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大人の漫画読み

漫画/「コーポ・ア・コーポ」岩浪れんじ

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(岩浪れんじ「コーポ・ア・コーポ」既刊3巻)

雨が続くと気分が滅入るのお。

もお会社も行きたくないし、なんもしたくない。

全くもってエネルギーが乏しい状態で生きてるっつーのに、人に会うとエネルギーを使うからもお誰にも会いたくない。はあ~

メンタル弱すぎ~

そんなあたしでございますが、これは上半期に読んだ漫画の中で一番好きな作品で、大阪のとあるボロアパートに暮らす訳ありの人々の日常を描いた連作集であります。

 

舞台は川の側に建つ築年数43年の古びた二階建て木造アパート「コーポ」

あれ?「コーポ」?

フツーは「コーポ○○」とかだけど、ただ「コーポ」としか描いてないのよ。

風呂なし。

お湯も出ない。

 

1話目から、このアパートの住人の山口さんつー男が首を吊って死んだ所から始まるのである。

殿山泰司に似た宮地のじいさんから「山口さんが死んだで」と知らされた、ユリ・中条・石田らアパートの住人は天井からぶら下がった山口さんを「せーの」で降ろす。

みんな無表情。

てか死体に触って平然としてるのもすごいんですけど。

ひとり住まいで家電収集癖のあった山口さんの部屋の中は拾って来た冷蔵庫やら電子レンジやらが沢山置かれ、遺体が警察に引き取られた後はみんなで欲しいものをそれぞれ持ち帰りハイ撤収。

ところが翌日、石田が「山口さんが首くくる前の日、オレんとこに金を借りに来た」と言い出す。

石田はまだ20代のガテン系の仕事現場で働く青年だ。

でも金は貸さなかった。

が、もしいくらかでも貸してたら山口さんは死なずにすんだのだろうかと石田は悔やみ始める。

それを黙って聞いてた宮地・ユリ・中条。まあまあそんな気にすんなや、そんな事はすぐ忘れる、となんだかテキトーになだめるのだった。

実はまあ山口さんはこの3人のところにも金を借りに行ってて結局誰も貸さなかったんだな。

 

そうかと言って人間らしい優しさを石田が持ってるのかと思えば、つき合う女をすぐぶん殴るDV男であった。

石田が物心ついた時からヤクザの父親は刑務所を出たり入ったりで、母親は夫が服役中は家に若い男を引っ張り込んでましてね、そんな両親を見る石田の目は冷めていた。

雨いやだねえ。

なんの保証もない日雇い労働の仕事は雨が降れば中止になる。

ポケットの中の残りの金を計算しながら先の事を考えると石田は暗い気持ちになった。

雨が上がって虹でも出たら心が晴れるのだろうか。

生活の不安や焦燥がつい女に手を出してしまうのかもしれん。

しかしなぜかこういう男に限って女にはモテるんだよね。

 

一方、中条はと言えば、コチラは働きもせずに女に貢がせていた。

中条は30代半ばの男前でいつもキチンと背広を着て何をしてるのか得体が知れぬ。

金を貰うために女に会いに行く自分を中条は惨めな存在だと卑下していた。

たとえ女を殴っても自分の稼いだ金で女に奢る石田の方がまだマシだと内心思っていた。

中条は九州のどっかの島の網元の跡取り息子で大学も出ていた。

自分はもっとひとかどの人物になるはずだったのにと考える。

こんな場所に流れ着くまでにはそれなりの出来事があったんだけどね。

人に歴史ありって言うけど、言わないかもしれないけど、どんな人にだってその人が生きて来た人生がある。

彼らの過去はけっこう壮絶だ。

這いあがりたいけど這いあがれない。

 

ユリはアパートの近くにある居酒屋で働く20代の女だ。

複雑な家庭に育ったユリは非常に無気力な雰囲気の子で、中学の時は母親の500円貯金をくすねては煙草を買ってましてね、母と弟が出かけた後の家に戻っては学校をサボり、成績は最低で先生もあきれ返るほど悪く、進路をどうするんだと聞かれその場しのぎに専門学校へ行くと言ってみたもののサボり癖は治らず、学校に行ってない事がばれて祖母の家に預けられてしまった事もある。

人から褒められた事などなかったユリが「おまえ、よう頑張ってるわ」と店長に初めて褒められ、自分の居場所を見つけたのが居酒屋「春一番」だった。

 

殿山泰司似の宮地にいたっては、一回千円で面白いものを見せるとコッソリ誘いかけるのだが、これがまた小さな蝋燭が燃え尽きるまでの間カーテンの向こうにいる女性の御開帳が見られるっていうね、アラアラいつの時代なのかしらん。ここにやって来た男子高校生が自分の母親の御開帳を見てしまう。なんだか寺山修司的昭和の匂いがして来ましたわ。

貧しさと情の重さとどこか泥臭くて滑稽である。

匂いと言えば、このアパートに漂ってくるのは底辺の匂いだ。

住人同士はなかよしこよしでもないし、路地裏の匂いとか、共同玄関に靴を脱いでくと盗まれるから靴は部屋まで持って行くとか、外に置かれた共同の二層式洗濯機は洗濯物が盗まれる可能性があるから洗濯中は見張っているとか、銭湯行くのが面倒な時はシンクで頭を洗うとか、タバコのおばちゃん(この人もアパートに住んでる)と呼んでる頭のおかしい中年女が煙草を一本出して取りかえっこしよと言ってきたり、こんな暮らしは嫌だなあ。ちょっと虚しい。

なのにここに暮らす人たちはどこか飄々としてふてぶてしくておかしみがあり、困った事に否定し難い不思議な魅力があるのだ。

なんかみんなが好きになっちゃう。 

物語はこの4人の主要人物と彼らに関わる人とを主人公にした群像劇の構成になってる。

各話は時系列ではなく過去の出来事に遡って描かれるから時代もまちまちだ。

しかしまあ、這い上がりたいと思いながら何ら努力するわけでもなし。

彼らから感じるのは諦観であり日々を流され生きるだけだ。

生きるって、人生なんてそんなもんだって諦観しながら淡々と生きてる。

じっくり読んでると人生の機微が味わい深い。

じわじわと続いてほしいんだよなあ。