30代の若さで何故に終活を???
それは伯母さんの孤独死から始まった
山口鳴海(35才・独身)は都内の美術館で学芸員をしている。
子供の頃、鳴海にはバリバリのキャリアウーマンで優雅な独身生活を送る憧れの伯母さんがいた。
ところがその伯母さんが、よもやまさかの孤独死したのだ。
その衝撃の死にざまに、鳴海は己の未来を暗示されたかのように感じる。
なにしろ鳴海ったら趣味はアイドルだし、最近マンションを購入し念願の猫を飼い始めたし一人暮らしを満喫してたから、これまで結婚にはとんと興味がなくノンキそのもの。
孤独死を恐れた鳴海は、なんか短絡的に婚活を始めちゃうんだよね。
そこに登場するのが、同僚で官庁から出向中の年下エリートのナスダくんで「結婚すれば将来安心なんて発想は古い」と誹謗されましてね。
「子供が老後の面倒見てくれるとか、もはや都市伝説ですよ」って、もお名言じゃない?
人生何も考えてない鳴海をあきらかに見下してて、まるで馬鹿扱いなのだ。
そこで鳴海は決意する。
一人で生きて、一人で腐って死なないために潔く生きよう、って。
実はナスダくんのツンデレ振りは、鳴海にホの字だったわけ。
鳴海にお近づきになりたくてアイドル好きを装ったら同担と勘違いされ同志に昇格しちゃったり、ノンキで無知な鳴海を指南する辛辣な終活マスターになったりして、ラブコメ調で笑わせる。
だがナスダくんは最近の若者の典型だ。
公務員という安定した職につき、大学を出るために借りた奨学金の返済があるから消費はしないし内向きだ。
この人たちは好景気というものを一度も経験した事ない世代だ。
彼らは幼少期から社会や経済の暗い部分をずっと見て育ってきたから、漠然とした将来不安みたいのが強い。
いつどうなるかわからないと感じているからこそ、若くても冷静で堅実なのだ。
その点鳴海の場合、サラリーマンの父親にずっと専業主婦の母親と子供二人大学に行ってるし対照的な家庭なんだよね。
とても恵まれてるんだけど、鳴海はそれが普通だと思っている。
その結果、危機感ゼロに育ってしまった。
貧困女子とか老後破産なんて聞いても、危機感がないから当事者意識が持てない。
ナスダくんのように明日は我が身と考える人は対策を考えたり準備をしている。
彼みたいな人の情報や意識は更新されるけど、鳴海みたいな人は古いままでアップデートされない。
だから、結婚すりゃいいんだろうなどと古い発想をしてしまうのだ。
そういうのはあたしたちのお母さんたちの時代だよね。
今の日本は横這いどころか確実に貧しくなっている事を認識しなくちゃね。
そうして、そんな更新されない人って、自分の古い常識で「今の若者はつまんないよ」とか平気で無神経な事を言うのだ。
ぬううあたしも同類だなあ。
若い人を批判するのはやめよう。
老後一人でも金があれば大丈夫なのか
まそんなわけで、伯母さんの孤独死にショックを受けて人生を見つめ直す主人公が秀逸だ。
孤独死という重いテーマだけど、基本ギャグ漫画なので笑える。
いや、なんか笑えない。
考えさせられる。
若い頃には自由だと思っていても、誰だって年を取るし、孤独や不安になる。
一人で生きようとするのは決して間違いじゃないし、結婚しない人生を選択する人もいる。
日本は未曽有の少子高齢化である。
介護サービスはすでに10兆円産業で、今後ますます高齢者向け事業は拡大していく。
だから老後一人でも、それを利用する金さえ持ってれば大丈夫だろうと思ってた。
でも金の問題だけじゃなかった。
孤独死した伯母さんの一番の敗因は、イケイケの若い頃に調子こいた挙句、老後に孤立してしまった事だったのだ。
周囲の人とのコミュニケーションの大事さを痛感した鳴海は、弟夫婦と疎遠にならないようにしなければと考える。
でもこれまで接点がなかったのに、急に弟の嫁にお節介な子育てアドバイスをLINEで送ったりして逆に嫌われてしまう。
まあ仲良くできるなら前からやってるよね。
老後のために周囲と仲良くしようなんて企んでみても、行動が不自然だったり、いらん事を言っちゃたりして、かえって孤立しちゃうかもね。
自分の終活その前に親の終活
いざ自分の老後に向き合ってみたら、終活するという事は親に終活をさせる事だと気づく。
これは慎重にやらないとね。
普段帰っても来ないくせに、急に家を片付けろだの遺書を書けだの言われたら、親だって素直に聞けんよ。
えっ、もしかして自分の老後の前に親の老後の金も必要なの?
この鳴海の問いには、鳴海の同僚で老親を抱える独身の親友によって、親の老後の金は親に出させるのが鉄則とハッキリ否定している。
どんなに心苦しくても自分が老後破産に陥らないために、親の老後の金は親の金を使うべき。
だからこそ難しい課題だけど親に終活を考えてもらいたいと伝えなきゃ。
なのに父親ときたらなんにも考えてないくせに頑固で人の話なんか聞きゃしねえ。
そのうえ母親が密かに熟年離婚を考えてるらしい気配に暗雲が漂う。
いやあ孤独死について考えさせられますな。
孤独死ってのは、一人暮らしの人がある日突然即死するわけじゃないらしい。
孤独死する人は「希望」つまり「生きる意欲」を既に失ってる人が多いんだって。
どうでもよくなってるから健康になど気をつけないし、見た目も気にしなくなるし、風呂にも入らない、トイレに行くのが面倒だからペットボトルにしたりオムツで生活する。
引きこもりだから体調が悪くなっても病院にいかないし頼る人もなく、孤独の中で助けも呼べずに苦しんで、死んでも気づかれない。やだなあ
孤独死けっこう!どうせ人間死ぬときゃ一人だぜ!とかうそぶいてた気も萎える。
そしてそれ以上に問題なのは、死んだ事がいつまでも気づかれずにいて、遺体が腐乱して強烈な死臭が漂い始める頃には、部屋の中は大量の虫がわき凄惨な現場になってる事だ。
遺族はただでさえ後片付けが大変なのに、家主から損害賠償とか請求されたらヤバイ。
残された人に迷惑をかけないためにも、死んだあとの事なんて知っちゃいないぜと言わずきちんと考えておこう、と思った。
「ひとりでしにたい」と言うタイトルは、孤独死して腐って発見されないような死に方をしようという意味なのだ。
そのためには終活をしておくことが大切だ。
しかし35才で終活なんて早すぎるだろうと思ったが、そう思うのは人間が古い証拠なのかも。
今の時代だからこそ独身者なら早めにしておくことがいいんだって。
だってなにしろ死はいつ来るかわからないけど確実にくるんだもの。
3巻まで出ております