薩摩のへんな風習が可笑しい(&下ネタがひどい)「だんドーン」なんですが、俺的にはコメディ路線が鼻につくんだよねー。
なんぞと思うていましたが、だんだん面白くなってきまして、心嬉しい限りですよ。
(前巻の感想はコチラ)
薩摩藩は幕末から明治維新まで常に中心にあって倒幕でも重要な役割を果たしましたが、なぜそんな存在に成り得たのか?なぜこんな特殊な藩なんだろう?などという疑問へ笑いの中で教えられる気がします。
あと薩摩藩と言えば西郷隆盛ですが、作中の西郷は実は単なるド天然で何も考えてないという設定でチョット影が薄いのです。
主人公である川路利良の謀りごとや小松帯刀の政治的工作によって西郷の器が大きく見えてるって描き方がされ、周囲の人達でドラマをでっち上げてるような感じもユニークな所です。
西郷の盟友・大久保利通の登場
さて、安政の大獄で追われる身となった京都清水寺の月照上人と西郷を、薩摩まで無事に逃がすための作戦を練る川路。
美形の月照は浮世比丘尼のコスで、有村長男か次男(区別つかない)がいつもの着流しで一緒に歩けば、どう見てもやべえ美人局にしか見えず怖いから誰も近寄って来ないというね。
浮世比丘尼とは尼僧のコスをした売春婦でしてね、禁欲的なものにエロスを感じる江戸の助平の為に編み出された職業ですねん。
ってか、奇策すぎる!高僧に何をさすん!?(´艸`*)
薩摩藩を頼った月照ですが、斉彬亡き後の薩摩藩は混乱をきたしてまして、斉彬の弟・久光は斉彬派の若い藩士たちからバチクソ嫌われてるから久光の長男・忠義が藩主になり久光は後見役になりました。
が、藩の実権を握るのは前々藩主でおじいちゃんの斉興です。なんかめんどくさい
斉興は保守的で幕府と事を構えてまで西郷を守るとは思えず、一計を案じた小松は西郷の助命嘆願に来た大久保一蔵(後の利通)を久光に引き合わせます。
西郷が死後も英雄扱いされたのと比して、その実績とは裏腹にすこぶる人気がない大久保ですが、作者によると鹿児島でも人気がないらしいのですが「故郷に墓がない」とか「実家は打ち壊された」とかいう男に魅かれるそうで、冷酷なイメージとは違った友情にアツイ大久保像になりそうです。
今薩摩の若い藩士の間では焼酎を口移しで飲むのが流行していると(え、なにそれ!?)久光と大久保に口移しで飲ませたい川路の奮闘に笑ふ。
久光に取り入ってオキニになったのは知ってるけど、これにはビックリしましたねえ(/ω\)イヤン
西郷と月照の心中事件
せっかく大久保が久光とお近づきになったのですが、藩では月照は日向送り(薩摩と日向の国境でKILLされる事)と決まり、月照の命を助けられない西郷は彼と心中するのですが、作中ではこの事件は西郷の命を助ける為に大久保が仕組んだ事になっています。
なぜ俺も死なせてくれなかったのかと言う西郷に、大久保は斉彬の夢を叶えられるのは西郷しかいないのだからその為なら自分はどんな事でもやると西郷を説得します。
「全てを叶えたその後は共に薩摩の土になろう」
今までにないアツイ場面なんですが、後ろで見ている川路や小松が「重い」「怖」「呪いをかけあってる」などと呟いてるのが可笑しいです。
共に錦江湾に身を投げた西郷と月照。
別にBLではないと思うんですが、月照は死亡し西郷だけが奇跡的に一命を取り留めたとか、なんか釈然としない事件なんですよね。
薩摩藩では月照と西郷は2人とも死んだと幕府に報告し、西郷は改名して奄美大島に潜居させることに決まりますが、2人が死んだなら遺体を検死させろと幕府の捕吏がやって来ます。
ところが、平然と上座につこうとする小松に対して、捕吏は下座につくのが常識だと揉めだしまして。
この場面も面白いよね。
もちろん薩摩藩側が下座につくのが常識ですが、薩摩兵児は敵にへりくだるという概念が存在しないそうで、捕吏の主張にはキョトン顔で戸惑っています。
そして常識知らずの田舎侍と馬鹿にされれば、喧嘩を売られたとすぐ買うわけです。
たとえ幕府の役人でも島津の城下に入れば敵だと、世間の常識とか全く通じない薩摩人から殺されそうになったうえに、口封じのため尻の割れ目に「チェスト」って刺青をされ(笑)帰されるってマジ不憫。
しかしもう薩摩の二才(にせ※青年の事)たちは暴発寸前でして。
水戸藩は安政の大獄と「戊午の密勅」返納問題で大揉めに揉め、政治的同志である薩摩藩が沈黙しているわけにはいかぬと脱藩して武力行使に出ようと盛り上がっています。
有馬新七も登場し役者は揃った
すったもんだの中で意外と好人物だったのがこの人ですね。
島津久光。
司馬遼太郎は、久光が兄の斉彬の真似をして身の程もわきまえず中央へ乗り出し大久保に利用された滑稽なピエロみたいな描き方だったからイメージ悪いんだよね。
久光を厳しく冷たい目で見てた気がしますが、こちらの久光像には作者の温かい目線を感じますね。
亡き兄の斉彬の事も好きだったし、藩士たちも大事だからどうか脱藩は思いとどまってほしいと頭を下げて頼むなんてチョ素敵すぎる~
更に、この激動の時代に13才で将軍になった徳川家茂も推しますわ。
20才で亡くなり短命でしたが、若くても良い将軍であろうと心がけ自分にできる事を懸命にやろうとした可憐な人だと思うのです。
これは家茂が習字の先生・戸川安清にいきなり水をかけたエピソード。
戸川は老人でこの時失禁してしまったのですが、家茂はわざと水をかけて隠し「明日も出仕するように」と言ってその場を出て行ったのですがな。ええ子や
時代の流れは桜田門外の変へ
安政の大獄で多くの仲間を失った憎しみはすべて井伊直弼に集中しました。
かくして歴史上有名な桜田門外の変が勃発するわけですが、犯人は水戸藩からの脱藩者17名に薩摩藩士1名が加わっていました。
それが有村三男。
この顛末は司馬遼太郎の「幕末」の中の一篇「桜田門外の変」を読むのをお勧めします。
「幕末」は幕末の暗殺事件を題材にした連作短編集でして、「桜田門外の変」は薩摩藩から唯一人加わった有村治左衛門が主人公です。