akのもろもろの話

大人の漫画読み

映画「宝島」

(「宝島」大友啓史監督 2025/9/19 191分)

製作費25億だっけ?

かなり話題になってたから、「映画を観る前に原作を読んでおこう!」と思ったらこれがまた大作でしてね。

沖縄の方言に苦戦してなかなか進まなくて(つд⊂)エーン ・・・読み終わるまでに時間がかかっちまいましたよ。

原作は真藤順丈の2019年直木賞受賞作です。

けっこう前に一度だけ沖縄に行ったことがあるんですが、海で遊んだりうまい物を食ったり買い物したりなんとなく楽しく過ごしてしまった無知と思い至らなさを今は後悔しています。

戦後の沖縄の歴史は自分にはどこか他人事で真剣に考えたこともなかったし、知らないことばかりでしたね。

アメリカ統治下にあった沖縄では日本の法律とは違う独自の制度があり、通貨はドルで、車は右側通行、本土へ行くにはパスポートが必要でした。

アメリカ優位の法律がまかり通り、島民は基本的な自由も権利も制限され不自由な生活を強いられていたのです。

本土が高度経済成長期に沸いてた時代、沖縄はまだアメリカ統治下でした。

沖縄の言葉で米軍の物資をくすねる者を「戦果アギヤー」と呼ぶんですが、中でも有名人がオンちゃん(永山瑛太)でしてね、奪った物資を困窮する住民らに分け与える義賊っぽさとカッコよさで「コザの英雄」と称えられていたのです。

そんなカリスマリーダー・オンちゃんが率いる若者の窃盗グループの話が冒頭なんですが、ハチャメチャで熱量ばかり高く「本物の英雄になれるようなでっかい戦果をつかむぜい」と熱く夢を語るオンちゃんにグスク(妻夫木聡)もオンちゃんの弟レイ(窪田正孝)も憧れてたんですな。

ある日嘉手納基地に侵入して発砲する米兵に追い回され逃げ惑いまして、グスクは逃げ切れたのですが、レイは捕まり刑務所に収監されてしまいます。

そしてオンちゃんは行方がわからなくなってしまうのです。

3人の主要キャラ、グスクとレイとオンちゃんの恋人ヤマコ(広瀬すず)はオンちゃんを探しますが杳として消息は分からず、精神的支柱を失い喪失感を抱えながらそれぞれが大人になってゆく物語なんです。

更に、嘉手納襲撃で共闘した密貿易団「クブラ」のジャハナジョーが瀕死の床で漏らした、オンちゃんが基地から持ち出した「予定にない戦果」とは何の事なのか?

オンちゃんは生きて「予定にない戦果」を持って基地を出た事までは突き止めましたが、その後の足取りはパッタリ途絶えてしまったのです。

いったいオンちゃんはどこへ消えたのか?

ミステリーな展開にも引き込まれます。

しかし上映時間3時間の長尺とはいえ、あれだけの内容を映像化するには深堀りしてる余裕はないのです。

なんだか駆け足の印象なのは仕方ないですかね。

いきなりグスクは刑事になってるし、ヤマコは教師になってるし、レイはヤクザになってました。

原作では3人のそれぞれの道程があったんで、そこをちゃんと描いた方が厚みが出て良かったんじゃないかなと思いました。

んー、苦渋の策でどこかを削って・・・・

あと、これは映像化ではやむを得ないのですが、20年前に二十歳で消えた人が四十路の永山さんなのがどうも気になって。永山さんはカッコよいですが。

長身で手足が長くグラマラスなヤマコが広瀬すずって・・・???

いや失礼。皆さん熱演されてましたけどね。

グスクもレイもヤマコにホの字でしたが、教員になったヤマコと刑事になったグスクの間にはいい雰囲気が漂い始め、一緒に暮らさないかという話まで出ます。

暴力的な男に成長したレイはそれが悔しく(正業に就いてないんだから仕方ないと思うけど)嫉妬と自分をわかってもらえない怒りが衝動となりヤマコに襲い掛かるんです。「俺を愛してくれ!」とか叫びながら。(窪田正孝いいよ。いい味だしてるよ)

ところが抵抗していたヤマコが不意に「オンちゃんの匂いがする」と言い出し、レイにしがみつこうとするヤマコと戸惑ってヤマコを振り払うレイ。

この場面は原作にはなかったですが、原作ではただ暴力的に犯されてしまうだけですが、2人の深い悲しみと絶望が沁みてくる良い場面で、おっと涙が出そうでしたぜ。

時の流れと共にオンちゃん探しは薄れて行きますが、その一方で、沖縄ではアメリカ兵による犯罪や事件が後を絶ちません。

日米地位協定で犯人の身柄が引き渡されないのです。

レイプされても轢き殺されても琉球警察は捜査権を持たず、犯人は米軍法会議で無罪になったり帰国してそのままになってしまい泣き寝入りしかありません。

グスクの「お小遣いもらってたら何されても我慢しなきゃいけないの?」という問いかけに答えられる人はいないでしょう。

それと驚愕したのは「トロフィースカル」と言って沖縄戦の死者の遺骨がまだ残っている洞窟から頭蓋骨を持ち出す米兵の話でした。

帰国土産にして自慢するってんだから血圧が急上昇しそうでした。

ヤマコの小学校には米軍機が突っ込み多くの子どもたちが死にます。

基地で毒ガス兵器が貯蔵されていたのが発覚し大騒ぎになります。

かくして不満が溜まり続けた沖縄の人たちの怒りが噴出した「コザ暴動」が勃発する頃には、あたしゃもう胸が一杯でしたよ。

多くの人たちは本土復帰によって米軍基地がなくなり以前の平和な島に戻ることを願っていたのに。

多くの米軍基地は残されたままでした。

観終わった後に「今でも沖縄県に全国の米軍施設の70%が集中しているのはなぜなんだろう」とか考えました。

フィクションの戦果アギヤーの英雄の物語に沖縄戦後史が学べて3時間はあっという間でしたが、酷評する意見もあるんですよね。

ネタばれになるので書きませんが、原作でもラストは「なんかよくわかんなかったな」で終わってましたけど。