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映画/「仕掛人・藤枝梅安」新作映画感想

もう何度も実写化されておりますが・・・「仕掛人・藤枝梅安」が映画化とな!

なぜに今?

と思いましたら、なんでも2023年は原作者の池波正太郎生誕百年だそうですよ。

(「仕掛人・藤枝梅安」河毛俊作監督/134分))

藤枝梅安(豊川悦司)は品川台町に住む表の顔は腕の良い鍼医者ですが裏では世の中のためにならない悪人を闇に葬り去る仕掛人です。

ある日同じ仕掛人仲間で梅安がただ一人心を許している彦次郎(片岡愛之助)の所へ泊まりました帰途、多数の刺客に襲われる浪人石川友五郎(早乙女太一)の壮絶な斬り合いを目撃します。

石川の凄腕を目の当たりにした梅安は間合いを取りながら「俺は鍼医者だが医者の出る幕はないね」などと言い悠然と去って行くのでした。かっこよ

その後梅安は蔓(つる)の羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から料理屋「万七」の内儀おみの(天海祐希)の仕掛けを依頼されます。

ところがどっこい3年前に「万七」の前の内儀おしずが急死したのは梅安による仕掛けだったのです。ええ?またもや「万七」の内儀?ってかこんなの珍しいわよね?と奇妙に思った梅安は「万七」の年増女中おもん(菅野美穂)に近づき店の内情を聞き出します。

ちなみに年増というのは侮蔑ではなく、江戸時代の女性は結婚するのが早かったから19才で既に行き遅れでして20才過ぎると年増、25才で中年増、30才で大年増(おもんは大年増です)と年齢で区分されていたのですが年増とは女盛りの美しい年代のことなのです。

おもんによるとおしずの死後反対を押し切り後添えになったおみのは水茶屋の女で今までの奉公人は辞めてしまうし店の評判も落ちてしまったのになぜか店の儲けは増えてるといいます。それはおみのが女中として雇い入れた若い娘に客を取らせているからでした。

3年前のおしず殺しの起り(依頼人)は誰だったのか?(どう見てもおみのだよ)それを探るのは仕掛人の掟に反する事ですが梅安気になります。そしておみのの顔を見た梅安はとても驚きます・・・Σ( ̄□ ̄|||)ビックリ!

 

「起り」というのは金を積んで殺しを依頼してきた依頼主をさす隠語です。

金で殺人を行うことを「仕掛け」と言い「起り」の依頼を受けてしかるべき「仕掛人」を選び殺しを請け負わせる者が「蔓」です。

「蔓」は「起り」からなぜその相手を殺したいのかある程度の事情は聞いています。なにしろ殺し屋に頼んで人命を奪うという自分にとってもヤバイ仕事ですからその点はちゃんと調べています。

「蔓」は闇社会の有力者であり元締めなどと呼ばれていますが「蔓」と「仕掛人」の間に義理はなくあくまでも金で殺人を請け負うのですから詳しい事情は知らなくてもよいし知るべきでないというのが掟でしてまあ「蔓」を信頼するよりしゃーないのですわ。

原作小説から派生したテレビドラマの仕事人シリーズは恨みを晴らす庶民のダークヒーローで安い金でも殺しを請け負いますが、仕掛人の仕掛け料はもっと高くて半分を「蔓」が取り、残り半分を前金と後金で「仕掛人」に払うシステムです。たとえば前金が50両だとすると後金でもう50両入りますが「蔓」も100両取っていますから「起り」は200両払っています。

考えれば命がけの仕事なんですから高いけど妥当な気もしますし、さらに世の中には大金を支払ってでも誰かに死んでほしいって思ってる人がいるわけでして、将軍お膝元の江戸市中で闇から闇に葬られる殺人はけっこうな数で熟練の仕掛人がしたことは後に影も形も残しません。

殺しのシーンでは必殺のようなお約束のテーマ音楽もなく安易なエンタメっぽさは廃して抑制が効いてていいと思いました。

まず始まってすぐに川舟の側の水面に竹が浮いてて(あ水遁の術やんけ!)と思ったらそれが梅安でザバーっ!といきなり相手を川に引きずりこむという力業で水中で鍼で仕留めるんです。梅安の身体能力スゴイ。

緊迫の仕掛けの後の川原に昇った大きな赤い月と梅安の後ろ姿のシルエットがなかなかな光と影のコントラストでして美しき。

原作では梅安は海坊主のような大男という設定ですから豊川さんぴったりやん。あたしは豊川さんの声が好きですね。

また冒頭でのCGを駆使して再現された江戸の街並みが活き活きと素晴らしく隅田川には舟や筏が浮かび遠く雪化粧をした富士山が眺望できて江戸ってこんなに綺麗だったんだろうかとハッとしました。

梅安と言えば食べるシーンも有名ですが、主人公同様に重要な役どころの彦次郎は今回はちょっと若くてカッコいいですが、江戸の旬なものを手際よく料理して2人で食べたりこたつで寝たり語らったり茶碗で酒を飲みながら俺はもうじき死ぬような気がすると片方が言えばうむ俺もだともう一方も同じことを言いしみじみと過ごすシーンよいのです。

闇の世界に生きる孤独な男2人がいつ死ぬかわからないからこれが最後の食事になるかもしれんと日常を慈しむかのように美味しそうに食べる姿はとても人間的です。

裏では仕掛人として人を殺めながら表では腕の良い鍼医者として患者を懸命に治療している矛盾を、人は悪い事をしながら一方ではいい事もする矛盾した存在だというのが一貫したテーマで梅安は血も涙もない冷酷な人間ではなく石川友五郎を助けようとしたりもします。

彦次郎が石川に吹き矢で加勢するシーンもリアルだったし、梅安と彦さんが剣を使わないので早乙女太一の殺気溢れる殺陣がよかったです。てか早乙女太一はたいてい色気を出してくるけど今回は封印して別人みたいでした。ちょっと石川と娘さんのエピソードがうまく絡んでない気もしたけど。

仕掛けを巡って明らかになっていく梅安の過去や複雑な人間関係が面白みです。

あと父親が死に母親に捨てられた梅安を引き取り教育してくれた小林薫さん演ずる鍼の師匠もいい人だったし、おせき役の高畑さんが達者で笑わしてくれたのですが、なんか豪華メンバーじゃないですかやだー

これは前後編になっていて次回後編は4月なのだ。気合い入ってるぜ。

まず原作が面白いのだ