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劇光仮面 第5巻 山口貴由 感想(ネタバレ)人龍とは何だったのか?哀愁漂う怪人の物語

「 劇光仮面」5巻の感想です。

主人公・実相寺二矢(じっそうじおとや)が劇光する「空気軍神ミカドヴェヒター」ですが、4巻でフォームチェンジっぽいのが登場しましたねえ。
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ミカドヴェヒター「漆黒」

ミカドヴェヒターの夜間迷彩仕様。

日本兵がモチーフのミカドヴェヒターですが、黒になったらスタイリッシュでいいやん。ダースベイダーに近づいたかな。

俺はいわゆるガワの中の人の体形が気になる方なので、実相寺がガリガリ瘠せすぎなのは好み。

昔の円谷っぽい目次も良きかな。

ついでに過去記事も貼っておきますね。

 

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さて、これまでの話をざっとしますと、実相寺二矢は現在29才。アルバイトです。

大学時代「特美研(特撮美術研究会)」なるサークルに所属していたのですが、これが単なる特撮ファンの集まりではなく、こいつら特撮好きが高じて実用性が高い(つまり戦える仕様になってる)変身ヒーローのスーツを自作してたわけです。

それが劇光服なんですが、もちろん誰かと戦う目的じゃないんだけど、劇光服で町を巡回して軽犯罪を取り締まったりちょっとしたコスプレヒーロー自警団だったんですが。

ある夜、事件が発生しましてね、イジメ(って言うかほとんど傷害事件)にあってる少年を助けようとした実相寺がミカドヴェヒターの「軍刀抜刀装置」で主犯の少年の眼球をえぐり取ってしまったのですがな。

有罪判決を受けた実相寺(執行猶予がついたけど被害者に慰謝料二千万円を現在も分割払いしている)は「人斬り実相寺」などとマスコミでも騒がれ、特美研は解散とあいなったのです。

まあ不測の事故だったんですが、危ない危ない!ホントにおまえら、なんでこんな物騒なもの作ったのよ!?

それは彼らは遊びじゃないんですよ。

だから余計にヤバイんですが、中でも29才の今も特撮にかぶれる実相寺は静かな狂気を醸しててヤバイです。

彼の心にぽっかりあいた穴を埋めてくれるのは特撮しかなく、それ故に時に純粋に見えてしまうのも厄介な所です。

おまけにアータ!警察も世間も信じてくれないような怪異が現実に起こり始め、ついに怪人と戦う事になるというね。

もう何がなんだかわからんけど、面白過ぎて目が離せませぬ。

クリスマスイブに奥多摩の廃墟に現れた鹿角亜門ですが、実相寺がミカドヴェヒター漆黒に変身しますと、鹿角ったら人間の皮を脱いだわけですよ。

どこか不自然だったのはこれか。

鹿角は「人龍」つまり動く人雷。(機雷とか地雷の人間バージョンざんす)

どういう経緯なのかは謎ですが、鹿角によれば藍羽ユヒトは人雷化したようです。

無理!こんなのと戦うなんて無理!!f:id:akirainhope:20240518142322j:image

「肉に死して霊に生きよってどういう意味ですか?」

鹿角に捕まればボキボキと三つ折りにも四つ折りにもされてしまうから、なんかコミュニケーションで攻略の糸口を探る実相寺。

ミカドヴェヒターは背中のボンベから圧縮ガスを注入し軍刀(真剣)を超高速で居合抜きする「軍刀加速尾錠」と靴のかかとに内臓されたシリンダーをガスで打ち出して3メートルも飛び上がる「爆芯踵」が主なギミックです。

今般は跳躍した後にスチールプレートの入った両膝をお見舞いする「爆芯踵正座打ち」をお披露目。

ですが不死身の鹿角に面割れするほど痛めつけられた上に、伊栗鼠がトゲトゲ鉄球を鎖でブン回し攻撃して来たからさあ大変。

マスクの中の声が少女だしセーラー服だし、たまげる実相寺に自分は学徒兵だったと言うんだよね。

どうもこの2人は戦争経験者みたいな物言いで、だったら今頃は老人でなければ辻褄が合いませぬ。

そうこうしているうちに、廃墟にいる実相寺にのんきにケーキを差し入れに来た真理りま、成田いちる、芹沢ヨウの3名は怪しい空気を察知して操演の点検をしますが、背後からいきなり伊栗鼠に攻撃されて倒れる芹沢。

女子2人残される。

芹沢いいとこないのお。

怪人の脅威を同志たちに伝えられない瀕死の実相寺は、廃墟の壁に「肉に死して霊に生きよ」という空気軍神が最後の戦いの前に言った言葉を刻みました。(イヤン死ぬ覚悟!?)

実相寺はまったく勝てそうにない鹿角の攻略法を検討しながら、特撮の神様・一ノ谷萬二監督の事を思いました。

一ノ谷萬二は戦時中、日本軍に命じられて兵器の運用法の教材映画を撮っていた・・
(円谷英二が東宝に入社し「教材映画」や「戦意高揚映画」を制作したのは周知の事実です)

戦争末期に決行された特攻には、空の特攻の他にも怪人シャゴラスの元ネタになった人間機雷「伏龍」がありましたが。

万に一つしか必中しない特攻兵器の運用法を撮れと命じられた一ノ谷監督は、米軍が本物かと見紛うほどの特撮技術でもって、万に一つの必中を少年たちに「在る」と思わせたのです。

その功罪よりも、万に一つを「在る」と思わせる特撮の力に殉じようと考える実相寺でした。

結局のところ、最後は精神力ですねん。

特撮への執念と正義の味方への変身願望に囚われる実相寺の心は折れません。

彼だから生身の人間なのに怪人と戦えるんですよ。

実相寺は鹿角から奪った銃に残った一発で、圧縮空気ボンベを撃って爆発させ鹿角と心中する作戦です。

そんな万に一つあるかないかの作戦に命を懸けようとする実相寺に、おまえは「万に一つ」がどういう事なのかをわかってないと鹿角は言うのです。

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搭乗員は10死0生の特攻。

今では美化して語られる特攻隊ですが、特攻の成功率は万に一つ。

あんなものは戦地から遠い地下壕で上の人たちが願望を作戦にして万に一つを下の者に押し付けただけだと言う鹿角。

「万に一つを願う奴は9999を殺す奴だ!」

この言葉は作者は意図してないと思うんですが「肉に死して霊に生きよとはどういう意味か?」という実相寺の問いへのアンサーになってる気がしました。

「肉に死して霊に生きよ」なんてのはもうね、特攻隊員へ国家の為に死を惜しむなという詭弁ですよ。

ただまだ若い実相寺は、戦争経験者の鹿角の怒りにしばし茫然としてしまいます。

おまえ何才なんだよ?とか思ってるかも。

この後ボンベは爆発しなかったけど穴があいた事で跳ね回り鹿角の顔面に激突して倒れます。

いったい人龍とは何だったのでしょうか?

南方戦線の日本兵を苦しめた未知の疫病に罹患した兵を研究して作られた生物兵器が人雷で(藍羽ユヒトはこれに感染したものと思われます)この改造人間が人龍です。

人龍は不老で鹿角と伊栗鼠は既に90才を超えているのです。

戦争が終った日本で肩を寄せ合うように生きて来た2人は、不老である恩恵もあったかもしれませんが、ここへ来て認知症を発症した伊栗鼠が進駐軍狩りと称して殺人を行うようになってしまい、隠蔽する為に自分も人を殺してきた鹿角。

この作品は作者の昭和特撮への愛がテーマだと思われますから、戦争の傷跡はどうしても出てきますし、怪人の最後はどれも哀愁を帯びているのがお約束です。

ところで実相寺は辛勝しましたが、伊栗鼠に仮装ごっこだと笑われた真理りまの場合はどうでしょうか?

ヒーローになりたかったけどヒーローになれなかった人の悲哀も特撮物ではよく描かれる要素です。