akのもろもろの話

大人の漫画読み

木枯し紋次郎(六) 上州新田郡三日月村 笹沢左保

木枯し紋次郎(六)上州新田郡三日月村
著者:笹沢左保

江戸時代の戸籍である「人別帳」から除外されると「無宿」になりました。

罪を犯したり、親に勘当されたり、「オラこんな村いやだ」と故郷を飛び出したりと様々ですが、無宿人となった者は定住が許されず流れ歩くしかありませぬ。

「渡世人」はフツーの正業に就かず博打で生活する博徒、いわゆるヤクザ者です。

江戸時代後期、上州(今の群馬県)ではサイドビジネスの養蚕が盛んになり、米と違い現金収入を得られた為に博打が流行しました。

また上州は天領・大名領・旗本領が入り組んだ土地で警察権が弱かったのでやり放題だったんだな。

おまけに中山道が通る交通の要所で栄える宿場も多かったから、田畑を捨て無宿人になり博徒になった者は少なくなかったのです。

「無宿渡世人」を主人公にした「木枯し紋次郎」は上州新田郡(にったごおり)三日月村の貧しい農家に生まれ、10歳で故郷を捨て「無宿渡世人」としてあてのない旅を続ける物語です。

渡世人は武士じゃないんで刀は長い脇差一本でして、これを「長脇差(ながどす)」言いますねん。

水呑みの6男に生まれた紋次郎を親は間引くつもりでしたが、12歳上の姉のみつの機転で間引きから免れました。

そのことが紋次郎の人生に暗い影を落としています。

行く先々の土地の親分へ草鞋を脱いで宿と飯にあずかる渡世人のスタイルを紋次郎は拒否して、ほぼ野宿で旅を続けているのです。

他人を信じず、人との関わり合いを避け、自分の力だけで生きようとする一匹狼のアウトローです。

ところで、笹沢左保が紋次郎の設定を群馬県出身としたのには他にもある気がします。

「木枯し」の由来は、紋次郎が口にくわえた楊枝が息を吐くと震え(鳴らすのにはコツがある)冬の午後に吹く木枯しのような寂しい音がする、というものです。

群馬の冬は風が強い。

めっちゃ風が強い。

駅前のマックの前に止められた自転車の列はドミノ倒しのように一斉に倒れてますし、スーパーの駐車場では放置カートが強風で爆走して駐車中の車に激突したり、時間をかけてセットした髪も玄関を一歩出た途端にボンバーヘアーと化し、向かい風で自転車が前へ進まないというのも決して誇張ではないのであります。

この「からっ風」と申す、乾いた強い風の中で、道中合羽をハタハタと靡かせながら紋次郎が立つ姿はなんと絵になる事でしょう。

と考えたのに違いありません。考えてないかもしれないけど。

ってなわけで、最近あたくしは笹沢左保の「木枯し紋次郎」にハマってるんですが、結構長くて15巻までありまして、さらに「帰ってきた木枯し紋次郎」シリーズも6巻くらいあるらしいので読破できるかしらん。

笹沢先生って多作ですごいですなあ。

表題の「上州新田郡三日月村」は6巻の第3話でして、生まれ故郷の三日月村の近辺をたまたま通りかかった紋次郎さんが雷に打たれ気絶してしまいまして。

それを助けて家に連れて来たのが孫娘のお市と石工のおじい与作です。

家っつーか貧しい掘っ立て小屋なんですが、ここで「骨董粥」なるものを振る舞われるのです。

骨董粥は伊勢の津、三十二万石の藤堂藩の草奉行平松楽斎が考案したものとして知られていた。与作も伊勢の生まれだというし、何となく話に聞いてこの骨董粥の作り方を知っていたのだろう。

米と麦に荒布(あらめ)、野草、木芽を加えて、塩と味噌で味をつけ、じっくりと煮込んだ粥である。平松楽斎は天保の飢饉に際してこれを救荒粥として作り、何千人もの人々に食べさせたのであった。米一升と麦五合に荒布、野草、木芽を加えたもので、二百人以上の量が得られたという。

荒布は海藻らしいですが、すっごい水増し。

何杯食べても腹が一杯になりそうにない粥を、紋次郎さんは箸代わりの小枝で礼儀正しく2杯だけいただきます。

与作も無宿ですし、無宿の渡世人に故郷なんてものがあるのかと三日月村に寄りたがらない紋次郎さんの複雑な心境を理解してくれます。(しみじみ)

どこの土地にも定着することを許さず、流れ歩くしかない無宿人生活を長く続けて来た紋次郎さんにとっては、場所などはもうどこにいても変わりないのです。

毎日ただひたすら歩くだけ。

目的地はなく、どこへ通じていようと、その先に何があろうと、ただ道があるから機械的に歩くだけ。

そんな虚無的な生き方をしてるのに、今更故郷を懐かしがって何になるのか。

なのになのに「泥亀の喜三郎って盗賊が村を襲ってくるから助けてくれ」と三日月村の連中が押し掛けてきましてね。

嫌がる紋次郎さんを大勢で無理やり囲んで先へ行かせまいとするのです。

そこへもう上州名物「からっ風」が次から次へヒューヒューゴーゴー吹き付けて来てその激しさと言ったら風に砂が混じり「冷たい」より「痛い」という惨事です。

何を言ってるのかも聞こえないから会話も怒鳴りあい。

足を踏ん張ってないと飛ばされてしまいそう。

このドイヒーな風の情景がリアルで本当によく書けてまして、群馬出身のあたくしは思わず吹いてしまいました。

この後、恒例の「関わりたくない」という紋次郎さんと「恩知らず」とかなんとか暴言吐き放題の百姓衆とのすったもんだがあり、結局盗賊と戦う羽目になっていつものケンカ殺法がさく裂し、紋次郎さんの後ろ姿は黙って夕闇の中へ消えていくのでした。

 

虚無!!

そしてなんてカッコいいんだろう。(つд⊂)エーン