「きのう何食べた?」は2DK男二人暮らし。食費は月3万円。筧史朗(弁護士)と矢吹賢二(美容師)の食生活をめぐる物語。
メニューは「サンマのガーリック焼き」「フレンチトースト」「レタスしゃぶしゃぶ」「鶏手羽先のポトフ」etc・・・
いいねえ映画化。見に行こ。
さてさて秋も深まる頃、シロさんの両親は住み慣れた我が家を売り払い、老人ホームへと引っ越したのであった。
両親がかわいがって面倒見てあげていた近所の子供も随分大きくなってて、別れを惜しんで挨拶に来てくれた。
一向に孫の顔を見せない息子の代わりにかわいがってたこの子たちだって、成長して大人になっていくのだ。
シロさんは二人の寂しさを噛みしめる。
自分たちの先行きを考えて、ゲイの息子をあてにせずに元気なうちに老人ホームへ行く選択をした両親。
これで良かったんだと安心する一方で、シロさんは少し複雑な思いでいた。
自分がゲイじゃなかったら実家を売却する事もなかったし、孫の顔を見せる事も出来たものね。
お母さんがシロさんがゲイだと悩んで新興宗教にハマる事もなかったし、まあ人間50年も生きてれば色んな事がありまさあ。
親の引っ越しの手伝いを終えて帰宅したシロさんは、早速夕食の支度にとりかかる。
あたしみたいにめんどくさがり屋から見ると、シロさんてよく毎日ちゃんと料理すんなーと思ってしまうんだが、なにか料理というものが、ヒジョーに大切なんだってわかってきた今日この頃のあたしである。
それは経済的だとか健康にいいとか日々の暮らしを大切にしてるとか理由は様々あるかもしれんけどね。
シロさんは悩みや苦しみがあっても、イライラや浮かない気分でも、きちんとエプロンをつけてキッチンに立ち料理を作る事でニュートラルな気持ちになれるんだよね。
贅沢な食材や高価な調味料など使わなくても、たとえ特売品やめんつゆとチューブの香辛料でも、シロさんは料理をするのが好きなのだ。
今日の献立はサンマのガーリック焼き。
オリーブオイルでにんにくの薄切りを弱火でじっくり炒めた「にんにくチップ」を、同じフライパンで筒切りにしたサンマをこんがり焼いたのに乗せる。
レモンと柚子胡椒のタレで食べる。
副菜のパプリカのきんぴらもいいな。
細切りにした黄色と赤のパプリカをごま油で炒め、味付けはめんつゆとみりんで白ゴマをふる。
あたしも最近はBBAだからこういう野菜のおかずが好みだ。
なんたってシロさんの料理は気軽に作れそうなのがいい。
しばしば感じる作者の食へのこだわりはレシピや絵の細部に渡り感じられて、ホントにおいしそうなのよね。
やがてケンジが帰宅してまたぞろ二人の楽しき夕食場面である。
ケンジはご飯を食べながら、お父さんもお母さんもシロさんみたいな頼りになる息子がいて良かったと思ってるんじゃないかなあと言う。
シロさんはそんな風には思えない。
ううん、絶対そう思ってるよ。
お客さんの話聞いてると、今って子供がずっと独身でいるって家多いもん。その中ではシロさんみたいに、お金の心配が全くないだけでもメチャクチャ親孝行な方でしょ。
シロさんは大変立派な自慢の息子です・・( ^ω^)・・・
ケンジは細やかな気配りのできる優しい人なのだ。
シロさんがはっきりと言わなくても、何を気にしてるのかがわかってさり気なく元気づける。
シロさんが作った料理を、いつだってマメに褒めて喜んで食べるし。
こんな男性はあんまいない。
ケンジは相手が何を大切にしているか、何が幸せなのか、よーくわかっているのよ。
そしてケンジの気遣いはちゃんとシロさんにも伝わっている。
ただでさえ出会いの少ないゲイが、これだけお互いを理解し合えるいいパートナーに出会うなんて稀有な事なのに、そんな感動とか微塵もない男二人の地味な日常。
この二人も既に50を過ぎてBL感なんてものもないし、最近は大きな事件もないけど、当たり前の日常に幸せがあるのは男女の愛と何ら変わらないのだ。
むしろ年齢を経て来たからこそ、何気ない日常がくれるささやかな幸せに気づくのかもしれないね。
ある日、シロさんの料理&口うるさいおかげで健康診断の結果が良かったケンジは、佳代子さんの夫に招かれて佳代子さんちでお昼ご飯をいただく事に。
うおお、ここにも家庭料理の達人があ!なぜ急にケンジが来る事になってもメチャメチャうまそうな料理をササっと作れる?もソンケー。
甘辛にんにく味の肉巻きおにぎりうまそう。
ツナとトマト の冷奴もいいね。長ネギみじん切りとゴマ油と黒コショウをきかせてツナ缶とさいの目トマトを和えるのがなんか手練れとる。
ケンジはご飯をいただきながら、佳代子さんがケンジの食べ物の好みをよく知ってる事が不思議でならない。
佳代子さんとシロさんはスーパーの特売品や頂き物を分け合う主婦(?)仲間だ。
実は一緒に買い物してるとシロさんは「ああそれはケンジが好きだから」とか「ケンジの好きなヤツだから今度作ります」とかやたら言うらしい。
もちろん本人は無意識的だろうけど、おいしい物をケンジに食べさせてやりたいと思う気持ちがつい言葉に出ちゃうんだね。
家庭料理ってのは作る人の思いがこもっていて、家族で囲む食卓には揺るぎない安心や平和がある。
シロさんとケンジのカップルは、まさに家庭料理の味わいそのものだ。
オシャレでも豪華でも粋でもないし地味で代り映えがしないけどおいしい。
もしかしたらこの作品が終わる時は 、どちらかがいなくなった時なのかもしれん。
シロさんは一人になっても料理を作り続けるだろうが、おいしいと食べるケンジの姿が食卓になかったらなんと侘しい事だろう。
ケンジだって一人になったら、自分のために料理をしてくれたシロさんの面影が目に焼き付いて離れないだろうな。
そんなさびしい結末はぜってーいやだなー。
とは言え、二人ももう50代半ば、仕事上の役割責任も最大化、親の老後、自身の健康、若い時には他人事だった問題が立ちはだかる。
まあシロさんの事だから、これからの人生設計もきちんとしてあるとは思うけど。
年を取るに従いシロさんがケンジに対して優しくなっていくのがますます感じられる。