akのもろもろの話

漫画とかの覚え書き

ミステリと言う勿れ 田村由美 ちょっと変な主人公がひたすらに語るのが妙味です

冬のあるカレー日和。

大学生・整(ととのう)が玉ねぎをざく切りしてると、警察官が「近隣で殺人があった」と訪ねてきます。

そのまま警察に連れていかれた整に、次々と容疑を裏付ける証拠が突き付けられ彼はこのまま犯人にされてしまうのでしょうか?

 

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(「ミステリと言う勿れ」田村由美 全4巻) 

 

 

冤罪とはやってもいないのに犯人にされてしまう事です。

自分は犯人じゃないと言っても警察がその事件について調べ、合理的判断でお前が犯人だろうと決めつけられてしまう。

時代劇なんか見てると犯行現場に大工の音吉の手拭いが落ちてたというだけで音吉はもう下手人にされちゃったりします。

昔はいい加減なお調べでさぞや冤罪が多かったでしょうね。

間違いでは済まされないけど、人のやる事だから間違いはなくならないんですよね。

でも間違った冤罪よりももっと怖いのが「意図的に作られた冤罪」です。

 

 

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田村由美「ミステリと言う勿れ」より)

 

 

警察に連れていかれた大学生・久能整(くのうととのう)は、殺人事件の被害者が自分の同級生だった事を知ります。

そして犯行時刻頃、遺体の見つかった公園で彼が被害者と言い争っているのを見たという目撃者まで現れるのです。

けれど彼は驚きもせず、刑事に「皆さんはその目撃者の人をよく知ってるんですか?」と聞きます。

「善意の第三者だ」と聞くと「じゃあ僕と立場は同じですよね。皆さんがよく知らない人物。それなのにどうして、その人が本当の事を言っていて僕の方が嘘をついてるって思えるんですか?」とか言うわけです。

取調室を覗いてた若手の刑事は「うわあ、なんか語るヤツだ。めんどくせえぞ」と思わず叫んだりして(笑)

 

変わり者の主人公は名前からして変です 

主人公・久能整ですが名前からして変ですよね。

なんか韻を踏んでるし。

特徴的なのは髪型でものすごい天然パーマでぼわぼわしてます。

一人暮らしで友達も彼女もいないけど本人は別に気にしてませんし、なんか世俗を超越してる感じなんです。

まあ、ある種の変わり者なわけです。

どんな家族関係や過去があるのか気になる所ですがそれはまだ明らかになっていません。

この主人公の魅力はとにかく語るんです。

整は人並外れた洞察力と知識の持主で、独自の見解と思考をただただ語りまくります。

飄々としてるんだけどその鋭い意見に百戦錬磨の刑事が言い返せなくなったりするほどです。

でも決して相手をやり込めたり断罪するわけじゃなく、あくまで冷静に客観的に物事の核心を言い当てるんです。

 

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田村由美「ミステリと言う勿れ」より) 

 

 

刑事さんも人間だからそれぞれ鬱屈があるんです。

それは小さなものから大きなものまで色々あるわけです。

鬱屈をストレスとか欲求不満と言う言葉に変えてもいいんですけど。

まあ色々あるわけで、でも人には話せない事って大人になるとたくさんありますから自分で抱え込んでるんですよね。

整の言葉には、誰も言ってくれなかったけど本当は言って欲しかった言葉や、自分が知らず知らず人を傷つけていた事に気付かされたりして、それは人の心の核心を突いて静かに相手に沁みていくんです。

それで、若手の刑事たちの中ではこいつただ者じゃねえ、みたいな空気になって整の話をやたらと聞きたがる人まで出てくるんです。

別に整は警察の人を手懐けようとしてるわけじゃないですから、黙っていると「何か言わないの?」って期待されちゃう(笑)

リベートの達人だとか話が超絶にうまいんじゃないですよ。

でもそんなに上手な話し方ではなくてたどたどしかったりしても、その人の人柄が伝わって来て人を感動させたりするものですよ。

整が語る言葉は相手の琴線に触れたり癒しになったりするんですよね。

本人は飄々としてますけど。

いやー、自分は容疑者として警察にいるんですよ。

普通なら容疑を晴らさなくちゃって事で頭が一杯だと思うんですけどね。

そういう冷静沈着で物事を客観的に見れるのも整のすごい所です。

 

 

さて、冤罪の話ですがベテラン刑事の一人が「どれだけ虚言を尽くしても真実は一つだ」って整に言うんですね。

すると整は、「ええ?そんなドラマみたいなセリフを言う人がほんとにいるなんて」って驚いたような顔をします。

 

じゃあ、たとえばAとBがいて階段でぶつかってBが落ちて怪我をしたとします。

Bは日頃からAにいじめを受けていたので今回もわざと落とされたと主張します。

ところがAはBをいじめいていた認識など持ってなくてただぶつかっただけだと思っています。

どちらも嘘はついていないし、この場合の真実とは何ですか?って整は聞くんです。

人は主観でしか物事を見られません。

AにはAの真実があり、BにはBの真実がある。

 

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田村由美「ミステリと言う勿れ」より) 

 

なんかの決め台詞みたいです。

 

でも事実は一つです。

この場合は、AとBがぶつかって怪我をしたというのが事実です。

警察が調べるのはそこで、人の真実なんかじゃない。

真実とかいうあやふやな物にとらわれるから冤罪事件とか起こすのでは・・・ 

 

 

整が絶好調でしゃべります

 刑事のおじさんたちも「あいつの煙に巻かれるな、あいつ一体何なんだ!」って 焦りだしたり、怒りだしたり。

なんか自分のアイデンティティーの危機を感じるみたい。

恐るべし、久能整。

整を陥れようとする悪意の正体は何なのでしょうか?

そしてどうやって無実を証明するのか?

 



舌鋒鋭く相手を言い負かすとかじゃなく、整はいつも自然体で純な子供のような澄んだ瞳をしています。

 

この作品を読むと誰でも何かしら心に響くものがあるんじゃないでしょうか?

 

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田村由美「ミステリと言う勿れ」より)

シュマリ 手塚治虫 これは男のロマンと言えばいいのかな

 

時代は1869年の夏、戊辰戦争の最後の戦い函館戦争が終結した年の事です。

蝦夷が北海道と改められた事も知らぬ男シュマリは、北海道の原野を一人彷徨っております。

シュマリとはアイヌがつけてくれた名で彼は元は德川の旗本だったのです。

しかし今ではおたずね者の殺人犯である彼に本名は必要ないのでしょう。

シュマリはその右腕を包帯で縛り吊っておりまして、別に怪我してるわけじゃなく人を殺めないように戒めとして右腕を使わないようにしてるのです。

片腕でも十分強いし度胸もあって頼りになる男シュマリなのですが、実は彼はとんだ寝取られ夫で逃げられた元女房のお妙とその男を追ってるわけです。

 

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手塚治虫 シュマリ全3巻)  

 

いや~、カッコイイかと 思えば逃げた女房を追いかけてるとかダサイわ(笑)

 お妙を探し出したものの彼女に拒否られたシュマリ。

今度は自暴自棄になって囚われの身となり、土地やアイヌに詳しい事を買われて榎本武揚が隠匿したと言う莫大な軍資金の探索をする事になります。

 

その一方でエゾ共和国建設を夢見る太財一族の末の娘お峯というのが登場するんだけど、この娘がお妙にそっくりなのね。

太財一族というのは、もともと会津藩士だったのが北海道の石炭に目をつけて炭鉱事業で北海道全土を制覇しようと目論んでるんです。

その事業資金にシュマリから埋蔵金のありかを聞き出そうとお峯を送り込んできたんです。

 シュマリが住みついた家にはポン・ションという名のアイヌの孤児も居ついちゃってるんで、お峯はその面倒も見たりまあ厳しい世界なんですよ。

冬の寒さ、洪水、はやり病、飢え、狼、蚊やブヨ・・・

 

 北海道の原野は広大でたいそう美しいけど人間を寄せ付けない厳しい物です

 まともな人間ならば暮らそうなんて思わない過酷な土地ですが、アイヌ民族は代々この地に住んで来たんですよね。

シュマリは一貫して北海道はアイヌの土地なんだって言い続けましたから、土地から何かを持ち出す事はしたくないと馬を飼って牧場を作ろうとしたんです。

しかし冬の寒さで馬が凍死してしまったり、一晩ですごい雪が降り積もるので雪の重みで家がつぶれたりと次から次へと大変なんです。

そんな厳しい環境で三人で生活するうちにお峯はシュマリに魅かれてしまうわけです。

 

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(引用元 手塚治虫「シュマリ」より) 

  

さてこれだけならいい話なんですけど、お峯は偶然にも自分がお妙にそっくりな事を知りお妙の代用品に過ぎなかったんだと思い込んでしまいます。

可愛さ余って憎さ百倍で、お峯の密告によりシュマリは札幌集治監へさらには外道と悪名高い太財炭鉱へと送られてしまうのです。

 

しかしまあお察しの通り、シュマリという男はどこへ行っても強者です。

どんな目に遭ったって全然へこたれないし、逆境に会えば会うほど強くなっちゃう。

お金に執着してるわけじゃないから埋蔵金も結局は太財一族の次男の弥七にあげちゃうしね。

 

どうやら男が惚れちゃう男なんだね

 最初は敵役みたいな太財弥七も何かとシュマリを助けるし、炭鉱で出会った人斬り十兵衛もシュマリを気に入って相棒みたいになっちゃうし。

十兵衛は実は土方歳三という設定なので、過去は捨てたと言いながらシュマリに何かを見たんでしょうね。

新選組の鬼の副長も惚れるシュマリ。

鉱山が大落盤して自由の身になり、ようやくお峯とポン・ションの待つ牧場へ帰ったと思ったらアイヌの財宝を狙う野党団との戦い。

死闘の末に十兵衛は死にシュマリは山にこもってしまうのです。

だけど男から見ると魅力的かも知れないけど、絵に描いたような男尊女卑で、女を独立した人格と認めてないし自分の所有物かなんかと思ってるんですよね。

 

総じてこの作品では本当に女の扱いが酷い

 力で劣る女は一方的に犯され気に染まぬ事をすれば殴られ「ここは俺の家だ。決めるのは俺だ」と怒鳴られる。

女へのレイプや暴力を手塚治虫は大袈裟でもなんでもなく、ごくフツーの当たり前の事のように描いちゃってるんです。

それがいいとか悪いじゃなくて、この時代はこんなもんだってなんかストレートに描いちゃってる。

シュマリもお峯もとても魅力的なキャラクターだけど、二人の関係性が古い時代の男と女なのでちょっとこれは共感出来ません。

 

けれど二人とも愛なんて臆面もなく口にはしないけど、その愛は憎しみをも包括してしまうんですよね。

お峯はシュマリのいなくなった牧場をポン・ションと守ろうとしたし、シュマリの子を一人で産み育てる女傑ですよ。気っ風が良くて素敵なの。

ところがシュマリはね、山を降りて来たと思ったら50代になってもお妙への思いを断ち切る事が出来ないんですよね。

お妙はもう再婚して男爵夫人に収まってるというのに。

お妙もお妙で、従順そうな顔をして男から愛され慣れた女の甘えがチラつくんですよね。

もういいじゃん、いつまでも未練がましいよ。お峯の方がいいよって思います。

だから大人になったポン・ションも「てめえの目はふし穴か!」ってシュマリに怒ったりね。

このポン・ションは幼い時はお乳の代わりにどぶろくを飲んでたから、ちゃんとした大人になれるのかなって思ったけど、とてもいい子になったのね。

お峯の養育も良かったし、シュマリが学校へ行って勉強しろと言ったから札幌の農学校へ進んだんです。

子供は手をかければいいってわけじゃないんですよね。

  

シュマリの生き方は男のロマンてやつなのかもしれませんね

 シュマリみたいな男は北海道のような雄大な土地でこそ生きられ、次々降りかかって来る戦いに挑む事が生きがいなんでしょう。

でも何がしたいのかよくわからなかった。

どう見ても家族を大切にしているようには見えないものね。

 どこへ行っちゃうかわからないし。

 

だけど時代は変わって行くのね。

北海道も変わりアイヌは住みかを追われるし、侍は屯田兵となり肥沃な土地は金持ちに買い取られ、シュマリは自分はもう時代遅れの遺物なんだと思うんです。

お妙の夫である華本男爵をつぶそうとする薩摩閥の陰謀で弥七は倒れ、太財鉱山でまたもや死闘を演じたシュマリは行方不明になってしまいます。

 

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(引用元 手塚治虫「シュマリ」より)

 

 シュマリが消えていくラストは夢のようでドラマみたいです。

 

アイヌなのに和人の戦争に取られたポン・ションが戦地でシュマリと邂逅し、ついて行きたがるポン・ションにおまえは北海道で生きろと言い聞かすのです。

 

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 (引用元 手塚治虫「シュマリ」より)

 

シュマリはどこへ行ってしまったんだろう?  

野性的なシュマリの生き様はともかくとして、私はこの作品はとても説得力のある愛の賛歌のように思いました。

 

 

 

 

アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 中川裕

 

本書は、野田サトルの漫画「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修者にしてアイヌ文化研究の第一人者である著者が、漫画の名場面を引用しながら解説を行った唯一の公式解説本にしてアイヌ文化への入り口となる入門的新書です。

 

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ゴールデンカムイ」ほどアイヌ民族を生き生きと描いた漫画はこれまでなかったんでしょうね。

あっても現実から遠く離れたファンタジーのような存在だったり、あるいは歴史の中で虐げられ滅びかかった弱き存在としてでした。

ところが「ゴールデンカムイ」に登場するのは、明治末期のアイヌ社会を力強く生き抜く優れた知恵と能力を持った魅力的なキャラクターです。

連載開始時から監修を務める著者は、「これはいける!」と直感的に思ったそうです。

野田氏の描くアイヌには今までにない説得力を感じたんでしょうね。

 

アイヌとはいかなる人なのか?

アイヌは元々は物々交換による交易を行う狩猟採集民族です。

江戸時代に入るまでは、北海道のアイヌと和人は交易相手としてほぼ対等な存在だったようです。

それが変わって来たのは松前藩が正式に確立してからで、それまでのような自由貿易ができなくなり松前藩士の言い値で取引しなければならなくなってしまったのです。

和人への不満が募る中で有名なシャクシャイン戦争が起こり、アイヌ側が敗北した事で松前藩は政治的、経済的支配を強めました。

それでも「蝦夷の沙汰は蝦夷次第(アイヌ内部の事はアイヌに任せる)」という方針により、伝統的な生活や文化は保たれていたのです。

ところが明治維新以降、北海道は先住民であるアイヌの土地だという意識をまったく持たない政府は、あたかも無人の地を「開拓」するような政策を推し進めました。

狩猟民族なのに土地を取りあげられシカやサケが禁漁とされ、生活の基盤を根こそぎ奪われてしまったのです。

1899年に制定された「北海道旧土人保護法」は困窮するアイヌを救済する目的としながら、実は農耕民化する為のものでありアイヌの和人社会への同化が積極的に進められました。

アイヌの女性の口のまわりにする入れ墨は、作中でフチがアシㇼパは入れ墨する年になったのに嫌がっていると嘆く場面がありますが、そもそも既に法律で禁止されていたそうです。

キロランケがつけている大きな輪っかのピアス等も同様に禁止されました。

その理由は「野蛮な風習だから」という事でした。

土人と呼ばれ、アイヌ語を使っていたのでは生活ができない状況に追い込まれ伝統文化は衰退していったのです。

 

名前が持つ特別な力

アシㇼパの父親のウイルクは、アムール先住民の権利の為にロシア政府と戦っていた人です。

その父がつけたアシㇼパという名は「未来」という意味に解釈できると作中で言ってるように希望を託した素敵な名なんですが、子供の頃はエカシオトンプイ「祖父の尻の穴」と呼ばれていました。

カムイは汚いものが大嫌いなので、子供たちがカムイに気に入られて魂を取られないようにわざと汚い名で呼ぶのです。

ただし作中に登場するオソマ「うんこ」と言う女の子の名は実際の習慣に即して言えば、あれは正式な名前らしいです。

オソマちゃん可愛いです。

小さい時に体が弱かったり、兄弟が幼くして亡くなったような家では正式な名前に汚い名前をつけたりもするらしい。

実際にあった名前として、イポカシ「醜い」と言う男性の名を挙げ、きっとその人物は絶世の美少年だったのではないかと書かれています。

その美貌のせいでカムイに魂を取られてしまう事を恐れた親が、わざと「醜い」などと言う名前をつけたのではないかとの事。なるほど面白い。

アイヌの人々は文字を持ちませんから、言葉という物を大変重要視したんですよね。

日本語にも様々な方言があるようにアイヌ語も地方によって色々な言葉の違いがあるそうです。

アシㇼパ達が樺戸へやって来た場面では石狩方言にすべき所を小樽方言の言い方にしてしまい、雑誌原稿はそのままで後日コミックスで直したそうです。

アイヌ語のセリフは私たちはなんだかわかりませんがそんなご苦労もあったのね。

そんな風にアイヌの登場人物のアイヌ語のセリフはこの方が作文してたんです。

ただアイヌ語母語話者は現在ではもうほとんどいないそうです。

 

ゴールデンカムイを足掛かりにしたアイヌ文化の入門書

アイヌ民族は現在のマジョリティを占める人々の先祖が居住する以前から、北海道等に住み歴史や文化を担って来ました。

著者はアイヌ語アイヌ文学を専門とする言語学者であり、首都圏に暮らすアイヌ民族の人々とアイヌ語を学びあうという活動を続けています。

ゴールデンカムイ」はアイヌ文化を紹介する漫画ではありません。

アイヌを一つの素材として物語に上手く組み込んだ作品です。

その一方でこの作品がアイヌ文化への窓口としての大きな役割を果たしている事は間違いなく、またそういう期待をしている人もいるんですよね。

私は著者のアイヌへの愛を感じました。

過去の歴史を研究するだけでなく、アイヌ語アイヌ文化を再び取り戻し未来へ繋げようとしているからです。

ゴールデンカムイ」の漫画の場面を取り上げながら解説されてるのでとても楽しい一冊です。

この場面は実はこうなんだと裏話も興味深く、漫画を読んだ人はいっそう理解が深まりますし、読んでない人も十分楽しめると思います。

 

 

 

銀の匙silver spoon 農業高校って大変だけど素晴らしいですね

 

これは、果てしなく広がる大自然に囲まれて汗と涙と土にまみれた農業高校生たちの異色の青春物語です。

青春なんてないやろ~、動物のウンコしかないやろ~とか思ってたら大間違いでした。

 

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(既刊14巻)

 

 

この作品の舞台は北海道帯広市にある大蝦夷農業高校(略してエゾノー)です。

この学校は農業科学科、酪農科学科、食品科学科、農業土木工学科、森林科学科がありまして、一口に農業高校と言っても色んな学科があるんですね。

私には全く未知の世界なんですが、全員が寮生活をしながら勉強し農場実習をする事になるのです。

その中でも特に実習が多いのが酪農科学科です。

農場では様々な家畜を扱っていて、生徒はローテーションで朝晩家畜の世話をしなければなりません。

生き物ですから基本農場は休みになる事はありません。

 

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(引用元 荒川弘銀の匙」より)

 

 

そんなエゾノーの酪農科学科に入学した八軒勇吾は札幌の進学校から一般受験でやって来ました。

その志望動機は、寮があるから・・・

まあ、家が嫌なんだろうね。

お年頃だもの、そういう事だってあるよね。

親父との葛藤とか、進学校での競争に疲れたとか、まだ子供なのにいっぱいいっぱいになって、現実から逃げるようにしてエゾノーにやって来てしまった八軒。

別に農業に興味があったわけではないんです。

 

農業高校に入学して来る子たちはちゃんと目標を持っていた 

寮の相部屋で一緒になったのは、オタクの西川と食べる事が大好きな別府。

クラスメイトは、野球部で甲子園を目指す駒場、勉強がまるでできない常盤、血が苦手なのに獣医を目指してる相川、シビアでしっかり者のタマコ、等々個性的な面々が揃っており、馬が好きな御影アキの可愛さに思わず一目ぼれしてしまいます。

成績優秀な八軒は勉強でトップになってやろうと躍起になりますが、英語や数学の教科書の薄さに楽勝だとほくそ笑むものの専門教科(畜産とか)の教科書の極太さこそ真の敵だと知ります。

しかもその教科書さえも実際とは当てにならないから使わないと先生に言われ、春休みを利用して読み込んでいた八軒はがっかりしてしまいます。

そのうえ自分よりレベルが低そうだと思ったクラスメイトたちは、それぞれ家業の農業を継ぎたいとか、将来のビジョンや夢をきちんと持っていたので、家にいたくないとエゾノーにやって来てしまった八軒は内心引け目を感じてしまうのです。

 

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(引用元 荒川弘銀の匙」より)

 

 

命と触れ合う授業

しかしあれこれ悩む暇もないほど、授業は体力勝負の実習が多く、寮生活は朝の5時起床で牛や鶏の家畜舎での世話があったり入浴時間が15分だけだったりと、初めての経験に戸惑いながらも頑張る八軒がユーモラスに描かれてます。

 

元々お人好しで頼まれたら断れない八軒は、劣等生の常盤に勉強を教えてやったりと優しい性質なのですがそれ故弱い者を切り捨てたり見過ごす事ができません。

鶏や牛や豚の世話をする農業高校では産卵成績が悪い鶏は食肉用に淘汰され、牛も豚もいずれは食肉となるために飼育されています。

そんな経済動物への割り切れない思いにかられた八軒は「ペットじゃないんだから名前なんかつけちゃだめだよ!」と言うクラスメートの反対を押し切り子豚に「豚丼」と命名してしまうのです。

 

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(引用元 荒川弘銀の匙」より)

 

 

この漫画は八軒の成長物語であると共に、北海道の酪農家を実家に持ち自身も農業高校を卒業した作者ならではの農業高校生たちの青春グラフィティなんです。

 

しかしはっきり言ってこれはくさい汚い気持ち悪いの3Kですやん。

それでも彼らは明確な目的や夢を持ってるだけじゃなく、専門的な知識もちゃんと勉強してて実に真面目に取り組んでるんですよね。

若い人達が真摯に頑張ってる姿は本当にいいの。

農業の後継者の深刻な問題ってよく聞くけどこんな高校生達がいたら日本の農業の未来も捨てたもんじゃないよと思うほどです。

エゾノーの先生達もおおらかで素晴らしいです。

伸び伸びとした校風の中で農業体験をする事により人間性が高められ自主が育まれるんですよね。

 

なにより広大な敷地面積を持ち自然豊かなエゾノーでは美味いものだらけなのです。

ゴミ拾いで見つけた石窯(フツーこんな物は落ちてない)で、冷凍ピザしか食べた事がないと言う生徒たちの為に八軒が開く羽目になったピザ会では、小麦粉からトマトからチーズからベーコンまで全ての食材がエゾノー産という自給率の高さ。

石窯の修理も薪の調達も生徒の力でやっちゃうというね、すごいのね農業高校。

戦になったら籠城できるね。

 

農業の現実は厳しい 

野球部で活躍する駒場の家が借金が返済できず大切な牛を売り離農する事になり、駒場は退学すると八軒は知ります。

クラスメイトは他人事ではなく、どの農家も借金や苦しい経営に悩んでいました。

自分が口を出す事ではないし、出してもどうにもならないとわかっていても駒場に関わらずにいられない八軒。

駒場が学校を退学しアルバイトで家計を助けようとする後ろ姿や荒れた手が、八軒はずっと忘れられないんです。

そして365日休みなく(生き物相手の酪農には休日はないのだ)働いて小さい子供まで駆り出されて、それなのに大学に進学するお金もない位稼ぎが少ないという農家の経営の仕方はおかしいと率直に言います。

八軒はサラリーマン家庭に育ちましたから、農家の当たり前が八軒には通じずその為彼の周りの人達は今まで考えた事もなかった問題に一石を投じられたりするのです。

 

綺麗ごとではなく、でも今置かれてる状況を仕方ない事だと諦めるのではなく悪戦苦闘しながらも一生懸命に悩む八軒の姿がとてもいいのです。

命との触れ合いや仲間との結束や寮生活など、普通科に通う高校生では決して経験できない事がたくさんあります。

この作品は休載が重なりなかなか話が進みませんが、作者は気にせずじっくりと描いて欲しいなあ。

タイトルの銀の匙ですがエゾノーの食堂の入り口には「銀の匙」が飾ってあるのです。

欧米では初めての食べ物を銀のスプーンで食べると一生食べるのに困らないと、出産祝いに銀のスプーンを送るんですよね。

どんなに不景気になっても食いっぱぐれる事はない農家の子はある意味「銀の匙」を持ってるようなもんだと言う記述がありますが、生きる事は食べる事なんですよね。

どんなに情報化社会が発展してもやっぱ基本は農業って事でしょうか。

 

 

サブカル勃興史 すべては1970年代に始まった 中川右介

2010年代に入ってからウルトラシリーズ仮面ライダーガンダム、あるいはベルバラ、ポーの一族などが40、50周年を迎えている。逆算すれば分かるが、これらの大半は1970年代に始まったのだ・・・・

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本書は1970年代を、「当時のテレビ番組の視聴者でマンガの読者だった者」という視点から「サブカルの勃興期 」だとしています。

それぞれの作品が生まれるまでと、誕生して、どう受け入れられ、どう派生していったかの歴史が客観的に書かれています。

またアニメ作品がどの制作会社が制作し、当時どのテレビ局で何曜日の何時から放映されたか、放映期間はいつからいつまでで何回放映されたかまで調べてまとめた労作でもあります。

取り上げられている作品は

第一話 静かに生まれた国民的キャラクター「ドラえもん」(1970年)

第二話 ウルトラシリーズの再出発「帰ってきたウルトラマン」(1971年)

第三話 石ノ森・東映ヒーローの誕生「仮面ライダー」(1971年)

第四話 スーパーロボットの出現「マジンガーZ」(1972年)

第五話 少年も読む少女マンガ「ポーの一族」とベルサイユのばら(1972年)

第六話 アニメ新時代の幕開け「宇宙戦艦ヤマト」(1974年)

第七話 ニュータイプのアニメ「機動戦士ガンダム」(1979年)

と誰でも知っている有名な作品ばかりです。

 

藤子不二雄にも不遇時代があった

70年代に子供時代を過ごした作者は当時の記憶からこれらの作品の歴史を書いていますが、こんな経緯があったんだと新たに知る事実には興味深い物があります。

ドラえもん」が広く知られるようになったのは1979年にアニメが放映されて以降なのですが、それ以前の十年間はひっそりと小学館学年誌(小学一年生から六年生まである)で連載されていただけでした。

60年代に小学館では「週刊少年サンデー」が創刊されてサンデーで好評なものは学年誌にも連載するという流れがあった頃、藤子不二雄は「オバQ」の大ヒットを飛ばします。

ところが「オバQ」の視聴率がまだ好調だったにもかかわらず、スポンサーの不二家から「オバQ」の菓子類の売り上げが落ちてきたので、打ち切りにして新しいキャラクターを作るよう求められたと言うのです。

子供向けテレビ番組がスポンサーやキャラクターグッズの玩具メーカーのご意向には逆らえないという構図は、もう既にあったんですね~

やむなく藤子不二雄は「パーマン」の連載を始めます。

その後も「怪物くん」「21エモン」「ウメ星デンカ」など有名作品を編み出し十分にヒットしているにも関わらず「オバQ」がヒットし過ぎたため「あまりヒットしなかった」という印象となり「藤子不二雄はもう古い」となってしまったというのです。

70年代、「オバQ」の大ヒットは過去の話で、もうサンデーからお声のかからなくなっていた藤子不二雄小学館学年誌だけが残された活躍の場となり藤本弘はコツコツと描き続けていたのです。

小学館学年誌を読んでいた子供だけがその面白さを知っていたという「ドラえもん」が紆余曲折あってアニメ化されるまでの複雑な経緯が面白いです。

 

少女マンガの歴史は「手塚治虫」に行き着きその原点は宝塚歌劇なのだ・・・⁉

さてアニメや特撮と次々紹介されますが、あくまでも時系列を追ってまとめた物でもありますので作品の内容については触れられておりません。

誰でも知っている作品とはいえ、70年代にヒットした理由があるはずですから内容についても当然触れているものと思っておりましたのでそこはちょっと残念。

 

少女マンガからは萩尾望都の「ポーの一族」と池田理代子の「ベルサイユのばら」が取り上げられています。

「花の24年組」と呼ばれそれまでの少女マンガとは一線を画する文学性の高いマンガを描いた萩尾望都の「ポーの一族」と「少女マンガで歴史ものは受けない」と言われた中フランス革命を描いた池田理代子の「ベルサイユのばら」は、時代を象徴する傑作である事は間違いありません。

そして、この二人が手塚治虫の影響を受けマンガ家を目指した事も事実ではあるのですが、手塚治虫宝塚市出身で宝塚歌劇団のファンだったから、少女マンガの原点は宝塚歌劇だという結論はいささか乱暴ではないかな。

当時のマンガ家で手塚治虫の影響を受けていない人なんているのかな。

この2作品が宝塚で上演されているからと言って、ちょっと無理やりつなげようとしてるようにも思えました。

まあ手塚治虫の偉大さは誰もが認める所ではありますが。

 

その手塚治虫によって始まったテレビアニメの歴史ですが、それを塗り替えた人物が「宇宙戦艦ヤマト」のプロデューサーである西崎義展でした。

 

イスカンダルは遠かった

西崎義展という人は70年代半ば虫プロに入社しその辣腕ぶりで手塚治虫からは全幅の信頼を寄せられるようになります。

ところがクリエイターとしては天才だけど経営手腕のない手塚は、西崎との間で不明瞭な契約を結んでしまうのです。

まあよく読まずに何かの譲渡契約書に捺印しちゃったらしく、最後には西崎を忌み嫌ってたらしいです。

西崎はやがて「宇宙戦艦ヤマト」のプロデューサーとして名を馳せ 、これまでは「テレビマンガ」と呼ばれていたのが「アニメ」と言う名称で呼ばれるようになります。

宇宙戦艦ヤマト」はテレビで放映したものを再編集して劇場公開したら大当たりしたり、主題歌も大ヒットしたりと多くの点で画期的でした。

しかし作品自体の素晴らしさとは別に、松本零士との著作権裁判とか何かと問題が多いのは西崎がすこぶるダークな人物だからです。

そして人気絶頂でやめときゃよかったのに、ビジネスとなってしまって延々と続編が作り続けられる事になります。

ファンというのは有難い物で、確かに熱心なヤマトファンがいるのかも知れませんが、なんかウンザリする。

 

特撮と子供向けアニメに限定されてて「サブカル」のすべてとは言えないと思いますが、様々な大人の裏事情が知れて楽しい一冊ではあります。

が、取り上げている作品にムラがあって作者の子供時代の思い出話を聞かされてるような気になってしまうのがちょっとね。

 

  

ゴールデンカムイ17巻 野田サトル 孤高のスナイパー尾形百之助

 

ゴールデンカムイは明治時代末期の北海道が舞台です。

「不死身の杉元」という異名を持つ日露戦争帰りの杉元佐一とアイヌの少女アシㇼパが網走監獄の死刑囚が隠した莫大な埋蔵金を探す壮大な物語です。

 

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ロシアに密入国する為にウイルタ民族に変装して国境を越えようとしたキロランケ、尾形、白石、アシㇼパの四人組はロシアの警備隊の待ち伏せにあってしまいます。

人のいいウイルタの親父さんが頭を撃たれ、瞬時に尾形は相手側に手練れの狙撃手がいると判断します。

橇の向こう側に身を隠しながら、いきなり樺太の国境守備隊に襲われるなんておかしいと不信を抱く一行。

その時キロランケが立ち上がり、狙撃手が狙っている中を堂々と血を流して倒れたままの親父を助けに行くという無茶な事をします。

ロシアの観測手が「早く撃て!」と言うに、狙撃手は狙いをつけたまま引き金を引きませんでした。

その隙に尾形が撃った銃弾が観測手の腹に命中します。

おのれ日本人め!とはならないのね。 

 

ロシアVS尾形 狙撃手対決

観測手が撃たれても冷静沈着なロシアの狙撃手は「頭を狙えたのにわざと腹を撃ったのは足手まといにして我々から逃げるためだ」と分析します。

尾形も優秀だけどこのロシア人もすごいんだね。

仲間が撃たれても精神を乱したりはしないのが本物らしい。

森へ逃げ込んだトナカイ橇の痕跡を見つけ待ち伏せて狙撃しようとしますが尾形は撃ってきません。

尾形は尾形で相手が撃ってくるのを待っているのです。

ここから対峙したままじっと動かない二人。

一発でも撃てば自分の居場所が確定してしまいますから一撃必殺じゃないとね。

もし仕留めそこなえば次は自分が撃たれちゃうから。

緊張感がすごい。

 

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【引用元 野田サトルゴールデンカムイ17巻」より】

 

 

ゴルゴ13始めスナイパー的キャラクターは数多おりますが、この尾形百之助も凄腕スナイパーです。

狙撃手って漫画じゃスマートでカッコよいイメージだけど実際はあまりにも危険すぎて捕虜にさえなれないってなんかの本で読んだ事があります。

他の捕虜と違い狙撃手は「こいつが仲間を殺したんだ」ってバレバレだから敵からの報復を受けて酷い目にあわされて殺害されてしまうそうです。

「獲物が姿を見せるまでひたすら息を潜めて待ち一瞬の好機を逃さず一撃で仕留める」という狙撃手の在り方はまさに獲物を狩る狩人そのもので、極めて偏執的で特殊な人間のように思えます。

中には狙撃手は卑怯な人種だと考える人もいるのです。

この狙撃戦に尾形は勝利しますが、尾形もまたその抜群の射撃技術を仲間から畏怖される一方で嫌悪されるという特異な存在なのです。 

 

旅順攻囲戦で何があったか

尾形の出自は複雑なのです。

元第七師団長花沢中将が芸者に産ませた子供で、本妻との間に男子が出来た事で母子は捨てられたのです。

ロシアンスナイパーとの狙撃戦に勝利した際尾形は疲労から熱を出してしまいますが、頭部から血を流す腹違いの弟勇作の幻影を見ます。

この弟君は妾の子である尾形を兄様と呼んでくれる優しい青年だったのですが、尾形は「両親から祝福され愛されて育った子供の行く末だ」と自分とはまるで違う動物を見るようでした。

尾形は日露戦争後鶴見中尉の指示で、当時第七師団長だった父を割腹自殺と見せかけて殺害しています。

その際、父に捨てられ頭が変になっていた母をあんこう鍋に殺鼠剤を入れて殺害した事、203高地で勇作を狙撃した事を告白しています。

旅順攻囲戦は司馬遼太郎の「坂の上の雲」でも描かれた難攻不落と言われたロシア旅順要塞を日本軍が攻略し陥落させた戦いです。

中でも203高地の争奪戦は熾烈を極め日露戦争を象徴する激戦地でした。

この戦闘は空前の死傷者を出し両軍の将兵の鮮血で染まった壮絶な様子が作中でも描かれてますが、尾形はこのどさくさに紛れて弟を後ろから狙い撃ちしてるんですよ。

変態揃いのゴールデンカムイですから特別尾形だけが異常者には見えませんが、これはかなりイカれてます。

殺した相手に対する罪悪感をまったく持たない兄を、兄様にもきっとわかる日が来ますと抱きしめた弟。

高熱に浮かされ朦朧とするなかで尾形の頭の中にはそんな事が浮かんでいたのです。

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【引用元 野田サトルゴールデンカムイ17巻」より】

 

 

尾形が師団長の妾の子である事は公然の事実であって出自が卑しいとして侮蔑する者もいましたが、それだけじゃなくてやっぱやな奴だったんでしょうね。

抱えてる物が重すぎて人と馴れ合う事が出来ないんだろうな。

本当は愛に餓えているのにそんな事さえ気付かぬ程、尾形の心は空っぽなんです。

それが逆にどんな相手でも躊躇なく引き金を引けるし、心理戦では圧倒的な強さを発揮してきたんですよね。

狙撃手は孤高なものですが、そこに人としても孤独な面を絡めて尾形というキャラクターはうまく創られてると思います。

 

魅力的な登場人物とアイヌ文化の目新しさ

 小さい頃家族旅行で北海道に行って何も知らずに入ったアイヌ民族博物館だと思うんですが、資料館で見た写真とかムックリの音が子供心になぜかとても怖かったのです。

今見るとユーモラスにも思えるその音が、当時の私には「耳なし芳一」の話と同じ位怖くて2大怖い物でした。

ゴールデンカムイの時代、日本はまだとても貧しい時代でアイヌには偏見や差別を受けたつらい歴史があります。

でもこの作品で描かれるアイヌ大自然の中で生きる術を持つとても明るくて面白い人たちです。

アイヌ文化をここまで描いた漫画は恐らくなかったろうし、登場人物もそれぞれ魅力的で17巻になっても勢いを失いません。

キロランケやウイルクの過去のとてつもない罪も明かされ、ますます目が離せません。

 

  

呪術廻戦 東京都立呪術高等専門学校 0巻

わたくしここ数年「週刊少年ジャンプ」はなんとなくコンビニで立ち読みしてたのですが、「呪術廻戦」はとても面白くてまたジャンプを毎週買うようになったのです。

0巻は現在連載中の「呪術廻戦」の前日譚です。

本編では名前だけで謎の特級の人だった乙骨憂太を主人公にした呪術高専2年生たちの物語です。

 

 

 

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16歳の乙骨憂太は自分の死刑を望んでいました。

未成年を完全秘匿で死刑執行しようとかあり得ない状況に大人が陥るほど乙骨はヤバい少年でした。

彼は自分に憑く怨霊「里香」に怯え苦しんでたのです。

呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ。

呪いを祓うために呪いを学ぶ学校「都立呪術高等専門学校」の教師・五条悟は乙骨を高専で預かる事にします。

高専に転入してきた乙骨のクラスメイトは本編でお馴染みの、禪院真希・狗巻棘・パンダの三名です。

真希と棘の紹介があったからパンダが何者なのか説明があるかと思えば、パンダはパンダだけでした。

一番欲しい説明がなかったとオドオドしてる乙骨。

一方、三名は思わず臨戦態勢を取るほどの凄まじい呪いが乙骨に憑いているのを見て愕然となります。

 

 

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【引用元 芥見下々「呪術廻戦東京都立呪術高等専門学校0巻」より】

 

 

乙骨に憑いてる里香ちゃんというのは、6年前に不慮の事故で亡くなった少女で二人は結婚の約束をするほど仲良しだったのです。

そんな可愛い少女がなぜにグロテスクな特級過呪怨霊となってしまったのか。

「憂太と大人になったら結婚するんだあああ」てな感じで死後の肉体から抜け出した負の感情は強大な呪いとなり乙骨に取り憑いてしまったわけなんです。

いやー子供と言ったって女やね~

だから乙骨をいじめる奴には里香ちゃんの呪いが発動してしまい、乙骨の意志とは関係なく圧倒的な力で呪い殺されてしまいます。

その為本人は気弱ないじめられっ子だし素人なのに、乙骨は呪術師の階級では「特級」という凄いレベルにランク付けされちゃったのです。

 

 

呪いは人間の心から生まれる

 

恨み、嫉み、怨嗟、憎悪、そんな負の感情に毒されていると人はやがて壊れてしまいます。

辛酸、後悔、恥辱、なんかいっぱい出てくるんですけど~

思えばそんな人間の悪い心は日常のどこにだって潜んでいます。

浮世に流れ出た人間の負の感情が具現化し、意志や性格を持ち人の脅威となるのです。

呪いは人間の心が作り出すのだから一番怖いのは人間なんですよね。

最もそんな事普通の人は何も知らないし、普通に人生を生きてるだけです。

姿形も見えないまま日常と非日常を瓦解させる呪いに対して無力でしかありません。

その脅威に立ち向かうのが呪術師です。

呪術高専は呪術師を育成する機関であり、呪術師の活動拠点でもあります。

 

 

 認め、認められ、友との関わりの中で成長してゆく

呪術高専に通う彼らは正義の為に戦う選ばれた人たちなのかと言うと、そうでもないみたい。

だってこの子たちの口から正義とか聞いた事ない。

皆頑張ってるけど悩みも抱えてて、覚悟を持った者だけが生き残れるんだろうな。

名門の禪院家に生まれながら呪力を持たない為に落ちこぼれ扱いされる真希は、一級呪術師になって家族にほえずらかかせたいとか言うの。

呪力を持たないって事は呪いは見えないのよ。

それでも呪術師になろうとする根性、真希さんすごいよ。

とっても勝気で口が悪いけど、乙骨から「真希さんみたいに強くまっすぐ生きたいんだ」って言われちょっと赤面しちゃったり憎めない。

この漫画は女性キャラが生き生きしてていいのです。

あと狗巻棘が個人的に好きです。

棘は呪言師で彼の言霊は強力なだけに反動も大きいのね。

ダメージがすぐ喉にきちゃうからのど薬は必携。

強さと危うさをあわせ持ってるキャラが好きなのです。

あとパンダはただのパンダだけど、一番の常識人。

呪術は多種多様で呪術師の数だけ祓い方はあります。

そんな個性的な仲間に囲まれるうちに乙骨は「誰かと関わりたい。誰かに必要とされて生きててもいいって自信が欲しい」と強く思うようになります。

そして弱気で貧弱なだったのに、傷ついた仲間を助けようと単身戦えるようになるまで成長してくのです。

 王道ですな~

 

夏油傑の野望

乙骨が仲間を大切に思うように夏油傑もまた仲間を家族のように愛しています。

しかしながら夏油が愛してるのは自分と同じ呪術師だけ。

夏油は百を超える一般人を呪殺し呪術高専を追放された最悪の呪詛師と言われています。

呪術を扱えない一般人を「猿」と侮蔑し、一般社会の秩序を守る為に呪術師が暗躍する今の世界に多大な不満を抱えています。

一般人は皆殺しにして呪術師だけの世界を作ろうという恐るべき選民思想の持主なのです。

 

 

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【引用元 芥見下々「呪術廻戦東京都立呪術高等専門学校0巻」より】

 

 

この巻は本編の前振りというよりも、これはこれで独立した作品としても通用します。

本編を読んだ事がない人でも十分面白いと思うし、本編を読んだ人はなるほどこれはこういう事だったのかと理解が深まると思います。

今海外にいるという乙骨がこれからどうやって本編にからんでくるのか楽しみです。

乙骨に毒舌を吐く真希が早く見たい。

キャラクターに感情移入できて敵キャラさえも好きになっちゃう。