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大人の漫画読み

漫画/「チェーザレ 破壊の創造者」惣領冬実

ルネサンス期に活躍したイタリアの英雄チェーザレ・ボルジア。歴史の闇に埋もれた真実を調べるため、ダンテ学者の原基晶を監修者に迎え、本邦未訳のG・サチェルドーテ版の伝記を翻訳しながら精査を重ね描かれた歴史漫画。

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(惣領冬実「チェーザレ破壊の創造者」全13巻)

チェーザレ終わったってよ!!

このところモーニングをチェックしてなかったもんで、先月発売された13巻を購入したら堂々完結!とあってビックリしました。

もおビックリついでに1巻から読み返しましたよ。

あたしがこれを読む以前のチェーザレ・ボルジアの乏しい知識って言ったら・・・なんだっけ、カンタレラっていうボルジア家秘伝の毒で人を殺すとか弟殺しとか妹を犯したとか、なにやらヤバイ男・・・ぐらいの物でして、実際何をした人なのかよく知りませんでした。

ヤバイって便利な言葉ですよね。

危ない時もヤバイだし、最高な時もヤバイだし、かわいい時もヤバイだし、変な奴の事もヤバイ奴だし、たった3文字でなんでも表現できる所がヤバイです(どうでもよいですな)

 

さて、13巻はローマ教皇選がそのほとんどを占めています。

一室に枢機卿たちを閉じ込めて、次期教皇を多数決で決めるまでは部屋から出さないというなんか強引な選挙方法コンクラーベ

枢機卿23人が寝食を共にしながら(世話役として付き人二人が同行する)3分の2の得票者が出るまで投票を繰り返さねばならないルールなんですが、とうとう4回目の投票へと突入します。根くらべだ!つって。

現在でも行われているコンクラーベですが、内部の様子などは絶対見る事はできませんので、これは非常に興味深く読みました。

当然ながら美しくもないオッサンばかりの絵面が続きますが、なんでか変な髪型の人が多くてチョットおかしい。

でもみんな表面上は穏やかそうな顔をしてるんですが、裏に回れば時期教皇の座を巡り泥沼の権力争いなのです。

ボルジア派と対立するローヴェレ派の他に中立派もいるわけですが、派閥争いは混迷を極め、裏取引が激化するわ、ボルジアは自分に票を入れてくれたら娘のルクレツィアをやると誘惑したり、マジ聖職者とは思えぬ醜い戦いなんですよ。

そんな中で、ナポリとの同盟を選んだ兄のせいでボルジアと対立する立場になってしまった我らがジョバンニですが、もう悩んじゃいましてね、でも若者の純粋さでやっぱボルジアに投票したいと言い出すんですが(チェーザレに世話になったもんね)付き人からアータは名代なんだから兄の支持に黙って従ってればいいんですよっ!って怒られてしまうというね。

だがしかし!!それぞれの思惑が錯綜する第4回投票は、ふたを開けて見れば皆ボルジアに票を入れてまして、つまり彼は巧みな権謀術数で対立派を切り崩し中立派も吸収していたわけですが、最大のライバルのローヴェレまでもが負けを見越してのヨイショでボルジアに票を投じていたのです。

ええー!?じゃあジョバンニは??

ジョバンニはただ一人その流れに乗れず孤立してしまっていたわけで、そのジョバンニが最後の投票者です。

完全に読みを間違えて、ボルジアに投票したらフィレンツェの将来はないとジョバンニに強く迫った付き人は、この世の終わりとばかりにもう倒れちゃいそう。

 

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ジョバンニの最後の1票は・・・

 

ボルジアに入れてましたー!

満場一致となり「これは奇蹟だっ。まさに神の啓示だ!!」と一斉にざわめくんですが、実に劇的な場面でした。

ジョバンニは葛藤しながらも最後は人としての誠を貫いたんでしょう。

それが結果的によかったね。

彼はメディチ家のボンボンですから、まったくもって世間知らずで頼りなかったんですが、苦悩は人を成長させるものですねえ。

てなわけで、チェーザレの父ロドリーゴ・ボルジアが第214代教皇アレクサンドル6世となるわけです。

その影には出来る息子チェーザレの企てがあったり、殺しても死にそうにないローヴェレの厚いツラの皮と執念にビビったり、ジョバンニがローマを追放になったり、アンジェロがメディチの特使としてチェーザレの所へ送られ、スポレートで休養中のチェーザレとめでたく再会したところでいつしか完結していました。

 

思えば連載がスタートしたのは2005年ですが、最初の頃はコンスタントに新刊が出てましたが、近年は次巻が発売するまで何年もかかっていました。

1巻では1491年でしたが、漫画あるあるで13巻での時間軸は1年しか経過していません。

漫画化に際しての時代考証をきちんと行い、歴史的な建造物や歴史上の事件を正確に描写しようとすれば、やっぱそれ相当の時間がかかっちゃいますよね。

たとえばシスティーナ礼拝堂はミケランジェロの最後の審判が有名ですが、チェーザレの時代にはまだ描かれておらず天井には満点の星空が描かれていたそうです。

 

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1491年当時のシスティーナ礼拝堂の復元想像図

 

こういうのを忠実に再現描写しようってんだから、これはねえ、当時の文献を調べて検証したりと大変な時間と労力が費やされてますよ。

それになんと申しましても美麗で細緻な絵柄が素晴らしいです。

時代はそれまでのキリスト教体制の変容と改革が呼び覚まされ、北イタリアで頂点に達したルネサンス文化とコロンブスの大航海が始まろうという壮大な歴史的背景の中にチェーザレの青春はありました。

怜悧で美しい貴公子チェーザレはもちろんのこと彼を取り巻く登場人物たちも個性的で生き生きと描かれています。

視点人物であるアンジェロの目には、チェーザレと側近のミゲルが主従を超えた平等な友情関係を築いているように映ります。

でもミゲルは彼が望むからそのように振る舞っているだけだと言います。

それならなぜミゲルはチェーザレから離れないのだろう。

ある時チェーザレはアンジェロに「生まれた場所も肌の色も言葉も違うのに自分たち以外の人間や宗教を排除しようとするのは間違っている。世界は混在していて当然なのだから」と語ります。

チェーザレは君主制に生きる人間でありながら、真の自由とはどういう事なのか天性で理解していたのです。

自由とは場所に存在しているのではない。

真の自由は人の心の中に存在するのだ。

アンジェロはチェーザレの魅力と彼の側にいる事でミゲルは解放されているのだと気づきます。

 

監修の原基晶氏の巻末の解説は、これはもう歴史のお勉強でして。

またこの時代の人々がどんな服を着て、どんな物を食べ、どんな家に住んでいたか、細部に渡り丁寧に描かれていて飽く事を知りません。

たとえばミゲルの服装を見てください。

 

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まだボタンなどはなく紐のようなものでとめられています。

ズボンも紐で上着に結び付けています。ベルトとかないんだね。

股間はなんか袋みたいなものが・・・(笑)

 

そしてアンジェロはジョバンニ邸に招かれた時、マッケローニというナポリやシチリアでしか手に入らない珍しい料理をご馳走になりました。

 

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フォルケッタ(イタリア語でフォーク)使いずらそうです。

歯が2本しかない。

 

破壊の創造者とは、中世の既成概念を破壊して新しい世界を創造する者という意味でしょう。

パパが教皇になってこれからが面白いのに、チェーザレ教皇庁をぶっ壊すって言ってたやんけ、ここで完結とは返す返す残念でなりません。

しかしまあここまでは完成度の高い作品を描いたんだから、生きてるうちに完結する気がしない漫画と言われるよりはいいかもしれません。

それでチェーザレは何をした人なのかって?

だーかーらー

それを描く前に完結しちゃったんですってば!

 

紙版は13巻以前は中古しかなくプレミアがついて高いのでkindleがよいですよ

 

漫画の後はコチラを読むといいんじゃないかな