akのもろもろの話

大人の漫画読み

漫画/「おかえりアリス」押見修造

押見修造またもや問題作か!?

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(押見修造「おかえりアリス」既刊3巻)

美少女になって戻って来た”慧ちゃん”

亀川洋平・室田慧(ケイ)・三谷結衣は幼稚園の時からの幼なじみだった。

同じ中学に進んだ3人は部活動も同じテニス部で、洋平は次第に三谷に恋心を抱くようになっていた。

洋平ったら慧からオナニーのやり方を教わりましてね、三谷の姿を想像しながらオナニーする事を覚え、なんかもお毎日頭の中がボーッとする一方だったんですのよ。

その日もボーッとしてて手ぶらで帰ってきてしまい学校にカバンを取りに戻ると、なんと三谷が慧に告白している場面に遭遇してしまったのだ。

ショックを受けた洋平は翌日から慧を無視するように。

ところがところが、そうこうしてるうちに慧は突然、父親の仕事の都合で北海道に転校してしまったのである。サヨナラも言えずに・・・

 

さて、中学を卒業した洋平は都立高校に進学、三谷も同じ高校なのだが、あの出来事の後に慧が転校してから洋平は三谷と話せなくなってしまった。

なのに頭の中では三谷へのエッチな妄想が膨らむばかりで悶々と中学生活を送った反省から、俺は高校では変わるんだその為には三谷とつきあうんだと決心していた。

しかし入学式の日、洋平と三谷の前に思いもかけない人物が現れる。

それは髪を長く伸ばして女子の制服を着た慧だった。

しかもそうとう可愛いんだぜ♡

慧はクラスの自己紹介でこう話す。

「僕は一応男ですが、男はもう降りました」

中学時代はかっこよくて女子からキャーキャー騒がれてたくらいだからねえ、女の子の姿も似合う。

いやもう女の子にしか見えないんだからクラスもざわつくってもんだ。

だが穏やかでいられないのが洋平と結衣だ。

よもやまさかそんなあの慧ちゃんが・・・なんで??

慧は自分の変化を洋平にこう説明する。

「男はこうだ」

「男なら当たり前」

って言われてること 僕にとっては全部違った。

まあもっと単純に言えば この方が僕に似合うって思ったからそれだけだよ。

そしてこうも言うのだ。

自分は男を降りたけど、女になりたいわけじゃないから。って。

なにもうわけがわかんない。

三谷でオナニーしてたんだろ?って股間を触わろうとする慧に、ビックリして真っ赤になって拒絶しながらモヤモヤしてしまう洋平。

一人暮らしの慧の部屋に3人で再会パーティーを開くも、ひどく気まずくて、結衣は「どうしてそんな風になっちゃったの?あんなにかっこよかったのに・・・」と泣き出してしまう。

すると慧は「あんなの僕じゃなかった。今の僕の方が僕は好き」と言って、三谷にキスしてくる。

それを見た洋平は泡食って制止するが、今度は自分がキスされてしまうのだ。しかもかなり濃厚なのを。

ウーン、もうね。性別を超越した慧ちゃんに二人は翻弄されっぱなしなのである。

 

とまあそんなわけで、「別冊少年マガジン」で連載中の「おかえりアリス」でございますな。

この3人は幼なじみと言っても、「洋ちゃん」「慧ちゃん」と呼び合ってる男子2人に対して、結衣は「三谷」と苗字で呼ばれちょっと距離がある。

なんだかこの微妙な距離感が思春期だからこそって感じでうまいよね。

だいたい押見修造という人は中学生くらいの子を描かせると実にうまいんだよね。

性への芽生えとか大人になってく不安や戸惑いだったり、大人から見れば滑稽なくらいに本人は真剣に悩んでいるものだ。

そして男子の成長とオナニーは切っても切れないものなのだなと妙に納得。

しかしなんだろか。

どうにもこの男子1人に女子2人っつー関係性に既視感があるなあ。

「惡の華」の主人公の春日高男をめぐるクソこじらせ女子の仲村とマドンナ佐伯とのすったもんだや「血の轍」では静一をめぐって圧倒的毒親の静子ママに対立する中学生女子の吹石ちゃんとか、どこかで見た感じが否めない。

いや十分に面白いんだよ。

面白いけど、振り向いてくれない慧への腹いせに洋一とつきあいだす結衣の、洋一を束縛しようとする姿に、静一を支配しようとする静子が思い出されるしで、真新しさを感じないのはしょうがないよね。

なんとしても押見先生は思春期ネタが描きたいんだ。

子供でも大人でもないこの不安定な時期の事を、人は大人になると存外忘れてしまう。

なのに押見修造だけはいつまでたっても鮮烈に思春期の懊悩を描き続ける。

こういうのが作家性というものかしらん。

ちょっと病気かもしれないけど、作画も構成もキャラも魅力的で抗えない。

それにしても慧ちゃんはなぜ男を降りたのだろうか。

いったい慧ちゃんの身に何があったのだろう。

どうしてそんなに変わらなければならないのか。

あっけらかんと男は降りたと言いながら、誰よりも傷ついているのじゃないか。

二人を翻弄しながら自分自身のセクシャリティを探しあぐねているような気がするのだ。

彼の(彼女の)存在感が人を惹きつけるから、思春期の性に戸惑う洋平と結衣はうろたえ心乱れるばかりだ。

そうだよね。こんなの異常事態だもの。

巻末には作者自身の「性欲」に対するあとがき漫画が掲載されていて興味深い。

作者が感じていた男らしさへの劣等感やいっそ女の子になれたらという願望を抱いた事などが率直につづられている。

また作中で、女の姿をした慧を侮蔑する男子生徒が「こんな変態は道具として使うにはよくね?」という問題発言もあって、男の性欲を鋭く見つめている。

 

ただいま3巻まで発売しております