
著者:トマトスープ
秋田書店ボニータコミックス
発売日:2025/4/16
舞台は13世紀のモンゴルでして、故国イランのテュースにモンゴルが襲来し捕虜となった少女が、知恵と知識を武器に第2代モンゴル皇帝オゴタイの第6夫人(何人いるんだー)ドレゲネと組んで、モンゴル帝国に復讐しようとする話です。
どうもモンゴル帝国というと「アンゴルモア元寇合戦記」のような残虐で野蛮なイメージですが、これはまた違う視点で描かれていまして、結構ビックリシタナモーな内容なんですよ。
絵柄は手塚治虫的な丸っこい可愛い絵で、モンゴルと言えば馬ですが馬もなんかめっちゃ可愛い。
怖い内容に合わない絵柄が逆にいいのかもしれませんな。
また王族の可憐な衣装は中国への影響を感じますし、宗教弾圧もされないんでモンゴル帝国って多様性を認めてたのかな?印象が変わりました。
ジャードゥーガルとは魔女・魔術師の意味だそうで、わたくし知らなかったのですが、主人公のファーティマはドレゲネの側近として実在した人物だそうですよ。
世界最大の領土を持つ大帝国を1代で作り上げたチンギス・カンですが、その死後の跡目争いがやっぱ大変だったんだよね。
彼には4人の男子がいたんですが、温厚で賢い(どんな状況でも適切に振る舞うバランサー)3男のオゴタイが後継者に指名されたのです。
ところがモンゴルでは末子相続といって最後に生まれた子どもが財産家督を相続する習慣でして、4男のトルイが帝国最大の軍事力(なんと4分の3がトルイ家のもの)を持っているというね。
権力のねじれ現象ですがな。
しかしまあ兄弟仲は悪くないんですが。(最初はね)
この作品で活躍するのが後宮の女性たちなんです。
領土拡大の為に侵攻した国から泣く泣く連れてこられ男尊女卑かと思っていたら、妃や姫ならばモンゴルでは女性でもそれなりの地位や政治力があるのです。
オゴタイの第1夫人ボラクチンはチンギス・カンの元妻で(レビラト婚とかいう財産と一緒に妻も相続する)かなり年上ですが、彼女は裏工作で政治を操りトルイを巧妙に謀殺しトルイ家の力を弱体化させます。
ボラクチンはオゴタイからあなたが自分の一番の理解者だと言われ、年上で容姿もよくない自分が第1夫人である意味を、オゴタイが光なら自分は闇になる事だと考えてるのでしょう。
なんか女心を利用されオゴタイに操られてる気がしなくもないのだがね。
トルイの死の秘密を知るファーティマとドレゲネは味方を装いボラクチンに近づき、ボラクチンは不審に思いながらも、ドレゲネを第6夫人から第2夫人に昇格させてやって様子見。
そうしてオゴタイの望み通り豊かになっていく帝国ですが、ペルシャ総督府の権益を巡るすったもんだからの、オゴタイの信任が厚い家臣イルケの家内で発生したお家騒動(妻と息子ができちまった為に息子を暗殺未遂)からの、イルケと関係の深いオイラト族にある噂が広まりましてね。
(族長がトルイと親しい)オイラト族を圧迫する為にオイラトの娘たちをすべて宮廷に召し上げるというのです。
ファーティマはこれを利用しようと企み「噂は本当だ!だってトルイをKILLしたのはボラクチンだから!」なる追い噂を流します。
・・・・・・・・うーむむ
どうも先様の策略は危なっかしくて、そんなんでダイジョブなの!?と危惧してしまうんですよね。
案の定オゴタイもボラクチンもドレゲネ&ファーティマがくさいと気づいてるぞ。
噂を流した犯人を捕えますとか言って大勢のオイラト族を連れて来て、噂ってのは真実なんてないんですから突きとめられませんよてへぺろ (・ω<)☆ なんぞと、もっともらしい事を言うさかしらさ。何なのかしらね??
しかしながらボラクチンの方が一枚上ですから、イルケ家のスキャンダルを不問にする代わりに、娘を召し上げられちゃ大変と泡食って結婚させた娘たちが罰を受けさせられ(理不尽)、宮廷の男たちに下げ渡されるΣ( ̄ロ ̄lll)ガーン ってなドイヒーな羽目に。
これでオイラト族が宮廷から離反していく事になり、彼らの怒り悲しみがやがてはこの国を滅ぼしていくかもしれないよ。
そのためならあたしたち2人魔女にでもなってやんよ!と誓うファーティマとドレゲネでした。やれやれ。
そのついでにアルグンの好きな奴隷の女の子ちゃんもペルシャへ行く兵士に与えられてしまいます。
哀れな彼女は気付いてないけど、ボラクチンの秘密を握ってるから片付けられたんだよね。
彼女を失いイルケにも見捨てられたアルグンは「自分で道を決めたのが過ちだった。奴隷でいた方がよかったのだ」と後悔し途方に暮れてしまう。
幼い頃から脳に刻み込まれた奴隷根性ってものを消し去るのは容易じゃないのですね。
でも有能な人材ですんで、ドレゲネに拾われ彼女の為に働く事となります。
ボラクチンはドレゲネを単なる野心家だと思ってるんですが、ドレゲネとファーティマの2人がよもやまさかモンゴルを滅ぼそうとしているとは思いもよりませぬ。
でもオゴタイはなんとなくわかっているかも。
のほほん顔してタヌキだね。
それから2年後、1235年です。
モンゴル帝国の国政を話し合う総会議「クリルタイ」が開催。
オゴタイ政権は盤石となりカラコルムの都が建造され始めます。
都を置いてもモンゴルの人々は季節ごとに天幕を移して暮らしてるのです。
良いわねー。
王族の天幕ともなるとめっちゃ豪華だし、クリルタイに参加する者は毎日違う衣装を競い(もちろん絹)交易と生産で国は富み治世は繁栄をもたらしました。
オゴタイの望みが叶いつつある一方で、オゴタイから次の大カアンへの示唆がありまして、南宋を仕留めた者が皇太子になれるのです。
ボラクチンには自分の子はいませんから、3男のクチュを推し、ドレゲネの子である長男のグユクが跡継ぎにならぬようにお得意の根回し。
クチュはすでに母親が亡くなってるので自分の言いなりにできると考えてるんですが、当のクチュがボラクチンの操り人形になるのはごめんだとドレゲネにすり寄り、ボラクチンを失脚させようと協力を求めて来たんですがな。
あー、再び壮絶な跡目相続の争いが!
またぞろ真相不明の謎の死者が!
あまりにも大きく強くなりすぎた帝国の後継者争いは絶えない。
怖いわー