんですよね。

(なんかモヤモヤしてきたナリよー)

大人になった春日さんはたくさん食べることで、自分の中のかわいそうな子供だった自分を慰めてるんだろうと思うのです。

ですから春日さんにとって、自分のために料理をたくさん作ってくれる野本さんは実に癒しを与えてくれる人なんですよね。

どうして作りたいのか?どうして食べたいのか?読み進めて行くとその理由がわかります。

 

この作品はサラッと読んでしまえば楽しい料理漫画なんですが、深読みすればけっこう重いですわね。

地方出身の野本さんは実家の母親から「早くいい人を見つけなきゃ」などと言われてるんですが、結婚どころかこれまで男性とつきあうことにずっと気乗りしなかったのです。

なぜだ自分?と周りの女友達と比較してはずっと違和感があったわけです。

春日さんの素敵な食いっぷりを愛しそうに眺める描写でまあそうなんだろうと感じますが、ある日体調を崩した晩に、ついに自分のセクシャリティに気づきます。

でもレズビアンと検索しても出てくるのは男性向けAVばっかだし、本当に好きな人に出会ってないからだ、などという言葉にもひっかかります。

世の中は異性愛者中心で回ってますよって、こうあるべきという価値観に追いつめられる人もいるんですよね。

セクシャルマイノリティの生きずらさは、女性の生きずらさとも無縁ではないのかもしれません。

しかしその決められた普通の「型」にはまらない自分を、野本さんが受け入れられた場面はよかったです。

 

だからと言って二人に劇的な変化がおこるわけではないんです。

まだまだ覚醒したばかりの野本さんがすぐに積極的になれるはずもないです。

でもこの二人って、自分にも相手にも正直で誠実な所がいいですよね。

あとちょっと気になったのは、性の多様性については様々な用語があるんですが、LGBTQプラスだっけ?それにOOセクシャルという言葉の定義や違いがわかりずらいんですよね。

また、マイノリティだからと言って、主人公とその周囲の人だけが味方でそれ以外は敵視してるように見える描き方はもったいない気がしました。

性の多様性を認めることは、知らなかった概念を知ることからでしょうか。

お勉強しましょうや。