akのもろもろの話

いつも漫画ばかり読んでた「漫画とかの覚え書帖」

不滅のあなたへ 大今良時 不死の存在が紡ぐ不思議な物語

不滅のあなたへ」は「聲の形」の大今良時週刊少年マガジンにて2016年から連載している作品です。

私はマガジンの中ではこの作品が好きです。

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【既刊9巻】

 

 

まずはこんな不可思議な話から始まります。

 

それは、初めは「球」でした。

何者かによって地上に投げ入れられた「球」。

その球体は、地上のありとあらゆるものの姿を写しとりまったく同じ形に変化する事ができるのです。

それは「石」「苔」そして、それの側で力尽きた「オオカミ」へと姿を変えます。

そして閉ざされた雪原の中で最初の人間と出会うのです。

たった一人で暮らし、外の世界を知りたいと願う少年と過ごした日々。

しかし志半ばで少年の命が尽きると、それは少年の姿を得て更なる何かを求め旅に出ます。

 

彼が次に出会った人間は「オニグマ」への生贄に選ばれてしまったニナンナの少女マーチです。

オニグマはニナンナの人たちから神として崇められている熊さんなのね。

大人になる事に憧れていたマーチは、大人になれずに死ななければならない現実に絶望しますが、儀式に現れた少年がオオカミへと姿を変えオニグマを倒してしまいます。

それを目撃したヤノメ国のハヤセは、マーチを救いに来た少女パロナと共に少年とマーチをヤノメ国へと連れ帰る事にします。

 

美しい少年なのに言葉も話せない。

がつがつ食べる姿は野生動物のよう。

オオカミに変身したり、怪我をしてもすぐに修復するし、不死身なのでマーチから「フシちゃん」と呼ばれるようになるのです。

 

しかしマーチの命は突然尽きて別れがやって来ます。

フシは彼女により人間らしさを学び、今度はマーチの姿を得て再び旅に出ます。

 

旅の途中ではヤノメ国から共に逃げた老婆ピオランと再会し、文字や言葉を教わりました。

 

フシが次に出会ったのは、ピオランと向かったタクハナに暮らす少年グーグーです。

不幸な境遇で育ち自分以外の誰かになりたいと願っていた彼は、図らずも事故で仮面の怪物のようになってしまったんです。

ピオランの元カレで酒屋を営む変人の酒爺の屋敷で、フシはグーグーから人間の暮らしを教わり、やがて二人は兄と弟のような関係を築きますが・・・・

 

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【引用元「不滅のあなたへ」】

 

 

 

一体いつの時代なのか、なんか架空の国の物語なんですが、フシが出会う人間とのそれぞれのエピソードがとてもいいんです。

なんだかね、人が生きる意味とか、生命の本質について考えちゃうんですよね。

手塚治虫の「火の鳥」みたいだなって思いました。

生命の本質とは生きる事だと思いますが、私たちの肉体は永遠ではないのでフシのように生き続けるという事はできません。

フシが出会った最初の人間である少年は、雪に包まれた国の廃墟のような集落の跡でたった一人で暮らしていました。

この少年がとても素敵な子なのね。

凍えるような雪と孤独の中でも笑顔で明るく振る舞っていて、いつも彼の周りだけが暖色に彩られているかのようなのです。

少年はここに住んでいた大人たちが目指したという楽園に自分も行きたいと願い、もっと世界を知りたいんだと旅立ちます。

少年の間近で彼の明るさ、強さ、暖かさ、喜び、悲しみといった物をオオカミの姿でフシはじっと見ているんです

彼は偶発的な怪我から、薬も助けてくれる人もおらず命を落とす事になってしまいますが、最後にフシに「僕の事をずっと覚えていて」と言い残し死んでいきます。

 

次に出会ったマーチは少女というよりはまだ幼い女の子でした。

大人になってママになる事に強い憧れを持っていたのに、生贄にされてしまい一度は逃げ出します。

逃亡中に少年の姿のフシと出会い、言葉も話せない彼に「知らない人に親切にしてもらったらありがとうって言わないとだめよ」なんて小さな彼女が自分より大きなフシにおしゃまに教える様子がとてもいいんです。

まるで優しい母親のように接し、意識も自我もなかったフシはマーチといる事で少しずつ人間らしくなっていきます。

けれども不死身で姿形を変えられるフシを狙うヤノメ国の追手から逃げる中パロナをかばって死んでしまうのです。

 

三番目に出会ったグーグーはたった一人の兄に捨てられ、人を助けようとして事故に会い顔面の深い傷を隠して仮面をかぶって生きていました。

でもちっとも陰気じゃないのね。

服も自分で着られないようなフシの面倒をみてくれて、弟のように可愛がってくれたのです。

そして料理上手でもあるグーグーから人間の暮らしとはこういう物なんだと言う事を覚えるうちに、感情が芽生え会話もできるようになり成長していきます。

人から怪物と蔑まれても大切な者のためには命を投げ出す強さを持つグーグーは、好きだった少女のために死んでいきます。

 

短すぎる命を懸命に生きた彼らは、死という概念を持たないフシの中に何か尊いものを残して行くのです。

 

これらの一つ一つのエピソードがとても切なくて感動的なんです。

 

 

 

しかしながらフシとは一体何者なのでしょうか?

 

フシは自分が知っている人物(あるいは動物)が死ぬとその姿を獲得する様になっています。

それは他人に成り代わるといった邪なものではなく、フシはその人間の記憶と共に生きているのです。

けれど彼を付け狙う敵であるノッカーによりその姿を奪われると、フシはもうその人には変身できなくなってしまいます。

それだけではなくフシの中のその人の大切な記憶さえもなくしてしまうのです。

それはまるで二度目の死のようで、忘れられて初めて本当の意味で死んでいくと言うのは私たちにも言える事なんですよね。

 

フシが黒いヤツと呼ぶ「観察者」という人物が、球体をこの世界に投げ入れその成長を観察しているというわけなんですが、はっきり正体も明かされておらずその意図もまだよくわかりません。

フシが戦うノッカーという存在も同じく正体不明であり、この二者は今の所謎のままなのでそれがこの作品を難解に感じさせているかもしれません。

 

それよりもフシが出会った人間の物語が美しく紡がれ、どんな人間と出会いどう成長したか、何を獲得し何を失ったのかといった事が主題になっています。

そこには必ず人の生と死があります。

この作品は不死身という永遠に生き続ける存在から見た人間の生と死が描かれたとても壮大な物語です。

 

人はいつかは死ぬんですよね。

人は死に向かって生きているのだと言う人もいます。

でも私たちはそれを頭ではわかっていても、普段は忘れて生きています。

そして自分の家族や恋人など大切な人の死に直面すると、死は急に身近なものとなり私たちは死というものを意識します。

その時、今を懸命に生きる事の大切さを痛感するんですよね。

 

この作品は不死身の存在が死という刺激を受ける事で、出会った人の姿を写しとる不思議な話でもあり、彼らは死んでもなおフシの中で生きています。

それは死は決して終わりじゃないんだと思わせて、私の心を安堵させるのです。