akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「消えたママ友」野原広子 感想

仲良しのママ友の有紀ちゃんがある日突然いなくなってしまったのです。

子供を同じ保育園に通わせるママ友の4人。

春ちゃん、ヨリちゃん、友ちゃん、有紀ちゃんと呼び合う仲良しグループに思いもかけない事件が勃発。

失踪か?家出か?有紀ちゃんに何があったのか。

息子のツバサ君を残していったことから男と逃げたんじゃないか?

と悪い噂は保育園のママたちの間に瞬く間に広がります。

(野原広子「消えたママ友」)

「有紀ちゃんはそんな人じゃない!」と必死に味方するのは春ちゃんで常日頃元気のいい息子コー君の育児を奮闘中です。

元気が良すぎて謝ってばかりですが決してコー君は意地悪な子ではありません。

そう言ってかばってくれたのは有紀ちゃんだったのに。

春ちゃんはママ友の中では強く言えぬ性分です。

仕事から帰宅した夫に愚痴ると「そんな人じゃないと言うが保育園に入って知り合って1年ちょっとで何がわかるのだ。人の家庭のことには首を突っ込まない方がいい」などと正論を吐かれてしまいます。

ああ夫というのは正論を振りかざすだけで何の解決にもならないのが現場の常です。

でも確かにママ友なんて子供を通した付き合いですから「いったい彼女の何を知っているのだ?」と聞かれれば何も知らなかったことに気づきます。

しかしながら幼い子供を育てる孤独感を誰よりも共有してくれるのはママ友です。

決して夫ではなく実の母親でもなくやっぱママ友なのです。

同じ思いを持つ仲間だと春ちゃんが思い込んでるのもおセンチや洗脳されてるわけじゃないのです。

有紀ちゃんは美人で商社勤務でバリバリ仕事をしていたし優しい夫と義理母が家事と育児を手伝ってくれて、というどう見ても幸せな部類に属しうらやむほどでしたから理由がわかりません。

仲が良かったはずなのに何も知らないという事実に3人は茫然自失となってしまいます。

 

ママ友の飲みの席で有紀ちゃんが「死にたい」と言っていた。

ツバサ君が「パパがママをぶった」と言った。

有紀ちゃんの携帯をなんでかダンナが持っている。

など手掛かりになりそうなことが浮上しますが、まるで有紀ちゃんなどいなかったかのように振る舞い始めた有紀の義理母やヨリちゃんが目撃した有紀ちゃんと一緒にいた謎の男など、奇妙なことばかり。

独特の4コマと可愛い絵柄なのにサスペンスタッチでいやおうなしに引き込まれます。

なんか不穏なのです。

そのうえ1人が抜けたことによって残された3人の関係性も微妙に変化していくことになります。

それにしてもママ友のこの気を遣い合う関係の白々しさが説得力があります。

休日も公園に集合したり行動を共にしてる割には本音を言わない関係なんです。

楽しくお喋りしてるようで本当に言いたいことがあっても言い合いません。

互いにとても気を遣ってるんです。

春ちゃんと友ちゃんはヨリちゃんの娘のリオちゃんの意地悪に内心辟易してるのですが、親同士仲がいいとそれは言いずらい、ってか言えないよね。

ところが春ちゃんと友ちゃんは相手も同じ事を感じてるとわかってるのに口には出しません。

「叱ってしょんぼりする子なら可愛げがあるよね」程度の曖昧な言い方で妙に歯切れが悪い。

ママ友同士のトラブルを恐れるあまり当たり障りのない話しかしないんです。

またコー君が元気すぎることに悩む春ちゃんは「うちの子女の子でよかった」という友ちゃんの何気ない一言にいたく傷ついてしまいます。

もちろん友ちゃんに悪気はないのですが、子育てで落ち込んでいた春ちゃんはその一言に突き落とされてしまいます。

かわいそうにホントにお疲れなんですよ。

保育園で友ちゃんの娘のすうちゃんの靴が片方なくなる「お靴事件」があった時も、日頃の言動から犯人は絶対リオちゃん!とみんな思ってるのですが、それを言ったら関係が悪くなるから追及しない方がいいと考えるのです。

仲良くなれば相手の家庭環境やら収入もわかりますから格差を感じ嫉妬したり、年齢も考え方も様々ですから内心では結構ドロドロしてるんですよね。

なのに、いなきゃいないで寂しいのですから悩ましいですね。

こういった気の遣いすぎと遠慮する関係が結果的に「私たち知ってるようで何も知らなかった」という状況を作り出してしまったわけなんです。

有紀ちゃんが消えたことで残された3人のバランスは徐々に崩れついに抱えていた不満が表面化して仲良しだったママ友グループはバラバラになってしまうのです。

ほんの小さな事で壊れてしまうあっけない関係でした。

 

いや~ママ友って子育ての闇なのでしょうか。

幼い子を育てる母親の孤独や閉塞感は想像以上にしんどいと思いました。

もう暗くて心がザワザワする洞穴に入り込んだみたいな漫画で後味が悪いです。(誉めてる)

思うに彼女たちはとても子育てを頑張っているのに母親としての自信がないように見えるんですよね。

その最たるものが有紀ちゃんでして、母親としての自信の無さが顕著でそれは彼女を責められないし、家を出た理由もかわいそうにと泣けましたが、一番の被害者は子供だということを忘れてはならないと思います。

昔からおばあちゃん子は三文安いと言って祖父母に育てられると人間の値打ちが低いと言われるんですよ。

ツバサ君は値打ちが低いどころか、近い将来公園で小動物を殺してそうな重々しい空気に暗澹たる気持ちになりました。