「このマンガがスゴイ!2020」
オンナ編第1位!とか
大人気5人組アイドルグループ「PURE CLUB」の不動のセンター雨宮花恋は、握手会の会場で刃物を持ったファンに襲われ怪我を負ってしまう。
グループを脱退した彼女は神山仁那(にな)という本名に戻り、髪を短く切り男子の制服を着てアイドル時代とは別人の姿で高校に通っていた。
彼女はスカートを履くのをやめたのである。
その為学校では孤立する仁那だったがクラスメイトの男子・堀内光だけは仁那の正体に気づいていた。
不登校になっている彼の妹が「PURE CLUB」の大ファンだったのだ。
アイドルの存在が部屋に引きこもる妹の心の支えになっている事を知ってた光は仁那に「アイドルになってくれてありがとう・・・」と言うのだった。
仁那は自分がアイドルを夢見ていた頃を思い出し、光に対しても少しづつ心を開いてゆく。
しかしそんな時、「PURE CLUB」の事務所に仁那の現在の姿を隠し撮りした写真が匿名で届きまして、まさかあの事件の犯人!?とみんなが不安になるなか、光が犯人と同じ「耳を掻く」クセを持ってる事に仁那が気づきまして光が犯人にされそうになるけど、仁那はこの人はぜってーちげーよっつって信じようとするっていうね。若さが眩しい。
とまあ、こんなあらすじである。
これは「りぼん」という少女誌の漫画で読者層は小学校高学年の女の子だから、絵柄が可愛いのよ。目とかパッチリで。
自分が「りぼん」の漫画を読む日が来るとは・・・
未開拓のジャンルだわ。
もちろん光くんは犯人じゃない。
けど特典会の傷害事件の犯人はまだ捕まっておらず仁那は今も犯人に怯えている。
もしかして今度犯人に会ったら自分は殺されてしまうかもしれないのだ。
ライブやネットでアイドルとファンの距離は近くなり、今やアイドルは一方的なものではなくファンとの関係性で成り立っている。
でも推しが一転して憎しみの対象に変わってしまうのはなぜなんだろう。
実際の事件が脳裏をよぎるけど、傷ついてスカートを履かなくなった元アイドルのヒロインがとっても魅力的なんだよね。
しかし若い娘がこんな危険な目にあったのに、運営は「そんなに弱くてどうするんだ」「他のアイドルだって多かれ少なかれ同じような目にあってるんだぞ」なぞと抜かしたのである。
SNSではミニスカが売りのアイドルだったから「女を使って男を釣って儲けてるんだから恨み買われて当然だろ」「嫌ならアイドルなんて最初からやるな」とかヒデー事も言われ、いったい誰が彼女を守ってやるのか。
物語はこの事件を主軸にして少女たちの悩みや孤独が描かれるが、特にキーアイテムとなる「スカート」に象徴されるジェンダー関係が真っ向から突き付けられる。
心を閉ざした仁那は、男に媚びを売る女になりたくない、弱ぶって男に守ってもらうような女になりたくないという思いで男子の姿で通学している。
仁那と対照的なのがクラスメイトの長栖未玖(みく)で、この娘は学校や職場に一人は棲息するあざといゆるふわ女子みたいな子で、男に迎合しておもねる彼女のスカートはとても短い。
その可愛さで男子には人気だけど女子には不人気で、未玖の悪口を言ってると男子からやだねーモテねー女のテンプレみたいな事を言われるし、女子をランク付けするような男子集団とかもいるし、こんなクラスで生きていけるってどんだけ強者なのだ?
順応してくのも抗うのもどっちもツラソー。
ある時未玖が変質者から太ももを触られる事件が起こるが「あんな短いスカートを履いてるんだから触られても仕方ない」「女は男に見せるためにスカートを履いてる」などと言い出す男子が登場し、仁那が思わず「スカートはあんたら男のために履いてんじゃねえよ!」とその場を圧倒する場面は印象的だ。
また、大人しすぎて痴漢の被害によく合うクラスの女子が「私さえ我慢してればいい」と声も上げられないのを見て「そうやって、自分がされた事から逃げる方が立ち向かうよりも楽だよね」と言って奮起させたりもする。
女を人としてでなく物としてしか見られない男とか、その男たちが形成している社会で女の子はどうやって生きていけばよいのか。
未玖みたいなバカ女になればいいのか、それとも仁那みたいになって可愛くねー女と言われりゃいいのか。
こういうジェンダー的テーマって決して新しくはないし、キャラが画一的で型にはまり過ぎな気もするけど、これを小学生が読んでるのかと思うとちょっと感慨深い。
「りぼん」仕掛けてきてる~
それに宝島社はかつての攻めてる感じが薄れてきたなあって思ってたけど、この1位は納得だ。
個性的なキャラクターをどんどん登場させ大風呂敷を広げたもののうまくたためない漫画も多々ある中で、重いテーマをしっかり描いてて私はけっこう好きだ。
これは仁那と光くんの恋の物語でもあるのだが、二人はお互いの人間性を認め合うような美しい関係でセツネーし。
男だ、女だという前に一人の人間なのである。
ただ読んでて最後まで違和感だったのは作者がアイドルを神聖なものとして描いてる事で、結局は夢などという甘い言葉にのせられて大人の運営に搾取されてるだけではないか程度のアイドル感しかない私にはこういうのは笑止!でしかない。
ファンはともかくとして、世間一般がアイドルに持ってるある種の胡散臭さは否めないし、どんなに大変でもみんなに夢を与えるために頑張ってるとか言われてもなんか乗れない。
多くの人がアイドルを目指し実際になれる時代だからこそ、安易な気持ちでアイドル・グループに憧れるんじゃないよと警鐘を鳴らすとかさ。
この分だとラストは様々な出来事を乗り越えた彼女が再びアイドルに復帰するんだな、って先が読めちゃうよ。