akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「ヴラド・ドラクラ」6巻 大窪晶与 (ネタバレ)感想

「吸血鬼ドラキュラ」のモデルで「串刺し公」と恐れられた暴君・ヴラド3世の真実に迫る歴史漫画。

第6巻読みました!

(大窪晶与「ヴラド・ドラクラ」6巻)

舞台は15世紀中期のヨーロッパなのです。

ヴラド3世のワラキア公国(現・南ルーマニア)は、南にオスマン帝国、西にハンガリー王国というふたつの大国に挟まれた小国です。

 

ヴラド3世の戦いを振り返る前巻までの感想はコチラ

 

www.akirainhope.com

 

前巻の第5巻では、いかにしてヴラド3世が「串刺し公」という恐ろしい異名で呼ばれるようになったかが描かれました。

1462年、オスマン帝国の征服王・メフメト2世がワラキア公国に侵攻し、対するヴラド3世は首都トゥルゴヴィシュテを守るため、決死の夜襲作戦を敢行し成功させたんです。

オスマン帝国6万の大群にワラキアは2万という兵力差で死闘でした。

国土は焼かれ多くの人が死に、失ったものも大きいです。

追撃するオスマン軍を待ち受けていたのが、2万人ものオスマン先兵隊の2キロにも及ぶ串刺しの森でしてねΣ( ̄ロ ̄lll)ガーン!これを見たメフメト2世始め兵たち、さすがにビビり士気が一気に萎えてしまいオスマン帝国軍は撤退します。

ヴラド3世やべえ

国を守るためにここまでやるんかーい!?

ってか、ここまでできるものなのか???もう衝撃的でしたね。

 

とまあそんなわけで、ぶったまげて撤退はしたものの、メフメト2世って調略もすごいのでした。

疲弊したヴラド政権に代わり、新しいワラキア君主としてヴラドの実弟を差し向けて来たのです。

ラドゥ3世(ヴラド3世実弟)

 

ラドゥ3世は美男候と呼ばれるほど美少年でした。

かつて二人の父であるヴラド2世は当時のオスマン皇帝ムラトに招聘され、ヴラド3世(10才)を人質に差し出すつもりがムラトに拘束されてしまいまして、「父上を放せー!!」と暴れまくるヴラド3世より弟のラドゥ(5才)が身代わりとして連行されてしまったのです。

ラドゥはムラトのお気に入りとなり小姓にされました。

「いつかきっと弟を取り戻す」と誓ったヴラドでしたが、それから6年後、父と兄が暗殺され次期ワラキア公としてムラトに謁見した際ラドゥと再会しまして、「一緒に故郷へ帰ろう」と告げるもラドゥったらすっかり嫌なヤツになってましてね。「冗談でしょう?ここの生活楽しいし僕ちゃん皇帝陛下のお気に入りだもん」と暗に皇帝のお手付きだとひけらかす始末。

美しいことは時にその人の人生を不幸にしてしまうこともあります。

ブサイクだったらこんな事にはならなかったのに・・・

 

しかしこの人生を受け入れたのは他でもない自分自身だと今のラドゥは振り切ってまして、血を分けた兄弟など関係ないというえげつなさです。

「鎌倉殿の13人」のような骨肉の争いはどこの国でもありまさーね。

ラドゥはヴラドのような軍事的才能の方はどうかわからんが、やたらと人の心を掴む巧者なんで油断ならず、これはこれで凄味のあるキャラです。

それにしても、事実は小説より奇なりと申しますが、美男候の登場とか展開めっちゃ面白いです。

 

されど小国の悲しさっつーか、オスマン帝国から新しいワラキア公が推挙されましたつって、こう君主がちょくちょく代替わりしてるんじゃ、ワラキア民もやってらんないわよね。

ヴラドもそう簡単に弟には渡せませんから、もう内戦突入です。

国はバラバラで、ヴラドの行ったオスマン帝国への徹底抗戦を支持する者ばかりでなく、拙速な中央集権化によるアンチもいますし、厭戦気分も強まっていました。

ラドゥが君主になれば平和になると思い込んで、剣を突きつけ投降しろとか迫られるヴラド。

ラドゥがワラキア公になればオスマン帝国の思惑通りです。

殺されない程度に生かされ支配されるだけなのに、それが真の平和なのかとヴラドは問います。

独立と国を守るために戦う覚悟のヴラド。

ウクライナのゼレンスキー大統領とかぶるなあ。

 

けれどついにヴラドは追い落とされ敗走、ラドゥ3世がワラキア公位の座に就いたのです。

はああー

もうここまでてんこ盛りでして、大国に翻弄され舵取りが難しい国で、貴族を粛正し権力を掌握し中央集権化を推し進めたり、オスマン帝国が侵攻して来て国を守るためにゲリラ戦と焦土作戦で激しく抵抗したり、串刺ししたり・・・ホント大変だったのにい~

 

ヴラドが頼ったのはハンガリー王・マーチューシュ1世でした。

ハンガリー王国国王・マーチューシュ1世

 

ヴラドの妻・イロナはマーチューシュの従姉妹です。

イロナは政略結婚でもハンガリーとワラキアの窓口になり、ヴラドに忠実に生きようとする高潔な女性として描かれています。

マーチューシュの憧れの女性でもありました。

ヴラドは敗走中に、ドラキュラ伝説で有名なトランシルヴァニアのポエナリ城で彼女から編み物を教わりました。

心癒された時

 

史実ではポエナリ城から投身自殺した(wiki調べ)妻ですが、作中ではヴラドを守るために誤って落下したことになっていて、よい意味で脚色されてて、ヴラドの悲しみが胸に迫ります。

 

ところが!ところが!

 

マーチューシュからオスマン帝国に内通したという嫌疑をかけられ逮捕され幽閉されてしまうのです。/(^o^)\ナンテコッタイ

 

ちなみに、オスマン帝国との戦いからここまですべて1462年の出来事だからね。

まさに人生はジェットコースターであります。

 

マーチューシュがなぜ濡れ衣を着せたかと言うと、オスマン帝国(イスラム教)に勝利したことで東方正教のワラキアにカトリック諸国は大賛辞を送りまして、ヴラドは一躍VSオスマンの代名詞となりましたから、ハンガリーが後押しして損はないのです。

と思ったんだけど、ラドゥと組んだトランシルヴァニアが横やりを入れて来まして、やっぱオスマンとは戦いたくないわーつって、ラドゥと取引しヴラドを幽閉しとくねってことになっちまいました。

また、教皇にご機嫌とりのためか、ヴラドにカトリックに改宗せよと迫るのです。

国を守るためとはいえ、なんか人間が小さいよね。

 

マーチューシュは当時新技術だった活版印刷を使い、ヴラド3世の残虐行為を誇張した印刷物をまきました。

こういうヤツ↓

串刺しにした人間を眺めながら飯を食うのが日課だったとか、煮殺した赤子を母親に食わせたとか・・・

 

あわわ、これを見た当時の人、信じちゃったでしょうね。

領土を守る為に戦ったのに悪鬼羅刹と罵られ、果ては吸血鬼なる怪物のモデルにされてしまったんですよね。えらいこってす。

でもルーマニアではオスマン帝国に徹底抗戦した国土の英雄と評価されてるようですな。