
呉勝浩/さの隆
講談社ヤンマガKC
発売日:2025/10/20
呉勝浩のベストセラー小説「爆弾」が映画化されまして、そのタイミングでコミカライズ化。
爆弾魔と警察の攻防を描いたミステリーなんですが、取調室で繰り広げられる心理戦がドキドキハラハラです。
ってなわけで、あらすじ。
ある中年男が些細な傷害事件で連行されます。
酔っ払って酒屋の自販機を蹴りつけて止めにきた店員を殴ったという容疑です。
その男は「スズキタゴサク・49歳」とふざけた名を名乗り、野方警察署刑事・等々力と伊勢をげんなりさせます。
曰く、自分はドラゴンズの大ファンなのに巨人に大負けしてムシャクシャしちゃってコンビニの缶チューハイじゃ気が済まないので酒屋に行ったら金をもっていないことに気づき自販機に当たり散らしてしまって・・・・ま、そういうことって誰でもあるんじゃないですかねエヘヘ・・・と警察相手に委縮もせず、むしろリラックスした様子で一方的にペラペラペラペラよく喋ります。
まともに相手にする気になれず「先方は自販機のへこみの修理と治療費さえ払ってくれればいいと言ってる」と丸く収めようとすると「金はないから貸してください」などと厚かましく言うわけです。
なんじゃこいつ!
と呆れる刑事に先様は、自分は霊感があるから事件を予知して刑事さんの役に立つから勘弁してくれとか言うんですわ。
「10時ぴったりに秋葉原で何かありますよ」
てめえいい加減にしろよと相手にしてなかったら、ふんとに秋葉原で爆発が起こったのです。
更に「わたしの霊感じゃこれから3回、次は1時間後に爆発しやす」
なんやてー
その予言通り1時間後に東京ドーム付近で爆発が起こります。
今度は重傷者も出てしまい署内は大混乱、スズキから何も聞き出せなかった等々力刑事は早々にお役御免。
続いて選手交代したのは警視庁捜査一課から颯爽と乗り込んできた清宮と類家であります。
エリート刑事のご登場に、「スズキは自分以外とは話したくないと言ってた」と頑張ってみるが「あとは我々に任せて君は周辺捜査に当たってくれ」と言われてしまう等々力。しょぼん
一方、等々力が退場させられた取調室でスズキを見張る書記の伊勢はイライラしてました。
スズキの見た目がキモイ!たるんだ頬や腹、卑屈な愛想笑い、どう見ても社会不適合者じゃねーか。
こんなクズは殴ってムリヤリ吐かせりゃいいんじゃ!と一見クールな伊勢は心の中で毒づいていたのです。
スズキは伊勢に中学時代の思い出話をし始めました。
雪の日にミノリちゃんという可愛い同級生を尾けてたら彼女が学校の先生に凌辱され殺されてしまったこと。
ストーカーしてたのを見られていて自分が犯人だと疑われてしまった。
こんなことならいっそ自分がやっておけばよかった。
いやいやいやいや、めちゃめちゃ薄気味悪いやっちゃ。
なんておぞましい奴だと伊勢はドン引きしますが「刑事さんだけに告白した」と言われると、自分だけが知り得た情報として調書には記さず秘密にしてしまうのです。
そんなの嘘かもしれないのにスズキを侮る伊勢には見抜けなかったのです。
さて、清宮の取調べが始まりました。
ベテラン捜査員の清宮は自信家で、若手の類家はちょっと変人っぽい奴。
どう見てもわざと捕まったとしか思えないスズキ。
爆弾を使って無差別に人を殺傷するだけが目的ではなく、「俺たち警察とのゲームを望んでいる」と清宮は見ます。
するとスズキは「九つの尻尾」というゲームをしようと言い出します。
「今から質問を九つします。刑事さんはそれに答えてください」
「そしたらわたしが刑事さんの心の形を当ててみせます」とか言うんである。
心の形って何ぞ?
スズキが提案する問答ゲームをしながら、会話の中に隠された爆弾のヒントを探る清宮&類家。
次の爆弾はどこにあるのか?
スズキの目的はなんなのか?
百戦錬磨の捜査官清宮はスズキに勝てるのか?
1巻は清宮VSスズキの心理戦の序盤ですが、伊勢もそうですが第一印象で相手を軽んじた時点で既にスズキの術中にはまっていると言えますな。
自分の方が上だと思ってると、スズキの緻密で人を食った話術でいつの間にか手玉に取られてしまうのよ。
イライラしたら清宮は危うい。
愚鈍を装い下手に出ながら相手を見透かし言葉を操るスズキの不気味さ、そして頭の良さに感心するよりも不快な気分になってきます。
それはスズキが語る人の邪悪さや暗部が誰にでも覚えがあることだからです。
誰だって口や行動に出さないだけで心の中では不道徳な悪い事を考えていたりしますでしょ。
でも何かのはずみでそれが表沙汰になってしまったとしたら困ることしきりです。
しかしそれもまた人間ぽいと言えば人間ぽいじゃないですか。
作中に登場するハセベユウコウという野方署の名刑事がしでかした恥ずかしい不祥事(くわしくは書きませんが)なんて、単純にいいか悪いかで言えば悪いのかもしれませんけど、自殺や家族崩壊にまで追い込むほどのことなのだろか。
これで思い出したのが昨今の某市長のラブホ事件や某市長の学歴詐称事件ですが、擁護ではないんですけど自分は仕事さえちゃんとしてくれればいいじゃン別にとか思っちゃうんですが、道義的責任を糾弾する人の執拗さがなんかコワイ気がするんですよね。
嫌な世の中になったと思います。
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